モヤモヤの原因は「利益第一主義」と「個人能力の比較」起業家や一人社長こそ知っておくべき、業績を伸ばす企業が取り入れているウェルビーイング経営とは?〈慶應大学大学院教授・前野隆司〉
個人の幸せを追求することで結果的に仕事のパフォーマンスも向上するという「ウェルビーイング」の考え方とは?慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授・前野隆司さんにお話を伺いました。
ウェルビーイングの第一人者、幸福学の専門家の慶應義塾大学大学院教授・前野隆司さん。今ウェルビーイングの考え方が注目されています。幸せを追求することで仕事のパフォーマンスも向上。個人事業主にとってのウェルビーイングの使い方とは?
プロフィール
慶應義塾大学大学院SDM研究科教授前野隆司
目次
モヤモヤの原因は「利益第一主義」と「個人能力の比較」
昭和、平成は社内ポジションが幸せの源泉
日本の従来の考え方は、ビジネスがうまくいくと収入が入ってきて「幸せ」になるという考え方だったと思うんです。社員もお給料のために働く。あるいは組織の中でよりよいポジションを獲得するために言われたことだけを行う。その結果、会社でそれなりにポジションを取って給料を増やすというのが昭和~平成にかけての発想でした。
しかし、そこに会社員の罠があります。自分のポジションについて他人と比較すると悩んでしまい、自分に満足できない状況になるわけです。「あの課長が嫌い」「派閥が違うから出世コースから落としてやる」といった自分の評価を一番に考える傾向があったように思います。
ウェルビーイングの実践率がたった5%のワケ
私はさまざまな企業でウェルビーイングの話をしていますが、実際に取り組んでいるのは日本でわずか 5%にすぎません。認知度も含めて、アメリカに比べて 10 年~30 年遅れている印象です。なぜそんなことが起こってしまうのか。その大きな理由が「利益重視」の考えがあるからです。
日本の会社の 9割近くがいまだに利益が大事だと感じているでしょう。社員は誰もが歯を食いしばって苦しくても利益を出そうと頑張っているなか、会社から「幸せと利益が大事」といくらウェルビーイングを言われても、目の前の現実は違う。社員としては「社員の幸せが大切なんて言われても、会社の利益が出なかったら俺たちクビになっちゃうんじゃないの?」と不安を覚えてしまうわけです。
社員の幸せが利益を生むことに気付かない経営者
ウェルビーイングを実践するのは企業、経営者の決断が必要になります。しかし、社員を幸せにすると、利益が出るということに経営者が気付いてない。従来型のままでウェルビーイングを実践しようとするんですね。利益を出せは幸せになれる、ポジション争いに勝てば幸せになれるという構図の中では、ウェルビーイングとは相反するので難しいのです。
幸せを数値化すると創造性3倍、生産性 1.3 倍、ミス・離職率も低下
単なる「ハピネス」だけではないウェルビーイング
「心身の健康」「心の豊かな状態である幸福」「社会の良好な状態をつくる福祉」、これら 3 つを合わせたものがウェルビーイングです。楽しい、嬉しいといった「ハピネス」の感情だけではなく、やる気、思いやり、チャレンジ精神、理念や夢に賛同する心、利他性などにも関係する心の状態を指します。
モノの豊かさから心の豊かさへと時代の要請が変化し、ウェルビーイングが注目されるようになりました。ビジネス・組織や社会、そして人生を根底から変える、それがウェルビーイングです。
幸せとエンゲージメントの関係にはエビデンスがある
ウェルビーイング思考になると、自分の幸せがなにかを考え、自分の幸せを獲得したうえで物事を考えるようになります。幸せな気持ちで仕事に臨めるため、仕事への意欲やエンゲージメントを高める効果があります。エンゲージメントとは、社員が自発的に会社に貢献したいと思う意欲です。エンゲージメントを高めると、離職率の低下、顧客満足度の向上、業績アップにつなげられます。
研究によると、幸せな人は不幸せな人よりも創造性が 3 倍高いという研究結果があるんですよ。そのほかにも、生産性が 1.3 倍高い、離職率が低い、欠勤率が低い、ミスが起きにくい、視野が広い、リーダーシップ能力を発揮しやすいなど、いろんな効果があります。幸せな状態だと仕事ができるというエビデンスがかなり積み上がってきてるんですよね。
徹底した合理主義だからこそアメリカでウケる
アメリカは徹底した合理主義です。だからウェルビーイングがここまで浸透しているんです。特にシリコンバレーあたりではウェルビーイングのほうが圧倒的に成果を出せるとわかったから、こぞって取り入れているんです。
ウェルビーイングの取り入れ方
子連れ出勤を OK にしたソウ・エクスペリエンス
体験ギフトを制作・販売関するソウ・エクスペリエンス(SOW EXPERIENCE)という会社があります。そこは子連れ出勤 OK です。みんな子供を抱っこしたり、子供をあやしたりしながら働いています。日本の会社もそういうところは増えています。社員が幸せだと感じた結果、ソウ・エクスペリエンスの業績も上がったようです。
世界一幸せな場所を目指した積水ハウス
住宅メーカーである積水ハウスは「『わが家』を世界一幸せな場所にする」をビジョンにしています。ビジョン実現のためには従業員の幸せが一番であるとし、「積水ハウスを世界一幸せな会社にする」を掲げました。同社では、社員 2 万 7,000 人について働く人の幸せ不幸せの 14 因子のトップについてアンケートを取っています。
調査の結果、営業所・工場・販売部門・入社年次別・役職など、それぞれの幸福度が判明しました。これらの結果は部署にフィードバック。幸福度が低い部署は「どうすれば幸福度が向上するのか」話し合ってもらい、逆に幸福度の高い部署は社内報に載せ、取り組みを再現できるよう共有したのです。それらを繰り返すことで、幸せのサイクルが生まれます。
「生産性を高めて幸せを得る」から「幸せになることで生産性を高める」という時代がすぐそこに来ていると言えるでしょう。
取材・写真/I am 編集部
文/今崎人実
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この記事を書いた人
- 「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。
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