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人生を変えるI amな本在宅ワークの悩みは「名もなき家事」。在宅仕事の達人・フリーランスならではの仕事と家事の両立方法に納得!

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家事代行、家政婦に依頼する前にできることがある! 在宅ワーク、フリーランスの仕事効率を高めるコツは家事と仕事の両立。無限に生まれる名もなき家事をどうしたらいいか、フリーランスイラストレーター・カワグチマサミさんの驚きの解決方法。

私たちを苦しめるのは「名もなき家事」

在宅でデザイナーをしている兼業主婦の太田トモコさん。出版社に勤務する夫・シュンタさんとの間に、二人の幼い子供がいます。


家庭は円満ですが、家事が多すぎるのが、トモコさんの目下の悩みです。


ある日のこと、トモコさんは、近所の神社のフリーマーケットで木箱を買います。いかにもいわくありげな箱を開けると、そこにはあやしいメモ(?)らしきものが……。

……という出だしで始まるのが、今回紹介するカワグチマサミさんのコミックエッセイ『名もなき家事妖怪』(幻冬舎)です。本書は、木箱を開けたことで招来された陰陽猫・安倍ニャン吉の協力のもと、太田家の人々が団結し、家にはびこる妖怪を退治するというものです。


妖怪の正体は「名もなき家事」。家族に直接的な危害は加えませんが、放置しておくと家の雰囲気が悪くなるという恐ろしい存在です。これを退治するには、その家事を処理する以外にありません。例えば、「ホコリマイチル」という妖怪。これは、家具の隙間や、高いところに潜んでいて、普通の掃除機では対処できません。これには、ハンディワイパーなど使い、上から下へと駆除するしかないのです。

ニャン吉の霊力で見える化されてしまった、あまたの魑魅魍魎(ちみもうりょう)。それに翻弄されて、時短家電に目覚めたり、夫婦仲が険悪になったりなど、ホームドラマが展開しながら、名もなき家事の実践的な対処法を学べる、というのが本書のコンセプトです。


原作者は、漫画家のカワグチマサミさん。太田家は架空の家族ですが、カワグチさんも、名もなき家事と奮闘し、克服するまでに長い年月がかかったそうです。家事シェアがうまくできず、夫とすれ違って家庭崩壊しかけたこともあり、その中で得られたノウハウや気づきは、同じ悩みを持つ人たちの学ぶところが大。その一部を、ちょっと紹介してみましょう。

言うほど簡単ではない「家事シェア」

これまでは一家の家事を、ほぼ一人で担ってきたトモコさん。家族のメンバーに家事シェアを提案し、みなの了承を得ます。しかし 1 週間後、その分担がほとんど守られていないことに愕然とします。

ニャン吉は、「家事分担をすることでうまく家事を回す家族もおるけど、うまくいかない家族もおる…」と言います。家事シェアは、すべての家庭で有効というわけではないようです。


作者のカワグチさんも、家事シェアに挑んだ時期がありましたが挫折。誰が何をするかを細かく決めすぎたのが敗因ですが、そうしたルールはハッキリ決めない方が合っていたと分析します。とは言っても、分担しないで気づいた方がやる方法では、互いに相手任せに……。
考えた末に取り入れたのが次のやり方でした。

「やってもいいかな〜」と思える家事はやる、「これだけはやりたくない!」と思う家事はやらない、にしようと話しあいました。
例えば、私はおしゃれ着洗いの衣類を洗うのは苦手なので、夫が週末にやることが多いです。
夫は、「前世で敵同士やったんかい!」ってくらい段ボール箱を解体することが嫌いなので、
私と息子がやるようにしています。(本書 42〜43p より)

結果、その人には乗り気でない家事は、別の人がやってくれるサイクルが回りました。おかげで自然と相手に感謝でき、ストレスも減り、他の家事をしようと思えるようになったそうです。

家族がやらざるを得ない状況を作る

普段は在宅で仕事をしているトモコさん。グルメ雑誌の仕事で 3 日間の出張となり、珍しく家を空けることになりました。つまりこの間はトモコさんなしで、残る家族で家事をこなさなくてはいけません。


ニャン吉は、「だからこれはいい機会なんや! ママさんがいない3日間に名もなき家事妖怪を退治する力をつけるんや!」と激励しますが、一抹の不安が……。


不安はおおむね的中。シュンタさんは名もなき家事妖怪の退治に追われるも、さしたる成果もないまま 3 日目を迎えます。帰宅したトモコさんは、妖怪の多さに一瞬驚愕するも、心の裡に気持ちを引っ込めます。

カワグチさんは、これに関連して「主婦の方は、罪悪感を抱いていることが多い」点を指摘します。

働きに出たいけど、子どもを保育園に預けたら寂しがるかも。
夫の方が稼いでいるから、無理してでも私が家事をがんばらないといけない。
周りのお母さんたちに比べたら、私はできないことばかり。(本書 102p より)

カワグチさんも、罪悪感にとらわれていた時期がありました。しかし、その気持ちに蓋をしてしまうと、「望んでいない未来」になっていたと述懐します。大事なのは、「本当に伝えたい気持ち」を家族に伝えること。仕事を広げたいなら、罪悪感なしにそのことを打ち明ける。
そうすることで、カワグチさんは、絆を深めることができたと語っています。


家事については、家族のメンバーが「やらざるを得ない状況」をあえて作ることがすすめられています。出張や友人と一緒の旅行、少し体調が悪いときなどを一つの機会と捉え、家族が本気で家事に向き合うきっかけを作るのです。

素直な気持ちをシェアする重要性

出張から 1 ヵ月後。トモコさんは、新たな仕事で夜までパソコンに向かう日が続き、シュンタさんも仕事で帰宅が遅くなりがち。当然のように家事は溜まっていきます。それがもとでいがみ合う二人……。

結婚記念日の自宅でのディナーにも、シュンタさんは仕事のトラブルで早くに帰宅できず、夫婦のすれ違いは深刻になるばかりです。


その様子を見た二人の子供が立ち上がります。「家庭平和」のために、名もなき家事妖怪をやっつけることにしたのです。ニャン吉は、子どもにも退治できる名もなき家事妖怪を出現させ、子供は一生懸命に取り組みます。見違えるようになったリビングを見た夫婦に、子供は仲直りを促します。

「家事シェアをする前に家族の素直な気持ちをシェアすることが必要やねん」と説くニャン吉。夫婦は、自分たちがなすべきことをようやく自覚するのです。


カワグチさんは、家事シェアができている夫婦は、「お互いに元から器が大きい」か「一度本気でぶつかって向きあった」のどちらかのパターンだと言います。トモコさんとシュンタさんはは後者のパターンで、カワグチさんもそうでした。夫婦といえども、元は他人。家事を含め、価値観がマッチしないことも当たり前にあるもの。それに直面するのを怖がったり怠ったりするから、夫婦仲はこじれるのです。この点について、カワグチさんは次のようにアドバイスしています。

なので私は、できるだけ夫と穏やかに価値観のすりあわせができるように、ネガティブな気分のときは、話し合いをしないと決めています。
なぜなら、イライラしながら夫に話しかけても、ただケンカして終わることが多いから。
言葉はキャッチボールです。怒りのまま激しい感情をぶつけると、同じような球が返ってきて、結局は自分が傷つきます。(本書 154p より)

トモコさんのストーリーはまだ続きますが、紹介はこのへんで。家事をめぐる単なるドタバタ家族劇でなく、家事シェアの進め方や家庭内コミュニケーションのコツなど、同様の悩みを持つ方には、気づきは多いはず。興味をもたれたら一読をすすめます。

《カワグチマサミさんのインタビュー記事》

この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

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