Interview
インタビュー

あの人に聞きたい I am的「好きなことを仕事にし続けるために必要な5つのこと」「大変を感じられる今が幸せ」というイッセー尾形の役者人生

ログインすると、この記事をストックできます。

フリーになって10年の節目のイッセー尾形さんに「好きを仕事にし続けられた5つの理由」を聞きました。

プロフィール

俳優イッセー尾形

俳優
イッセー尾形(イッセー・オガタ) 
1952年2月22日、福岡県生まれ。高校を卒業後に演劇活動をスタート。81年に「お笑いスター誕生」(日本テレビ系)で金賞を受賞。85年に映画「それから」でスクリーンデビューを果たした。テレビ、ドラマ、映画、舞台など幅広く活動するほか、執筆活動も行っている。2016年には、マーティン・スコセッシ監督がメガホンを取った映画「沈黙-サイレンス-」に出演した。現在放送中の月9ドラマ「PICU 小児集中治療室」では医師に扮している。2023年春にはドラマ「大河ドラマが生まれた日」(NHK総合)の放送が控えている。

俳優のイッセー尾形さんが12月22~24日に東京・有楽町朝日ホールで「イッセー尾形一人芝居 妄ソー劇場・すぺしゃる vol.4」を上演する。ことしはフリーになって10年の節目の年。公演では、独立をした2012年から続けている「妄ソー劇場」の中から選りすぐりの作品と、完成したばかりの新作ネタを披露する。稽古の真っ最中と語る、イッセーさんにI am 的「好きを仕事にし続けられた5つの理由」を聞きました。

イッセー尾形さんに聞いた「フリーで好きを仕事にし続けられる5つの理由」

フリーで10年続いたのは神様の仕業!?

10年前に事務所を離れて、フリーになりました。風呂掃除をしていたときにふと「あぁ、オレは自由になったんだな」ってこみ上げてくるものがありました。それからの10年を見てくれた人から「枠にはめられている感じがなくなったね」と言われるので、自分も事務所も窮屈だったのかなって。気づかないうちに「こうあらねばならない」など、課していたものがあったんだと思います。フリーという選択をして、それが全部なくなりました。10年続くなんて思っていませんでしたが、還暦を過ぎて、「神様はこういう選択をするのか」と思います。いまとなっては「神様にしかできなかった選択だった」と言えます。

続けたというよりも、表現をやめなかっただけ

フリーになると決めたものの、自分の舞台なんかないですから最初は何をしようかなって。始めたのは粘土を使った人形作りでした。誰に見せるとかじゃなくて、「何かを作りたい」という衝動を形にしていきました。書くよりも、人間の形をした人形を作ろうって。最初に作ったのは「ミイラくんの冒険」。砂漠の背景を書いて、起きてしまったミイラを作りました。眠っていたのに起きてしまって。もう1回寝ようとするんだけど、もう眠れない……。公演会場のロビーには、これまで作った人形たちも並べますので、楽しみにしていてください。

フリーランスになって最初に作った「ミイラくんの冒険」

濃度の高いネタを生み出せたのはフリーランスになったから

フリーになる前は、ネタを作っては発表してという生活を送っていました。いまはそこまで忙しくはないので、作って、また作って……と時間をかけられるようになりました。絵を描いて、翌日にながめたら「ここは違うな」と、直すことってありますよね。ネタも同じ。一週間ぐらいしてから、見直してみると「今度は、こんなところに気を取られるのか」と感じる。そうしてまた赤ペンを入れる作業をしていると、時間が僕の演出家になっているように感じます。「砂糖水を飲みたかったら、砂糖が溶けるまで待たなくてはいけない」*とある哲学者が言ったことがあるんです。僕はこの言葉がとても好きでね。濃度が高いネタを書きたいと思うならば、時間をかけることが必要なんです。*フランスの哲学者・ベルクソンの言葉(編集部注)

女房とのくだらない話が「好き」を支えてくれている

女房と二人であちこち現場に行きますからね。病気になった時もそうだけど、支えになっています。いまも、僕は稽古中でいっぱいいっぱいになっているんですけど、車で帰ってくる途中とか、女房とくだらない話でも会話をすると休まりますね。どうっていうことない会話なんですが、その時間が僕にはとても大切。本当にお世話になっています。

「大変」を感じられる今こそが幸せ

例えば建設現場で働いている親方は、基礎から作った建物を完成形として見ることができますが、僕らがやっている演劇は出来上がりを自分たちで見ることができません。演じたものは瞬間瞬間で消えてしまうもの。だから困難だと感じる時こそ、女房がよく言う「大変だと感じるいまが、幸せなのよ」という言葉を思い出しています。いまが幸せなんだと思い込んで、これが醍醐味なんだと考えるようにしています。

「フリーランスになって『自由になった』と思った」

<インタビュー>「イッセー尾形一人芝居 妄ソー劇場・すぺしゃる vol.4」 12月22日から東京・有楽町で公演

「『規則の中で自由を見つけて押し返していく力』を描いていくのが僕の仕事

ーー文豪の作品をベースにした一人芝居が10年を迎えました。

イッセー尾形:はい。10年前に長く仕事をしていた演出家、事務所を離れて、どうしようかなと思っていたときに、「夏目漱石をテーマにした一人芝居をしませんか」というお話をいただきました。「それから」「明暗」など、みなさん主人公については詳しいと思うので、小説の中で描かれた副登場人物について、主人公とこんなやりとりをしていたのではないか。こう考えていたのでは?など、想像を膨らませて行ったのが、「妄ソー劇場」でした。

――文豪の作品を、違う視点から読み解いたことで見えたことはありましたか。

イッセー尾形: 10年前、フリーになった当時は、それまで僕がテーマとして取り上げていた現代の人たちの生き方、共通点が見えづらくなっていた時期。そんな時に、夏目漱石を題材にした芝居をやらせていただく機会がありました。小説の中で描かれた明治、大正初期を生きる庶民の姿を見ていく中で、いまの時代を生きている僕らとの共通点が見つかったんです。だから、生まれたネタをカタパルト*みたいにバネにして、現代に飛び込んだというのが僕の実感です。この3~4年は、そのような視点で現代人を捉えてネタを作っています。*投石器(編集部注)

――10年間に披露された作品の中から厳選されたものを取り上げられるそうですね。

イッセー尾形:10年を振り返っていくつかパッと頭に浮かんだネタは、自分にとって深いものなのだろうと思い、今回の舞台で上演することを決めました。例えばサルトルの「嘔吐」をヒントに作った「記者会見」というネタ。謝罪記者会見なんですけど、「すいません」って頭を下げるごとに、吐き気をもよおす社長さんがいて、本当は謝りたくないんですよね。不本意なの。ネタを作った当時は、テレビを付けると政治家や経営者など、さまざまな分野の人が謝罪会見を開いていて、横並びで儀式のように頭を下げている姿が滑稽だなと思ってネタ作りをました。再演するにあたって、お辞儀の角度がよりきめ細やかになるなど、変化があるかもしれません。

「高速道路の男」の1場面

――10年の間には、コロナ禍もありましたね。作られたネタが、より深い意味を持ったなどの気づきはありましたか。

イッセー尾形:東日本大震災が起きた2011年に、「奪われた日常」という視点を持ちました。コロナ禍を経験したことで、11年前に濃い日常を演じようと決意したことを思い出しました。コロナも「コロナによって奪われた日常」がある。その視点で作ったネタはあります。

――それは新作ですか?

イッセー尾形:そうです。高校3年間をマスクで過ごした青年を描いた「メガネっ子」という新ネタです。東京の大学に進学することが決まっていたのですが、何万人も感染者がいる東京に出るのは危険だと、可能性を諦めようとしている。自分が選択したことは間違いないと思い込もうとしている。東京に出て行く仲間を華々しく見送ろうともしていて。視力が低下していたので、メガネを作りに行くんですけれども、ぼやけていた視界がメガネによって鮮明になっても、自分の心は見えないままというか……。

――コロナ禍を経験して、描きたい人物の姿はありますか。

イッセー尾形:感染が拡大しないよう、密は避けるとか、新しい規則を押し付けられましたよね。でもどんな状況に置かれても人間って生きて行くために、新しい自由を見い出していくんです。うちの孫は、マスクをしたまま、マスクの下からストローをくわえてジュースを飲んだりしているみたい。当たり前に繰り返されていた日々が壊されて、押し付けられたルールに反発する人もいるけれど、規則を受け入れた上で、生き延びる術を見い出していくのも人間。規則の中で、自由を見つけて押し返していく力も日常だと感じます。そういう人たちを描いていくこと。それが僕の仕事だと思っています。

――年明けには、イッセーさんの故郷・福岡県でも公演を予定していますね。

イッセー尾形:福岡で舞台に立つのは10年ぶりなんです。タイトルも「生きとったと!」。天神にお世話になった「イムズ」っていう劇場があって、いまはなくなってしまったんですけど。10年前にお別れ会をしてくれたこともあって。彼らに舞台を観てほしい。「まだ生きてるぞ。生きて考えて、作っている。持続しているぞ」という姿を伝えたいです。

取材・文・写真/翡翠
編集/MARU

公開情報

「イッセー尾形一人芝居 妄ソー劇場・すぺしゃる vol.4」
出演:イッセー尾形
■有楽町朝日ホール公演
日程:2022 年 12 月 22 日(木)〜24 日(土)※全3公演
主催:朝日新聞社/有楽町朝日ホール
協力:イッセー尾形事務所
運営:サンライズプロモーション東京
問い合わせ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日 12:00〜15:00)
チケット料金:発売中。全席指定5,800 円(税込)
※未就学児入場不可
チケット販売:有楽町朝日ホール

一人芝居 十余年ぶりの福岡公演 「生きとったと!」
■西鉄ホール公演
日程:2023年1月14日(土)、15 日(日)※全2公演
出演:イッセー尾形
協力:イッセー尾形事務所
運営:サンライズプロモーション東京
チケット販売:チケットぴあ(セブン-イレブン各店舗)

ログインすると、この記事をストックできます。

この記事をシェアする
  • LINEアイコン
  • Twitterアイコン
  • Facebookアイコン