白川密成のお悩み駆け込み寺 僕にもわかりませんもっと稼ぎたい!という気持ちに罪悪感を抱くのはなぜ?
読者から寄せられた働き方や仕事のお悩みに白川先生がお答えする癒しのコーナー
【白川密成のお悩み駆け込み寺― 僕にもわかりません―】
++ 今回のお悩み ++
35歳で会社を辞めて独立。
事業は順調で、法人化し会社を大きくしたいと思う一方で、
世の中的に「働くのはお金のためじゃない」「食べて行けるだけのお金があればいい」という論調があります。
日本には「清貧」という言葉もあるように、お金を稼ぐのは「悪」という見方もあるなと感じています。
しかし、私はそれをきれいごとだと感じていて、お金をたくさん稼ぐことは間違っていないと思います。
でもなぜかそれを誰かに主張したりできないとも感じており、
どこかでお金をたくさん稼ぐことに罪悪感をおぼえてしまいます。
(40代男性)
目次
白川先生からあなたに贈る言葉
「如実知自心」
お金に対する思いは人によって違う
お悩みを、ありがとうございます。内容を読んで、色々と考えさせられました。おそらく現代の社会において普遍的で大切な問いですよね。同じようなうまく言葉にできない「お金」に関するモヤモヤを抱えている人も多いでしょう。また同じモヤモヤを「抱えていない」人には、「贅沢な悩みだよ!」と言われてしまいそうなところにも、つらさがあります。
たしかに私の周りでも、「収入はよかったけれど、やり甲斐を優先させたかった」といって、収入や、肩書き、組織の知名度などを手放して新しい仕事に就いた人が複数おられます。そういう人は、相対的にみると増えている印象を持っています。この傾向はこれからも続いていくでしょう。
お坊さんである私としては、「幸せはお金では買えません。お金よりも人の役に立つ仕事をしてください」と言うとお坊さんらしい(?)と思うのですが、わずかながら会社で働いていた人間として、そうひと言で済まされない話題であることを認識しているつもりです。
そこで質問に戻ります。「どこかでお金をたくさん稼ぐことに罪悪感をおぼえます」とのことですよね。
大原則として、「人は人によって求めるものが違う」ということを再確認されても良いかと思います。先ほどあげたように、「やり甲斐」を優先したい人、安定した収入を求める人、多少リスクがあっても一発勝負に出たい人、とにかく生活できれば仕事以外に時間を使いたい人、いろいろおられますし、「やり甲斐も少し欲しいし、収入はかなり欲しい」というように思いは混じり合っています。そしてそれは当たり前で健全なことでしょう。ある人は、「私はあまりお金のことを考えたくないので、お金をある程度稼ぐことを大事にしている」と言っていました。千差万別です。
お金の使い道のイメージを膨らませる
そこで私が、わずかにアドバイスをできるとしたら、あなたは「お金を稼ぐ」ことが得意な人だとお見受けしました。これは誰にでもできることではありません。お金を稼ぐには、様々な努力やアイデア、創造性が必要であることをあなたは知っていますよね。
ですからその優れた創造性を「お金の使い方」にもワクワクしながら取り組んでみたらどうでしょうか。もうしているかもしれませんが、その割合を増やすイメージで。公私ともにお金を用いて、自分や人をうれしくさせたり、社会課題をときほぐしたりする作戦を練って、時にはそれをまた自分たちのビジネスにしていく。
あなたの持っている「罪悪感」は、「お金を稼ぐために、お金を稼いでいるだけにはなりたくないな」というあなた自身の未来を見据えた問題意識があるように感じました。そしてこの問いには、必ずしも収入が多くない人にもヒントがあると思います。「お金の使い道」のイメージは、たくさんの人がもっと持ってもいいと思います。
自分のことをもう少し知る
あなたに贈る言葉は、「如実知自心(にょじつちじしん)」という言葉です。私の修行している仏教の宗派にとっては、あまりにも大事な言葉で、「自分の心をはっきりと知る」という意味です。ある経典では、この「自分の心をはっきり知ること」こそ、さとりであるとしています。
この言葉をヒントにして、まずはもう一度、自分が「仕事」に、そして「人生」にどのようなものを求めているか、整理してみたらどうでしょうか。「お金がやっぱりたくさん欲しい」「これぐらいあれば、仕事内容の手応えが欲しい」「両方欲しいに決まってる」難易度はそれぞれですが、本当に欲しい物を整理することは、無駄な作業ではないでしょう。答えは簡単には出ないでしょう。しかし、その自問の繰り返しにも意味があります。
私の場合、「お寺を維持するためにもちろんお金は必要だけど、お金のためだけにやっていたら、お寺である意味がなくなる」と整理した時に、目的がはっきりして、ちょっと心が軽くなりました。本を書く時も同じですね。「もちろんたくさん売れて欲しいけれど、売ることだけが目的だったら、やりたくないし楽しくないしやる意味がない」と考えています。
お金をさわらない戒律
お坊さんには「お金にさわらない」という戒律が存在します。私を含めて日本に住む多くのお坊さんは、現代ではそのようなことは、ほぼないですが、戒律に厳格な仏教国では今でも守られている地域があります。海外に住むお坊さんから、「実は戒律の関係で財布を持てなくて」と告げられて、驚いたこともありました。
これは修行者に限定した話です。しかしお金が、「生活」や「うれしさ」のためにすこぶる大事なものでありながら、人の感情を暴発させたり麻痺させたりするある種の「恐さ」を持っているのも事実です。お金に対して変に構えず、「大事だし、もっと欲しいけれど、時々恐さもあるよね〜」ぐらいのフラットな気持ちでいることも大切です。
今日のまとめ
- お金に対する価値観は、人によってまったく違うことを知る。
- 「お金の使い道」について、今までよりも少し時間をかけて思いをめぐらせる。
- 「如実知自心」の言葉をヒントに、自分の求めているお金観、人生観を再確認してみる。
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この記事を書いた人
- 「ほぼ日刊イトイ新聞」に「坊さん。」を連載。その後、著書『ボクは坊さん。』(ミシマ社刊)が映画化。著書多数。他の連載に「密成和尚の読む講話」(ミシマ社「みんなのミシマガジン」)、「そして僕は四国遍路を巡る」(講談社、現代ビジネス)など。執筆や講演会などで仏教界に新風を巻き起こすべく活動中。趣味は書店で本の装幀デザイナーを当てること。1977年生。
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