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高森厚太郎の半径5メートルのビジネスモデル優れたアイデアにありがちな「見切り発車」の落とし穴

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アイデアを実現するためのビジネスモデル、顧客への価値提案のフレームワークを解説してきました。
しかし現時点でそれはまだ「仮説」にすぎません。「仮説検証」なしに優れたアイデアを形にすることはできないのです。

プロフィール

プレセアコンサルティング代表取締役パートナーCFO高森厚太郎

東京大学法学部卒業。デジタルハリウッド大学院客員教授。プレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFO。一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。

ビジネスは「仮説検証」ありきと心得る

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「これはいける!」というビジネスモデルが出来たら、一気にやってみたくなるかもしれません。
あるいは、「自分ではいけそうだと思ったけど、実際に顧客に受け入れられるか不安……」と次の行動に移せないという人もいるかもしれません。

そもそも、商品を作るにしても、サービスを提供するにしても、最初に思い描いたものが、そのままの形でうまくいくとは限りません。
小さく始めてみて、顧客の反応に応じてビジネスモデルを揉んでいく「仮説検証」を経て、「本当に顧客のニーズに合う商品・サービスができるもの」と考えましょう。

「仮説検証」は最終的にきちんと顧客に価値を届けることにつながるだけではなく、自分の時間やお金などの経営資源を効率的に使うことにもつながります。
思うような結果につながらなかったときも、スモールスタートであればコスト的にも精神的にも大きな痛手になりにくいでしょう。

ビジネスモデルに自信がある人も、そうでない人も、まずは「仮説検証」に取り組んでいきましょう。

顧客の半歩先をいく仮説をたてる

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ビジネスモデルを作る過程で顧客にインタビューやアンケートを実施した人もいるかもしれません。
しかし、顧客インタビューやアンケートと、実際にその商品・サービスを買うかどうかは同じとは限りません。

セブン-イレブンの元トップ鈴木敏文氏(元セブン&アイ・ホールディングス会長兼最高経営責任者)の有名な言葉で「真の競争相手は絶えず変化する顧客ニーズだ」というのがあります。

鈴木氏はその著書の中でも

「消費が飽和した今の時代は、消費者は商品を目の前に提示されて、初めてこんなものが欲しかったと潜在的なニーズに気づき、答えが逆転します。現代の消費者は「いうこと」と「行うこと」が必ずしも一致しない」

「現代の消費者は「いまはないもの」については答えられない」

「売る力-心をつかむ仕事術」鈴木敏文著(文春新書)

と述べています。

実際に、セブン-イレブンでは「金の食パン」(1斤250円の高級食パン)や、「こだわりおむすび」(1個200円前後の高級おにぎり)など、低価格路線だったプライベート商品の常識を覆すような数々のヒット商品があります。

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もし、発売前にアンケート調査などを行い『コンビニで高級食パンが出たら買うか』と質問していたら、「ノー」と答えられただろうと思われる商品でも、商品となって店頭に並んだ途端、実際には売れたということです。

このように、日本のトップ企業でも「顧客の行動」は重視されています。

そして、その顧客の潜在的なニーズに応えた商品開発をするために、「仮説を立てる」という仕事の仕方を紹介されています。

(参考)「売る力-心をつかむ仕事術」鈴木敏文著

顧客ファーストでエンディングが変わるハリウッド映画

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私は一時期映画業界で洋画配給や邦画製作に携わる仕事をしていました。
そこで、映画のポスター1つとっても、お客様の反応を見て決める現場を見てきました。
映画のポスターは複数のパターンが用意されることがほとんどで、ターゲット層の顧客に対して見せて、その反応からどのポスターを使うかが決まります。

ハリウッド映画など、全世界で配給される場合は、それぞれ現地でリサーチされた結果が反映されています。
顧客の反応を見る際、口頭で「どちらがいいか」質問することもありますが、例えば、瞳孔が開くか、など生体反応も含めてみていました。
(人はいいと思うものを見ると瞳孔が開くのです)

また、映画は最後どんな余韻を残すかが重要なポイントの一つ。
ハリウッドでは映画のエンディングを何種類か用意しておき、試写でのお客さんの反応を見て決める、ということもされています。「最後はお客様に選ばせる」という徹底した顧客視点の一例です。

「見て」「体験して」「心が動く」3つのサイクル

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「半径5メートルのビジネスモデル」については、どのような方法で仮説検証を行えばいいのでしょう?
顧客が示す「見て」「体験して」「心が動く」この3つのサイクルで検証する方法を解説します。

商品・サービスを「見て」もらう

まずは自分の商品・サービスが分かるものを用意して、顧客に見せる場を作っていく、ということにつきます。

商品試作品を作る
サービス説明資料やチラシを作る
両方名刺を作る、SNSで発信する

商品・サービスを一定数「体験して」もらう

仮説検証では、一人二人に説明してみたところで「反応がない」「思ったように売れない」からと止めてしまってはもったいない。サービスであれば3~5名等の一定数を一つ目安として決めて体験してもらいましょう。

言葉に現れない行動を観察「心が動く」

顧客候補に商品・サービスを説明したら、相手の言葉だけではなく、視線や手の動き、体の向きなども含めた相手の反応も見るようにしましょう。

実際に私は起業の準備期間3ヶ月で、自分が考えているコンセプトをまとめた説明資料を、会った人や顧客候補にぶつけてみました。
そこでは「顧客の反応」を読み取ることに注力し、資料や説明の内容を調整していきました。

説明や写真一つとっても、ターゲット顧客にハマれば、そこを研ぎ澄ませる。ハマらないところは引っ込めるか変えるか、といった具合です。
それを繰り返せば徐々に最適なものが見えてくる、出来てくるものです。

ビジネスモデルが完璧でなくても「仮説検証」あるのみ

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半径5メートルのビジネスモデルができたら、それが仮に完璧でなくても、「仮説検証」の「見て」「体験して」「心が動く」の3つのサイクルを試してみます。

「本当に顧客のニーズに合う商品・サービス」に近づき、自分の時間やお金などの経営資源を効率的に使っていくためにも、欠かせないステップです。
いきなり新規の顧客をつかまえて試してもらうよりも、身近な知り合いにモニターとして試してもらい、忌憚ない意見をもらいましょう。

自分の商品やサービスを「見て」もらい、「顧客候補に体験」してもらう。そして「言葉には表れない顧客候補の「心が動く」瞬間を見て仮説を修正する」。
この手順を繰り返して自分のビジネスモデルの最適な形を見いだしていきましょう。

この記事を書いた人

高森厚太郎
高森厚太郎プレセアコンサルティング株式会社 代表取締役パートナーCFO
プレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFO。一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。デジタルハリウッド大学院客員教授。東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。著書に「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」(中央経済社)がある。

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