10年前、ふんどしブームを産んだきっかけは、ダメ会社員が堕ちたどん底からの起業だった。 中川ケイジインタビュー第1話
たった30万円の資金で起業。いかにして商品をつくり、宣伝し、ブームを作ったのか!? 当時の秘策を公開します。
プロフィール
sharefun®(しゃれふん)代表中川ケイジ
充分な資金や知識、知名度がなければ手を出しにくいイメージのあるD2C(消費者直接取引)。ところが、「金なし」「コネなし」「経験なし」の逆境を、溢れんばかりのふんどし愛とアイディアと行動力で跳ね返し、「ふんどしブーム」まで引き起こした中川ケイジさん。
ただ、ブームを起こすだけではD2Cは成り立たないことを実感し、新たな展開を模索します。「こうでなければいけない」という思い込みや、「どうしたらもっと広く知ってもらえるか」という悩み、「やらなければいけないけれど、やる気にならない」という焦りなどで身動きがとれなくなったときに、私たちはどう考え、どう行動したらいいのでしょうか。
起業から10年。売り上げがV字回復した経験を元に、D2Cで必要なナレッジを伺いました。
全2話、後編はこちらからどうぞ。
目次
ブランドsharefun®設立、資金30万円・人脈ゼロで「ふんどし」がバズったワケ
「キミ、ふんどしって知ってるかい?血流を妨げないから体調もよくなるし、何しろ僕はこれをはきだしてから運気がどんどん上がっているんだ。キミもはいてみたらどうだい?」
こう言われたら、あなたはどうしますか?
僕は営業職に就いていた10年前にウツと診断され、自分自身がどん底のときにある人からこう言われ、わらにもすがる思いで着用しました。その効果はすぐに表れました。不眠で悩んでいたのがウソのようにぐっすり眠れるようになり、それを機に心身とも元気になっていったのです。
今まで見たことも触れたこともなかった「ふんどし」でしたが、僕にとっては救世主。「こんないいものが世に知られていないのはもったいない!」と思って起業し、ふんどしブランド「sharefun®(以下しゃれふん)」を立ち上げました。
今日はそんなモノづくりや商売の経験がまったくない僕が、いかにして「モノを作る」「モノを売る」「モノを知ってもらう」を行なってきたかをテーマに、10年間のD2C体験をお話します。
そもそも僕が起業したとき、会社の運営に回せる資金は30万円しかありませんでした。当然、広告費をかける余裕はありません。
「どうしたらお金をかけずに多くの人にふんどしの魅力を伝えらえるか」を考え、「しゃれふん」を立ち上げたときに、以下の3つ行動を起こしました。
行動①「ふんどし協会」を設立
行動② 2月14日を「ふんどしの日」と制定
行動③ ベストフンドシストアワードの表彰
協会を作ったのは、中立的な立場でふんどしの魅力を発信する場所、組織を作り、全国にあるふんどしメーカーをまとめることによって、業界全体の底上げや活性化ができるのではないかと考えたからです。それで「日本ふんどし協会(現在は一般社団法人)」を作りました。
なぜなら「しゃれふん」のWebサイトでふんどしのよさをうたっても、それは自社製品の広告にしかなりません。しかし、ふんどし協会を名乗れば、メディアに対してのリリースも通りやすくなります。しかも色々と調べたところ、協会自体は誰にでも簡単かつ無料で設立することができるということで、資金のない僕にとっては一石二鳥。すぐに協会を立ち上げ、協会のWebサイト作成にとりかかりました。
次に、広く「ふんどし」を知ってもらうために、記念日を作りました。日本記念日協会という組織があって、そこの審査に通って認定費として7万円(当時の金額。現在は15万円)を支払えば、誰でも記念日が作れるのですが、それにはきちんとした理由が必要です。
「ふんどし」を無理やり語呂合わせすると、
ふん=2(ふう→ふん)
ど=10(とお→ど)
し=4(し)
なんと、2月14日、バレンタインデーと同日になるのです。これは本当にラッキーでした。毎年必ず、メディアではバレンタイン特集をやります。そこで、「実は今日、『ふんどしの日』でもあるんですよ」と取り上げてもらえれば、「ふんどし」というキーワードが広く世に知られるきっかけになるわけですから。もちろんすぐに申請して、「ふんどし記念日」を制定しました。
最後に、記念日に何か話題性のあることがしたいと思い、「ベストジーニスト」ならぬ「ベストフンドシスト」の授賞式を2月14日にしたらどうかと考えました。選考基準は「ふんどしの普及に貢献した人」。ネットやテレビでふんどしをはいている著名人をリサーチし、“ダメ元”で事務所に連絡をすると意外や意外、みなさん快くOKしてくれました。
会場に関しても、「お金はないけれど、こういう趣旨でこういう人たちを呼ぶためにこの会場を貸してもらいたい」と“ダメ元”で話に行くと、「表彰時のバックパネルに会場や会社のロゴを出してもらえるのであれば」と、無償でOKをいただけることもあります。こうして無事に開催することができました。おかげさまで賞金なしで、ふんどしと表彰状を贈呈するだけの賞ですが、2012年から毎年、「ベストフンドシストアワード」の授賞式は続いています。
ちなみに、歴代受賞者は初代大賞の安田大サーカスの団長安田さんから昨年のEXITのおふたりまで、30人以上。菅田将暉さんや壇蜜さん、小山薫堂さんなど、男女やジャンルを問わず、様々な方に受けていただいています。
初期費用ゼロ円でふんどしが作れたワケ
オンライン販売と決めていたので、まずオンラインショップを作る必要がありました。ここはきちんと作り込まなければいけなかったので、プロに頼んで20万円で作ってもらいました。さらに記念日を制定するために7万円使ったので、運営資金の残りは3万円。肝心の「ふんどし」を作るための資金は限りなくゼロに近いわけです。「この状況をどうしたらいいか」と考え、これも“ダメ元”でお願いをしに行きました。
僕の知り合いで、京都に麻の生地を得意としている和雑貨のメーカーがありました。工場のラインが余っていると聞いたので「今、お金はないけれど、きっとふんどしはブームになります。売れたら売れた分だけどんどん支払っていくので、テストで作ってもらえませんか?」と、直接プレゼンしに行ったのです。
僕としても引くに引けない状態でした。協会を作り、記念日も制定して、もう「ふんどし」が一気に世の中に広がるイメージしかなかったので、一言一言に熱がこもっていたのでしょう。先方から「なんか分からんけどおもろいからやるわ」と言っていただき、初期費用ゼロでふんどしが作れることになりました。
もちろん初回のみで、次の発注以降はちゃんとお金を支払いましたが、最初の最初は “ダメ元”のお願いから始まりました。ただ、うまく行かなくても、誰も大きく損をしないような状況で進めていくことができたのは、D2Cを始めるうえでとてもよかったと思います。
念願のブーム到来も手放しで喜べないワケ
2011年12月1日に、しゃれふんのオンラインショップをオープン。「ふんどしの日の制定」と「ふんどしアワード」のもくろみはズバリ的中しました。年末に「ふんどしの日」のことが、『繊研新聞』というファッション系の専門紙に取り上げられたのをきっかけに、取材や出演の依頼がくるようになり、メディアに取り上げられると、売り上げがぐんと上がるということを繰り返すことで、なんとかやっていけるようになりました。
そして2016年、大きな転機がやってきました。TBSの『ビビット』という朝の番組で、真矢ミキさんが「しゃれふん最高!」と言ってくれたのです。その瞬間から今まで見たこともないくらいの注文が! 待ちに待った「ふんどしブーム」の到来です。
「ふんどし」を広く知ってもらうことには成功しましたが、喜びもつかの間でした。安価な類似品や、コスチューム的に販売するような同業者が出現したのです。さらに、大量に受注に追われて生産した1枚に小さな虫を発見しすべて回収、たくさんの在庫を抱えることになったのです。予想外のトラブルに追われたうえ、ブームが去ると売上がガクンと下がり、2018年には開店休業状態にまでなりました。
「原点」に立ち戻ることがD2Cに必要なワケ
すべてがうまくいかず、「もうやめたろうか」とも思いました。しかし、たっぷり時間ができたことで、「なぜふんどしを広めたかったのか」という原点に立ち戻り、ブームの中で抱えていた、モヤモヤとした思いや不安に向き合うことができました。
実際、ここまでよくやってこられたと思うくらい、売上は不安定でした。メディアで紹介されると、瞬間的にはドカンと売れますが、テレビを見て購入する人には、ほとんどリピートしてもらえず、一過性で終ってしまう。それはなぜか──ふんどしは体にどういいのかという“説明”が不足しているからだと気づきました。
僕が広めたかったふんどしのよさではなく、おもしろアイテムとしてバズっていることにモヤモヤし、消費者からしゃれふんも他の類似品と同様に見られてしまうことに不安を感じていたのです。
そもそもD2Cは、ものを作って売るだけではなく、“どんな人”が“どんなこだわりや理想”を持っているかが重要であり、原点なのだと思います。
例えば、タピオカが儲かると聞いてタピオカ屋を始めた人は今、唐揚げ屋をやっているでしょう。でも、タピオカがむちゃくちゃ好きで始めた人は、ブームに関係なく、最後のタピオカ屋となるまで続けると思います。すると、「なんでまだタピオカを?」と、俄然その店主に興味がわいてきて、その店主に会いにタピオカを飲みに行く人が出てきます。
ふんどしブームのときも、ふんどしメーカーがいっぱい出てきましたが、ブームが去るとほぼいなくなりました。なんとなく“流行っていて”“簡単に作れて”“儲かりそう”だから始めたんでしょう。でも、それが動機であれば、売れる、売れない以前に自分が飽きてしまい、ふんどし作りを続けることはできません。やはり、原点の“思い”がしっかりしていなければ続かないと思うし、逆にそこがきっちりしていれば、ピンチもすべてネタとして、セールストークのひとつになるのです。
そこで僕はしゃれふんを大きくリブランディングすることにしました。
取材/I am 編集部
写真/本人提供
文/岡田マキ
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この記事を書いた人
- ノリで音大を受験、進学して以来、「迷ったら面白い方へ」をモットーに、専門性を持たない行き当たりばったりのライターとして活動。強み:人の行動や言動の分析と対応。とくに世間から奇人と呼ばれる人が好物。弱み:気が乗らないと動けない、動かない。