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高森厚太郎の半径5メートルのビジネスモデル#08 企業も個人も、これからのビジネスに欠かせないイノベーションの考え方

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前回、ビジネスアイデアは発想力だけでなく、すでにあるものを組み合わせて新しい価値を生むという考え方を紹介しました。今回はこれからのビジネスを語る上で不可欠なイノベーションについて触れていきたいと思います。

プロフィール

プレセアコンサルティング代表取締役パートナーCFO高森厚太郎

東京大学法学部卒業。デジタルハリウッド大学院客員教授。プレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFO。一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。

ビジネスアイデアを膨らませる「イノベーション」

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新たなビジネスを考える上で押さえておくといい考え方が「イノベーション」です。
新聞やウェブメディアで見ないことがない「イノベーション」。そもそも「イノベーション」とは何でしょうか?

ウェブ上の百科事典・Wikipedia曰く「物事の新結合、新機軸、新しい切り口、新しい捉え方、新しい活用法を創造する行為のこと」とあります。

「イノベーション」というと「新しい技術の発明」と思われがちですが、実はそれだけではなく、「新しいアイデアから社外意義のある新しい価値、社会に大きな変化をもたらす自発的な人、組織、社会の変革」も入ります。

要するに、イノベーションとは「新しい技術の発明」だけではなく、「新しい組織の発明」なども含めた、もっと広い概念だということです。
つまり、イノベーションは、それまでのモノ・仕組みなどに対して新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して、会社や社会に大きな変化を起こすことを指すものなのです。

イノベーション、4つの対象

新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出す「イノベーション」。
具体的なイノベーションを考えるにあたって、下表の整理が役に立ちます。

①プロダクトのイノベーション(製品革新)新製品の開発によって差別化を実現し、競争優位を達成するイノベーション
②プロセスのイノベーション(工程革新・製法革新)製造方法や工程の改良によって費用を削減し競争優位を達成するイノベーション
③組織のイノベーション業務慣行、職場編成、対外関係に関する方法を変革することで競争
④マーケティングのイノベーション製品・サービスのデザインの変更、販促・価格設定方法、販路を変えることで競争優位を達成するイノベーション
(出所)OECE(欧州経済協力機構)のイノベーション4分類を元に著者作成

イノベーションの対象は「プロダクト」「プロセス」「組織」「マーケティング」の4つに整理できます。何でイノベーションを起こすか、このカテゴリーに当てはまるもので考えていくと考えやすいでしょう。

未熟な新技術も改善続けると、成熟した既存技術を出し抜くこともある

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一般的にイノベーションは「持続的な技術の進歩」と考えられています。
例えばiPhoneの機能が毎年バージョンアップされているように、持続的に改善されて技術は進歩していきます。

図1
(出典「イノベーションのジレンマ増補改訂版」クレイトン・クリステンセン著をもとに筆者作成)

しかし、ある製品の改善を続けていくと(=図1持続的なイノベーション)、実はマーケットの要求を越えていわゆるオーバースペックの状態になってしまうことがよくあります。

その一方で、未熟(プリミティブ)で商用にならない、誰も気にかけなかったような新技術も進歩を続けていくと、いつしか市場の要求を超えるときが来たりします(=図1破壊的イノベーション)。

そうなると、一気に旧技術は(未熟だと思われていた)新技術に駆逐されてしまう、ということが起こりえます。これはプロダクトのイノベーションにおいて起こりうる「イノベーションのジレンマ」です。イノベーションのジレンマの例として、デジタルカメラの事例を取り上げてみましょう。

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デジタルカメラが誕生した当時のフィルムカメラ市場は、一眼レフカメラのメーカーであるキャノンやニコンが強かったところ、カシオがデジタルカメラで新規参入しました。

1990年半ばに登場したデジタルカメラは25万画素。今のスマホが優に1000万画素を超えていることからも、如何に画質が荒いものだったかがわかります。性能的に全然物足りないので、フィルム一眼レフのようにまともな記念写真やポートレートは撮影できず、「こんなおもちゃを使うのはマニアだけ」と認識されていました。

ところが、デジカメの性能が発展・進歩していく中で、従来のフィルムコンパクトカメラに匹敵する画素数のデジカメが登場し、コンパクトデジタルカメラのみならず、デジタルの一眼レフカメラも登場していきます。

となると「その場で写真を確認できる」「すぐに共有できる」「加工も簡単」とデジタルカメラの方が圧倒的に使いやすい。フィルムカメラは一気に市場から姿を消しました。今やフィルムカメラの方がマニアグッズの扱いです。フィルムメーカーでナンバーワンだったコダックはつぶれてしまうし、富士フィルムはもはや化粧品の会社になりました。

このように、未熟な新技術も改善続けると、成熟した既存技術を出し抜き、既存技術を葬り去ることもあるのです。

個人での事業×技術、DX化の例をあげると、在宅秘書があげられます。

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従来、スケジュール調整や出張でのホテル手配などエグゼクティブの秘書業務は、オフィスでのface to faceコミュニケーションをベースに、フルタイムで雇用した秘書により行われていました。
しかし、現代ではgoogleやzoomなどインターネットサービスを使えば、リモートで秘書業務が可能に。つまり、オフィスでなく在宅で、フルタイムでなくパートタイムで、個人事業主が秘書サービスを受託、提供可能なのです。
キャスターやココナラなどクラウドサービスを使えば、見ず知らずの、遠方の会社や個人とのマッチングも可能です。

イノベーションを起こすには、広げるか、深めるか

イノベーションを起こす方法は大きく2つあります。

(出典「世界標準の経営理論」入山章栄著を元に筆者作成)

一つは色々な知の組み合わせを試すべく「知の範囲」を広げていく「知の探究」。
もう一つは、一定分野の知を継続して深めることで収益を生み出していく「知の深化」です。

取組みやすさでは、「知の深化」です。目の前のこと、自分の守備範囲の中にすでにあるものを改善する、持続的なイノベーションの方が取り組みやすい傾向があります。

逆説的には、既に事業があり、安定した収益を上げることが求められる企業においては、一定分野の知を継続して深めること(知の深化)に注力しすぎて、掛け合わせることができる知を外に探しに行かなくてはいけない「知の探究」は怠りがちです。

イノベーションを起こすには、知の探究も、知の深化も、継続して取り組むこと、つまり時間が必要です。しかし、会社組織ですぐに利益を生み出さないイノベーション、例えば先のデジカメが起こしたイノベーションのような、未熟で市場に相手にされない新技術を市場の要求を超えるまで改善し続けるイノベーションは、取り組みにくいものでしょう。
その意味で、私はむしろ個人の方がイノベーションに取り組みやすいのではないかと考えています。

今回は、ビジネスアイデアを膨らませる「イノベーション」について、イノベーションの4つの対象「プロダクト」「プロセス」「組織」「マーケティング」、イノベーションの起こし方「知の探究」「知の深化」、未熟な新技術も改善続けると、成熟した既存技術を出し抜くこともあることについて説明してきました。

次回は、「半径5メートルのビジネス」だからこそ、時間を味方に個人がイノベーションを起こせることを、解き明かしていきます。

この記事を書いた人

高森厚太郎
高森厚太郎プレセアコンサルティング株式会社 代表取締役パートナーCFO
プレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFO。一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。デジタルハリウッド大学院客員教授。東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。著書に「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」(中央経済社)がある。

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