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ChatGPTには書けない、自分らしい文章術・超入門論理的な文章を書くのが苦手になる理由は「観察力不足」。文章のプロが観察力と文章力を上げるコツを伝授

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文章のプロフェッショナル・前田安正氏が教える、AIが主流になっても代替えのきかない「書く力を身につける」文章術講座。第10回は「観察力と文章力を上げる方法」についてです。

プロフィール

未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正

ぐだぐだの人生で、何度もことばに救われ、頼りにしてきました。それは本の中の一節であったり、友達や先輩のことばであったり。世界はことばで生まれている、と真剣に信じています。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。

文章が下手と悩む人のための超文章入門。生成AIが当たり前になった今だからこそ、ChatGPTには書けない、自分の言葉で文章を書く力を身につけたい。朝日新聞社の元校閲センター長で、10万部を超えるベストセラー『マジ文章書けないんだけど』の著者・前田安正氏による文章術講座。今回は「観察力と文章力を上げる方法」について教わります。

文章を書きやすくするのは「観察力」

論理的に文章を書くことが重要だ、ということは誰もが理解しています。

ところが、論理的に書くには、前提があります。それは「何を書くか」なのです。これが定まらなければ、何も書けないからです。当たり前のことです。しかし「書けない」と悩む人の多くは、その当たり前を疎かにしている場合が多いのです。

そもそも社会に出てから書く文章は、ある課題が元になる場合がほとんどです。

たとえば「提案をまとめなければならない」「メールを送らなければならない」「プレスリリースを書かなければならない」「業務報告を書かなくてはならない」「業績シートを書かなければならない」など、「〜しなければならない」というプレッシャーが優先します。

そのため、書くためのモチベーションは必ずしも高くはありません。「何を書くか」を問う前に、早く仕上げることが求められます。そのうえ「論理的に書け」などと言われると、逃げ出したくなるのは、それこそ当たり前です。

それでも、否、それだからこそ「何を書くか」という課題をクリアして、文章を書く際の負担を軽くしておく必要があるのです。それは、「観察する習慣」を身につけることで、乗り越えることができます。

今回は、論理的な文章を書くために必要な「観察」について考えていこうと思います。

観察力を高める前に知っておきたい文章の基本

文章の要素を分解して流れをつかむ

次に挙げる文章を見てください。これは、「これまでで一番美しいと思った朝」について書いてもらった一例です。

【例1】

私が「これまでで一番美しいと思った朝」は、旅行先であるハワイでの朝である。それは夏休みに、大学時代の部活仲間4人で行ったハワイ旅行の、2日目を迎えた朝の出来事であった。

初日は飛行機での移動と時差で、相当な疲労がたまってしまっていたので4人ともに、宿泊先に戻るや否や、すぐさま寝てしまった。何時に寝たのかわからないくらいに疲れ、寝ていたと思う。記憶がなかった。

次に意識が戻った瞬間は、瞼にまぶしいものを感じた瞬間であった。そう、朝日によって起こされたのであった。正直、疲れは全く取れていなく、まだまだ寝ていたいという気持ちが強くあった。仕方なく起き上がり、その後顔を洗った。

ここで、そういえば海辺の近くのホテルに泊まっていたのだったということを思い出し、バルコニーへ出てみることにした。するとそこには、素晴らしく青く、どこまでも広がる景色が見えた。私は残り3人の友人を起こし景色を眺めた。

「これまでで一番美しいと思った朝」について、ハワイ旅行で見た朝を題材に書いています。しかし、「何を書きたいと思ったのか」が明確ではありません。肝心の朝が描ききれていないからです。ハッシュタグを使って、文章の要素を分解すると、

#1.部活の仲間とハワイ旅行に行った

#2.飛行機の移動と時差のせいで、すぐ寝てしまった。

#3.眩しい朝日に目が覚めた。まだ寝むっていたいが、起きた。

#4.海辺のホテルに泊まったことを思い出し、バルコニーに出た。

#5.素晴らしい景色が見えた。友人を起こして一緒に眺めた。

となります。

#1〜#4が、ハワイ旅行に行った⇒疲れた⇒朝目を覚ました⇒バルコニーに出た、という状況が書かれています。#5でようやく、素晴らしい景色が見えた、と朝の様子が描かれています。#1〜#5を通覧すると、時系列で書かれていることがわかります。

ハワイの海
ホテルのバルコニーから見えたのはこんな景色だったのだろうか

時系列で書かない

時系列は、自然現象や社会現象の時間的変化を継続して記録していくことです。これは、ものを考える手順にも当てはまります。いわば「思考の時系列」です。これが文章に反映します。

レンガを積み重ねるように順番にものを考え、それをそのまま文章にしていきます。

これでも文章は一通り書けます。ところが、ここが落とし穴なのです。

思考の時系列で書くと、読み手は、書き手の考える順番を文章で追っていくことになります。考える順番が論理であると勘違いしてしまうからです。

論理は思考の時系列そのものではありません。書くべき対象の脈絡・構造のことです。「何を書くか」が定まらない思考は、筋が通らぬまま蛇行して、肝心な部分が、流れてしまうのです。

読み手が求めているのは、必ずしも書き手が考える順番ではありません。もちろん、論文など考えの過程や道筋が重要なものは、そうした書き方が求められます。それでも、「何を書くか」が明確でない論文は存在しません。

「何を書きたいのか」を明確に示す

僕たちに求められている文章は、思考の過程ではなく、思考の先にある「結果」や「思い」です。そのために「何を書くか」を明確に示さないと、読み手はついてこられません。

例文1では、「何を書きたかったのか」が、わかりません。「なぜ美しい朝だと思ったのか」という書くべき対象が何も描かれていないからです。

単に「素晴らしく青く、どこまでも広がる景色が見えた」ということを言いたいのなら、敢えてハワイを持ち出さなくても、日本の海岸でも表現できます。

論理的な文章にするには、「素晴らしく青く、どこまでも広がる景色が見えた。私は残り3人の友人を起こし景色を眺めた」という、時系列で浮かび上がった結果(#5)について、その理由を書かなくてはなりません。「美しい」と「朝」の間に存在する脈絡を示さなければならないのです。それは、

なぜ、ハワイの朝が美しいと思ったのか。

素晴らしく青い、のは、空なのか海なのか、その両方を指しているのか。

どこまでも広がる景色に、何を思い、何を感じたのか。

なぜ、仲間を起こそうと思ったのか。

それまで見てきた朝と何が違っていたのか。

こうした、ハワイで見た朝について、答えを提示することです。

ビジネスにも有効な「観察力」を高める方法

Step1:なぜ観察力が必要なのかを知る

これらの答えを提示するには、「観察」が必要になります。

例1の筆者はハワイの景色を見ています。しかし、日常の風景を見るような感覚と変わらず「観察」がありません。周辺情報のみが書かれているため、自分がたどった時間を状況として書いているだけなのです。そのため、読後に「それで?」という疑問符を残す結果になってしまうのです。

「美しい」という形容詞は、果物で例えれば、外側から見た形状・皮の部分です。表面を見て、その形状について「美しい」と言っているに過ぎません。実は、「美しい」の内容は、表面だけではなく、その味や香りも含まれることに気づかないと書けないのです。「観察」は、味と香りを独自の視点によって引き出す作業をいうのです。

ハワイの海なら、「それまでに行った日本の海と何が違うのか」を風や潮の香りまでも観察しなくてはなりません。

Step2:観察力を鈍らせる「慣れ」に気がつく

ところが、普段そうした味も香りも経験しているのに、そこに意識が向いていません。空の色や路傍に咲いている小さな花、通勤電車での一コマ、食事中の出来事・・・。僕たちは、身近な風景になれてしまって「見ている」のに「見ていない」状況になっていることが多いのです。

車の運転でも同じです。教習所では最初、どのタイミングでウインカーを上げていいのかさえ、迷います。ところが、慣れてくると、ウインカーを上げることを意識しなくても適切なタイミングでできるようになります。特別な意識は必要なくなるのです。これが意識の自動化というものです。

慣れは、意識を自動化します。普段の生活の中で、一つひとつの行動を意識することはできません。意識の自動化は、生活をスムーズにするために必要な反応です

Step3:意識の自動化を外して観察力を高める

文章を書いたりものを考えたりする創作活動には、この意識の自動化を外さなくてはなりません。ところが、それがスムーズにできないのです。旅行にでかけて「特別な体験」をしたとしても、それを「わー、すごい」のひと言で括ってしまいます。

頭の中に浮かんだ事柄を時系列にならべても、ディテールは書けません。そのため「表現」も乏しく、読み手の想像力を刺激しないのです。どんなに特別な経験をしても、日常と同じ意識の中にいて、意識の自動化を外していないからです。

意識の自動化を外せば、たとえ日常の中に「特別」を見つけることができます。たとえば、通勤途上の歩道の脇にどんな花が咲いていたか覚えていますか? 空はどんな色をしていましたか? 自動販売機に新しい商品が並んでいましたか?

日々の通勤で、そんなことをする暇はないかもしれません。

しかし、1週間のうち1日でも、日常にある「特別」を探してみてください。

これは単に文章の書き方にとどまりません。物事をいかに観察しているかは、ビジネスにも有効です。文章を書くのも、ビジネスを創発するのも、観察が基になっているからです。観察の習慣を持つと、人の表情も読み取れるようになり、発言にも変化が現れます。

なぜなら、僕たちは、「観察」「思考」「表現」の順に頭を働かせるからです。観察から物事を考えます(思考)、そしてそれを伝える(表現)ことができるからです。

「何を書くのか」は、「何を見ているのか」ということです。「何を見ているのか」は「何を考えているのか」を導き、「何を伝えるべきなのか」に昇華します。

通勤途上の見慣れた風景の中に、週に一度、「特別」を探す旅に出てみてください。それまでのものの見方が、必ず変わってきます。「何を書くか」は、ビジネスの場でも新しい視点を養うことができます。

執筆/文筆家・前田安正

写真/Canva

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

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