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ChatGPTには書けない、自分らしい文章術・超入門文章の9割に「結論」はいらない。伝わる文章を書く人は「結論」ではなく「結び」を書いている

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文章のプロフェッショナル・前田安正氏が教える、AIが主流になっても代替えのきかない「書く力を身につける」文章術講座。第7回は「伝わる文章に必要なのは、結論ではなく結び」についてです。

プロフィール

未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正

ぐだぐだの人生で、何度もことばに救われ、頼りにしてきました。それは本の中の一節であったり、友達や先輩のことばであったり。世界はことばで生まれている、と真剣に信じています。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。

文章が下手と悩む人のための超文章入門。生成AIが当たり前になった今だからこそ、ChatGPTには書けない、自分の言葉で文章を書く力を身につけたい。朝日新聞社の元校閲センター長で、10万部を超えるベストセラー『マジ文章書けないんだけど』の著者・前田安正氏による文章術講座。今回は「伝わる文章に必要なのは、結論ではなく結び」について教わります。

起承転結の「結」=「結論」ではない

「起承転結」ということばを聞いたことがない人はいないはずです。ところがこの4字が、僕たちが書く文章に大きな呪縛をかけているのです。

それは、起承転結の「結」を「結論」だと思い込まされているからです。

今回はその呪縛から解き放っていこうと思います。

「起承転結」は、もともと漢詩の作法でした。それが、小説・随筆・日記・論文・手紙などに用いられる文章(散文)にも応用されたものです。

この時に、なぜか「結」を「結論」だというふうにすり込まれてしまったのです。

論文やリポートの類いなら、それでもいいのです。しかし、企画書など会社に提出する文書や、メール、通常、僕たちが書く文章のほとんどは「結論」を必要としていません。

伝えるべきことを「結論」と置くので肩肘を張った文章になり、収まりのいいまとめを書こうとして、概念的なことばが並び、ぎくしゃくしてしまうのです。

僕たちは学生時代に書くのは、論文・リポートばかりです。そこで「起承転結」という呪文を掛けられ、それ以外に文章の書き方がわからなくなっているのです。

改めて言います。

僕たちが書く文章の9割は「結論」を必要としていません。

ところが、エントリーシートやエッセイなどにも、まことしやかな「結論」を用意しようとして躓いてしまうのです。

「結論はいらない」理由を解説

僕はライティングセミナー「マジ文アカデミー」を開いています。ここでは、文章を書く際の「常識」を壊していく作業を繰り返します。

次の文章は、受講生の作品の第1稿です。便宜上、該当部分に「起承転結」を記しました。

タイトル:「無自覚の核」

[起]大きな窓に囲まれた広いオフィスで、コーヒーを片手に窓際のデスクに座り、パソコンを見つめるジャケットを着た後ろ姿の女性。この情景には、私の「働く」が詰まっている

[承]20年前、不況が続く中たまたま決めた進路は看護師になることだった。気が付いたら白衣姿で、輝く東京タワーを横目に病棟を駆け回っていた。

しかし白衣を着た自分は、場違いなパーティーに一人で参加しているようで心地が悪かった。それなりにお給料がもらえても効力感のない日々が、21歳の私にとってはむず痒かった。

[転]何年も模索し、いざ会社員になってパソコンに向かって働いてみたところ、これが納得して働くことかと膝を打った私の光は、あの働く女性の姿だった

やり過ごしているようでも、人は追い求めたい核を持っている

[結]回り道をし、様々な手段を選択するからこそ核にたどり着けるし、「次の核」が見付かる。そうやって、日常に埋もれる無自覚の核を追い求めて生きたい。(398字)

まず、「無自覚の核」というタイトルが、難しい。

ところが、「起」の書き方は魅力的です。「この情景には、私の『働く』が詰まっている」という表現が、筆者の働くイメージ映像として浮かんできます。無機質なタイトルと書き出しのギャップが、どう結び付いていくのかが楽しみでもあります。

「承」では、看護師として勤めたものの「場違いなパーティーに一人で参加しているようで心地が悪かった」とあります。書き手のやるせない気持ちは、この表現によって映像として浮かび上がります。

「転」は「承」を受けて、会社員として転職し、これが「納得して働くことかと膝を打った」と、成功したことを伝えています。

次の「私の光は、あの働く女性の姿だった」という表現が概念的です。「光」が何を象徴しているのかがわからないからです。

「起」のパソコンに向かう女性を「私の光」としているのかもしれません。しかし読み手は、そこまで注意深くは読んでくれません。

この辺から、書き手は独自ワールドに潜り込んでいきます。そうすると、読み手は書き手の意識から距離を取り始めます。さらに「人は求めたい核を持っている」と、急に概念的なことばが出てきます。

これが「結」への布石です。結論へ導こうとする無意識の意識が、普段の会話には出てこないような難しいことばを急に持ち出してしまうのです

そして「結」では、「様々な手段を選択するからこそ核にたどり着ける」「『次の核』が見付かる」「日常に埋もれる無自覚の核」など、どんどん概念化され、抽象度の高い文章になっていきます。

看護師をしていることに、「場違いなパーティーに参加している」ような居心地の悪さがあって転職をしたら、これがはまった。この感覚を大切にしたい、ということが言えればいいコラムです。

つまり、ここ文章に、形而上的な結論は必要ないのです。

書き出しが魅力的なので、もっと具体的なことを書いた方が、読み手を引き付けるはずです。こうしたところを一つひとつ説明したうえで、「起」と「承」はそのままにして、「転」と「結」の部分を書き直してもらいました。

「結論」を「結び」に変えたら伝わる文章になる

以下が、書き直してもらった作品です。

【after】

タイトル:「パソコンに向かう女性」

[起]大きな窓に囲まれた広いオフィス。ジャケットを着てコーヒーを片手に、窓際のデスクでパソコン画面を見つめている女性。この情景には、私の「働く」が詰まっている。

[承]20年前、たまたま決めた進路は看護師になることだった。気が付いたら白衣姿で、輝く東京タワーを横目に病棟を駆け回っていた。

しかし白衣を着た自分は、場違いなパーティーに一人で参加しているように心地が悪かった。それなりにお給料がもらえても、21歳の私にとっては耐え難い違和感だった。

[転]何年も模索し、いざ会社員に転職してパソコンに向かって働いてみたところ、こういうことかと膝を打った。私が納得して働くために必要だったのは、あの女性になることだったのだ

決まった時間と曜日に机に向かって働くこと。いわゆる「普通」になりたかったことに気が付いた。普通になることで自分への違和感は一切なくなった。

[結]コーヒーを美味しく感じられるようになったのは、そういうことなのだ。(400字)

タイトルが「パソコンに向かう女性」に変わりました。これは、筆者自身が具体的に伝えるべきイメージがしっかりできたことによります。

[転]では「私の光は、あの働く女性の姿だった」の部分が、「私が納得して働くために必要だったのは、あの女性になることだった」に修正されました。「光」という抽象的なことばを使うと、その説明を加えなくてはなりません。修正された文は、素直な書き手のことばです。

これは「起」の内容を受けたものであることがはっきりします。これによって「起」と「転」にブリッジが架かりました。初稿のように「起承転結」がバラバラに並ぶのではなく、再稿では、それぞれが連環して有機的に結び付くようになりました。

そして「『普通』になりたかったことに気づいた」「普通になることで自分への違和感は一切なくなった」と続きます。

[結]では、ここまでの流れを受けて「コーヒーを美味しく感じられるようになったのは、そういうことなのだ」と一文で締めています。ここも「起」の「あの女性」に重ねられています。

[結]にコーヒーが登場したことで、よりイメージしやすくなった

伝わり方の違いを例文で比較

再稿には、初稿のように「結論」めいたことばはありません。「起」で提示された理想の女性について書かれています。タイトルが「パソコンに向かう女性」である理由も、明確になります。

「起承転結」の「結」が「結論」ではないことがおわかりだと思います。

「結」は、単なる「結び」なのです。「起承転結」は「起承転合」とも言われます。「合」は「合う」「結び付く」という意味です。

回り道をし、様々な手段を選択するからこそ核にたどり着けるし、「次の核」が見付かる。そうやって、日常に埋もれる無自覚の核を追い求めて生きたい。

としていた初稿の最後が、再稿では、

コーヒーを美味しく感じられるようになったのは、そういうことなのだ。

に変わりました。

「結論」だと思い込んで書いた初稿と、単なる「結び」だと意識して書いた再稿では、読み手への伝わり方がここまで違うのです。それは、書き手の思いを映像として読み手にイメージしてもらえるかどうかの違いなのです。

執筆/文筆家・前田安正

写真/Canva

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

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