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介護は嫁がすべき? 意外な思い込みや価値観で一人で抱え込む女性たち。激増する介護離職の実態を厚労省に取材してわかったこと

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毎年10万人以上もの人が介護離職をしています。半年以内に50%の人が離職。離職する多くは50代の中小企業に勤務する女性というデータも。介護離職を解決するにはどうすればいいのか? 厚生労働省へ取材したレポートをお伝えします。

介護離職問題の解決方法について厚生労働省に取材した

介護離職をする人が毎年10万人以上いるという日本の現実。介護は自分ですべきと思ってしまう人が多いといいます。介護離職問題の解決方法について、厚生労働省の雇用環境・均等局の池上彰子さんと老健局の川田さくらさんに聞きました。

介護離職とは?

介護離職とは、家族などの介護をするために現在の仕事を辞めること。特に40歳以降になると介護は他人事ではありません。総務省の「就業構造基本調査」によると、毎年介護を理由に離職する人が約10万人いるといわれています。国は必要な介護サービスの受け皿や介護人材の確保、働く環境の改善や家族への支援等を行うことで、やむを得ず介護離職をする方をなくすことを目指しています。

介護離職の現状や実態

データからわかる介護離職の実態

上述したように、国が制度を整えても実際に介護休業を取得する人は少ないという実態があります。令和3年4月1日から令和4年3月31日までの1年間の間に介護休業を取得した人がいる事業所の割合は、わずか1.4%です(厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」より)。また取得者の人数も令和元年から減っています。

年度介護休業取得割合
令和元年度2.2%
令和4年度1.4%
厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査

川田さんはいいます。

「介護離職をした方の、介護を始めてから仕事を辞めた時までの期間を見ると、『半年未満』が50%以上となっています。※1

離職の要因は、勤務先の問題、サービスの問題、家族・親族の希望、自分の希望などさまざまですが、中には親が介護状態になったことで精神的にショックを受け、すぐに仕事を辞めてしまう方もいると聞きます」

※1:(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書」《令和3年度厚生労働省委託調査》より)

介護離職による社会的損失

では介護離職者が増えるとどうなるのでしょうか?40~50代といえば企業の中では既に管理職の立場です。池上さんもそうした世代の人たちが介護離職をしてしまうことを懸念しています。

「労働人口が減っていく中で、豊富な技能や経験を持っている人が辞めてしまうと貴重な労働力が失われてしまいます。事業者にとっても会社の中で活躍してきた人が辞めるのは大きな損失であると捉えています」

介護離職をする原因や理由とは?

介護と仕事の両立が難しい

なぜ会社で働き続けることを断念し離職という道を選んでしまうのでしょうか? それには介護特有の問題があります。介護は育児と異なり、あと何年介護が続くのかわからず、先が見えないといった場合も少なくありません。上述したように、介護離職をする人は年齢的に会社で中核的な仕事を担っていることも多く、仕事と介護の両立が難しいと離職につながってしまうことがあるようです。

介護は価値観に左右される場合がある

介護離職につながってしまう理由には実際に介護保険サービスの手続や利用方法がわからなかった、会社で介護休業の利用申出がしにくい雰囲気だったなど、制度側・企業側各々に様々な問題があります。そのほか個人の価値観と社会の価値観によって、「離職せざるを得ない」という判断につながるケースも。

個人の価値観

「親の介護は自分がすべき」という価値観を持っている人もおり、自分で抱え込む場合があります。

周りに助けを求めない従業員は介護休業を使わずに年次有給休暇を使って介護に対応してしまうケースも見られます。在宅介護が長期間続いたり、要介護度が高くなったりすると、家族にかかる負担は、増大してゆくでしょう。その結果離職につながる可能性が高くなってしまうのです。

しかし、そのように介護をしている従業員が、プライベートな問題だと会社に相談することを躊躇してしまうと、会社は知ることができません。「我が社には介護休業制度があるので使ってほしかった」と従業員が退職を申し出てから悔やむ会社もあります。

こうした問題について、川田さんは職場や地域包括支援センターに相談することが望ましいといいます。

「介護離職を減らしていくためには、厚生労働省として、介護保険制度や両立支援制度などの制度面の課題に対応していくことはもちろんですが、同時に、『介護は家族がするもの』という考え方に対して働きかけていく必要があります。介護には、家族だからできること、介護の専門家だからできることがありますので、家族だけで抱え込むのではなく、専門家に頼ることも大切です。介護に悩んだら、離職を決断する前に、まずは職場や地域包括支援センターに相談をしていただきたいと考えています」

社会の価値観

地域によっては「介護は嫁が行うもの」という価値観が残っていることも。たとえば、東京に住んでいても、妻だけが夫の自宅で介護せざるを得ない場合もあります。男女の役割分担を考える経営者の下で働いていると、社員にもその価値観を押し付けてしまうでしょう。しかし共働き世帯の増加から、「介護は嫁が行うもの」という時代は終わりつつあります。今後は男性も女性も双方が介護と仕事を両立できるように社会全体で価値観を変えていかなくてはなりません。

介護離職を防止するための解決方法とは

会社に介護休業制度や介護休暇制度が整備されていなくても、法的要件を満たせば、介護休業や介護休暇を取得することができます。

また育児・介護休業法では、「事業主は、労働者からの介護休業や介護休暇の申出があったときは、拒むことができない」とされています。ですから介護休業や介護休暇の取得を申し出るのは労働者にとって当然の権利なのです。

仕事と介護の両立のための制度

1991年に「育児休業法」が制定され、1999年に介護を含んだ現在の育児・介護休業法に改正されました。育児・介護休業法では仕事と介護の両立のための制度が設けられています。制度は正規社員だけではなく、法的要件を満たせば、有期契約で働く非正規雇用労働者も利用できます。

介護休業制度

労働者が93日まで3回を上限に分割して休業できる制度です。

(要件を満たすことによって休業前の賃金の約67%が介護休業給付金として雇用保険から支給されます。手続はハローワークが行っています。)

介護休暇制度

労働者が1年度に対象家族1人につき5日まで、対象家族2人以上の場合は10日まで休暇を取れる制度です。介護休業や年次有給休暇とは別に取得できます。

介護のための短時間勤務等の制度

短時間勤務、フレックスタイム、時差出勤、介護サービスの費用助成等のうち、会社が選択した制度を利用することができます。その他に、残業を免除する制度、時間外労働・深夜業を制限する制度等があります。

介護休業取得等で会社とトラブルが発生した場合

池上さんはいいます。

「介護休業の取得申出等を理由に解雇など事業主から不利益な取扱いを受けた場合、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)へ相談してください」

全国の都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の所在地 

育児・介護休業法違反については行政指導を行い、会社と従業員間で介護休業等を巡る民事的な労働紛争があった場合、「紛争解決援助」や「調停」制度により、トラブルの解決をサポートします

厚生労働省の取り組み

「働く方が介護離職をしてしまう理由のひとつに、会社は介護休業制度等の規定を整備しているにもかかわらずそこで働く方がそのことを知らない、また会社に制度を利用しにくい雰囲気があった等があるようです。そこで、厚生労働省では、介護休業制度等について会社及び従業員の双方に周知を図っています。また「中小企業育児・介護休業等推進支援事業」において、社会保険労務士や中小企業診断士などの専門家が「仕事と家庭の両立支援プランナー」として、個別に会社訪問をして介護休業制度の導入についての説明や、さまざまな施策の提案も。たとえばアンケートによって、潜在的な介護中の従業員について把握し、面談するようになどのアドバイスなども行っています」

と池上さんはいいます。

仕事と介護を両立させる

介護保険サービスの利用には、所得に応じて利用料がかかります。負担が過重なものとならないよう、月々の利用者負担額が上限額を超えた場合に払戻しが行われる制度も設けられていますが、離職をすると収入がなくなりますので、経済的に困窮してしまう可能性が高くなります。介護は何年続くかわかりません。将来の生活を維持するためにも離職せずに仕事を続けることをおすすめします。経済的な負担を減らすためにも、制度を利用し仕事と介護の両立を実現させましょう。

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