Series
連載

絶対に失敗するカフェの作り方失敗しない、潰れないカフェ経営の極意は、静かに過ごしてくれる常連客を軸にした接客をすること

ログインすると、この記事をストックできます。

横浜で土日の行列の絶えない喫茶店「珈琲文明」のマスターがお伝えする、小さなカフェの立ち上げ方と長く続ける方法。今回は、小さなカフェを運営するために大切な「接客」について伝えます。

マスター1人で経営する小さなカフェを立ち上げて、長く続けていく方法をお伝えしていくこの連載ですが、驚くほど具体的に、かつ「絶対に失敗する方法」をお伝えしながら、逆張りをすることで成功へと導くメソッドを公開しています。今回は、個人店、マスター1人の小さなカフェを運営する上で大切な「接客の極意」についてお伝えします。

珈琲文明店主・赤澤智がお伝えします(写真:珈琲文明提供)

当たり前だがコーヒーの味が明暗を分ける

QSC(クオリティ、サービス、クレンリネス)そしてA(雰囲気、居心地)の4つの中で何が最も大切なのか?どれか1つ絶対選ばなければならないとするならば私が客だった場合という前提ですが「クオリティ」が筆頭に来ます。

私がお客さんの立場だったとして、飲食店に望むことは、実は商品が美味しいことがほぼ全てです。例えば、接客やサービスに関しては「普通であれば良い、マイナスじゃなければ良い」くらいの感覚です。

今回はそんな考えの私が接客サービスに関する話をしますので、神様や殿様やお姫様扱いされるようなことを客として望む人やまたそういう接客サービスをしていこうと思っている人には全く参考にならないということを予め言っておきますね。

接客は「ほったらかし」こそが正解

それでは参ります。

まず私のお店の接客サービスの根幹はお客様を「ほったらかしにしておく」です。
店内の雰囲気の最高形態の1つであると私が考えているのが「女性の独り客がカウンターに座っているお店」です。

以前もお話ししましたが、むやみに話しかけない、ほったらかしにしておくのが大事だと思っています。

私も例えば床屋や美容室で髪を切ってもらっている最中に話しかけられたくないですし、服を選んでいる時に接客に来ないでほしいと思っています。実際、賛同される方も少なくないでしょう。放っておかれる居心地の良さというのは確実に存在すると思っていますので私のお店(珈琲文明)では原則としてお客さんにこちらからは話しかけません。

静かに過ごしてくれる常連さんを軸に接客をする

もちろんお客様側から話しかけられたり何か求められたりした場合はなるべく応えるようにしていますが、ここで私が考える接客サービスの際に最も重きを置いている考えを述べますね。それは「サイレントロイヤルカスタマーを軸に考える」ということです。

「サイレントロイヤルカスタマー(以下SRCと呼びますがこれは完全に私の造語です)」とは「名前も素性もわからないし話したこともないけど確実にヘビーユーザーであり、その人は普段何か特別なサービスを求めてくるわけではなくいたって静かにそこに存在している人というとてつもなく尊いお客様」のことを指します。

私が接客やサービスをする際には必ずこのSRCの人たちに不利益にはならないようにということを考えるのです。

珈琲文明の店内(写真:珈琲文明提供)

「お代は不要ですのでお帰り下さい」はありえない

「声が大きな人が得をしたり正直者が馬鹿を見たりするような社会」は嫌いなので、せめて自分の店ではそういうことがないようにしています。

トラブルを起こして退店してもらうことになったお客さんに「お代は不要ですのでお帰り下さい」とは絶対言いませんし、してはいけません。

それはなぜかというと、尊いSRCの人たちがお金を払っているのにその人が払わなくていいはずがないからです。当然ながら、「お会計を済ませて退店してください」と言います。

とにかく私の基本スタンスは徹底して、「SRCの方に不利益がないか、SRCの方にとって居心地が良いか、普通に自然にくつろいでもらえているか」を軸に考えた行動を崩しません。

大切な常連さんへの対応は小さな「特別扱い」

このことを前提としながら次に私がよくやる接客方法を具体的に挙げていきますね。

【ケース①】SRCの方が入店した際の挨拶はたった一言を添える

→「いらっしゃいませ」ではなく「あ!いらっしゃいませ」と言う。

「あ」というたった一言(1音)に「私はあなたの名前も素性も知りませんがあなたが常連さんであることは認識していますよ」という意味を込めて「大好きオーラ」を放ちながら迎えます(かといってそれ以降は話しかけません)。

【ケース②】いつも複数で来られるSRCの方が先に1人でいらした場合

→私は店内に響き渡るくらいの声量で「あ!いらっしゃいませ、まだ(他の二人は)いらしていないです」と言い、さらにテーブルにお冷を3つ持って行きます。

毎週日曜になると必ず来店される3名のSRCのお客様がいます。ボックスシートが空いていたらそこに座られるのですが、3人同時に来店しないことが多いので、最初の一人が来店した場合は、一時的に独りでボックスシートに座っていることにになります。そのお客さんは「3人以上じゃないと座れない席に独りで座っている」という状態を周囲の人に見られることになり気まずいはずなのでこのように声をかけます。

こうすることによって周囲のお客さんも「あ、ボックスシートに今独りで座っているけど合計3名になるんだな」ということが周知できて、このお一人のSRCさんも安心して過ごせるわけです。

サービスの真髄は「特別扱いをする」こと

さて、そもそもサービスというものの神髄とは何かという私なりの答えを今から述べます。
サービスとは誤解を恐れずに言えば「できる範囲で精一杯の特別扱いをする」ということです。これは必要以上のサービスをするとか、ごまをするということではありません。
少し言い方を変えますと「(結果的にどうにもなんともならないかもしれないが)どうにかする、なんとかする」です。

例1)私を特別扱いしてくれた乳製品の業者さん

私がサービスを「受けた側」になった例で、詳しく説明しますね。
あるとき、珈琲文明の開店時に、シャッターを開けたはいいが、半分の位置で止まって動かなくなったことがありました。

そこにちょうど乳製品の業者が納品しにきました。

私は「ご苦労様です」と言って引き続きシャッターの悪戦苦闘に戻ったのですが、その乳製品業者さんが一緒に悪戦苦闘してくれたのです。
結果的には向かいの店舗の店主さんによってシャッターが開いたのですが、その日以降私はその業者の方と精神的距離が近くなりました。

自分なりに考えるに、「通常の業務=乳製品を納入する」から外れた部分で共に悪戦苦闘して協力してくれた、つまり「業務外加担してくれた」ということに心が動かされたんです。
これは、私から見ると「特別扱い」です。

例2)お客様の要望になんとかお応えした話

次にお客さんに大変喜ばれたことを挙げます。
コーヒーのドリップバッグをお土産として10個購入された方が「すみません、袋はないですよね?」と訊かれたので「申し訳ございません、有料のものもないのです」と返しました。
しかし、その人は本当にカバンも何も持っていませんでした。
そう、持ち帰るのが無理な状況ですが、珈琲文明ではお持ち帰り用の袋は用意していません。

私は「コンビニの袋とかミテクレとか本当にどうでも良いのであればどうにかしますよ」と伝え、2階のストックルームに行って、小さめの紙袋を見つけてそれをお渡ししました。お客さんは非常に喜んでくださり、その方は次の日もまた来てくれました。

これなんかもやはり「業務外のことで、お困りのお客さんのためにどうにかした」という事例でしょう。

本当の意味でお客さんを大切にするということ

これ、どちらも、何でもかんでもサービスしたり、何でもやってあげたりするのとは全く違うということがお分かりでしょうか。

店作りの際に自分が決めたクレドや方針、ルールを破るのではなく、お客さんを大切にするということが非常に大切なのです。

お客さんが困っているとき、その行動が必要であるとき、結果的にどうにもならないかもしれないが「どうにかする(しようとしてみる)」ということは、大切なお客さんへの究極の「特別扱い」なのだと思います。

そしてこういう「特別扱い」こそがチェーン店や一般的なアルバイト店員にはできない、個人店オーナーが出来るサービスの神髄なのだと思うのです。

SRCを軸にして物事を考え、「特別扱い」をする。
私は、それこそが、究極のサービスだと思います。

この記事を書いた人

赤澤智
赤澤智珈琲文明店主
脱サラ後40歳でカフェ経営を始め16年。
強み「しっかり腹落ちしたことならば成果が出るまで粘り強くいつまでも続けられる」。
弱み「人見知りが激しく、興味のない物事(人含む)にはまったく関心がない」

ログインすると、この記事をストックできます。

この記事をシェアする
  • LINEアイコン
  • Twitterアイコン
  • Facebookアイコン