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夢を見るより現実主義のほうがうまくいく? 50代からのセカンドキャリア構築術

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勤続30年を過ぎたらそろそろ定年。ずっと会社の仕事一筋で働いてきたから「新しいことにチャレンジ」したくなるのも理解できる。しかし博報堂のコピーライターでキャリアコンサルタントの資格を持つ三嶋浩子氏は警鐘を鳴らします。なぜでしょうか?

好きなことでキャリアチェンジが可能なのか?

博報堂の三嶋浩子さんに聞いてみました。第二の人生というと、好きなことを仕事に、新しいことにチャレンジというイメージを持つ人が多いでしょう。Iamは「好きなことを仕事に」をテーマした働き方メディアですが、はたして好きなことでキャリアチェンジができるのでしょうか?

『未定年図鑑』を書いた理由とは?

博報堂 関西支社でCMプランナーやコピーライターとして活躍する三嶋浩子さん。博報堂と、関西の大学での非常勤講師を並走し、キャリアコンサルタント(国家資格)を取得しています。

また、定年対策で悩める人たちのため、『未定年図鑑』を上梓しました。「未定年」とは、博報堂シニアフォースが発案した新しい概念と言葉です。定年後のセカンドキャリアをどう生きるかを発信するキーワードだといいます。

三嶋さんが『未定年図鑑』を書いた理由について伺いました。

「今の日本人は長寿傾向にあり、65歳以降の老後は長くなっています。とはいえ、年金は少しずつ目減りしているという現実があります。これまでは、終身雇用が美徳とされてきました。しかし今後は老後を見越してセカンドキャリアを考える必要があります。そうしたセカンドキャリアを考える50代のロールモデルとなる人たち27人に取材をし、参考にしてもらいたいと考えました」

『未定年図鑑』にある人生の見落とし点検を自分でもやってみた

【人生の見落とし点検表】

仕事時代子ども・学生時代
① 成果
② 失敗
③ 気持ち
④ 気持ち

セカンドキャリアを考えたとき、三嶋さんがおすすめするのは、『未定年図鑑』にも書かれている「人生の見落とし点検」です。「人生の見落とし点検」とは、人生のいろいろな出来事の過去から現在について棚卸しをすること。実際に自分の人生について棚卸しをしたところ、思わぬ発見があるといいます。

「私も自分で棚卸しをやってみましたが、本当に忘れていることがたくさんありました。たとえば、中学のときの私は将来の夢がアナウンサーか漫才師だったのですが、すっかり忘れていましたね(笑)。ぜひみなさんも、この表を使って一度人生の棚卸しをやってみてください。とくにやりたいことがなくて悩んでいる人でも、この表を埋めていけば課題とかやりたいことのヒントが見つかると思います」

「人生パトロール」でキャリアの種を見つけた

「人生の見落とし点検」が終わったら次は「人生パトロール」を行います。「人生パトロール」とは、もう一人の自分を置いて意識して進むこと。過去の自分を思い出したことで、三嶋さん自身、思わぬキャリアの種が見つかったそうです。

「ある日、『ポッドキャストに出演しませんか』という話が来ました。最初は気が乗らなかったんですよ。でも、アナウンサーになりたかったことを思い出して、ちょっとやってみようかなと思ったわけです」と、「人生パトロール」で見つけたアナウンサーへの憧れがきっかけでポットキャストに挑戦することができたといいます。

さらに過去の棚卸しをしたことで、思いもよらない出来事もありました。

「後輩から『某・漫才コンテストに一緒に出ませんか?』と声をかけられたんです。もちろん、いつもの私だったら断っていたと思います。でも、昔漫才師になりたかったことを思い出し、背中を押されるように出演しました(笑)」

このように「人生パトロール」をすると、どこにキャリアの種が見つかるか分かりません。

自分が過去に続けたキャリアを太らせて、やりたい仕事をする

キャリアの8割は偶然で決まる

三嶋さんの体験は、「人生パトロール」によって偶然キャリアにつながったもの。それを裏づけるのが、「キャリアの8割は偶然で決まる」というスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授の「計画された偶発性理論」です。

「偶然は棚からボタ餅のように偶然降ってくるわけではないんですよ。偶然もちゃんと仕込みが必要だとクランボルツ教授は言っています。好奇心・持続性・楽観性・柔軟性・冒険心の5つの条件が良い偶然を創出するそうです。でも実際に5つの精神性を全て備えるのは難しいですよね……。自分に全部備わっているのかと言われたら私は当てはまりません。楽観性もないですし (笑)。ただし、自分がネガティブだからこそ工夫して発想を転換してポジティブになれるんですね」

続けていれば過去の自分が助けてくれる

「50代の自分はどうしたらいいのか?」とセカンドキャリアに悩む人は多いでしょう。そんな悩める50代に対し、三嶋さんは松任谷由実さんがラジオ番組で語った「続けていれば過去の自分が助けてくれる」という言葉がヒントになるといいます。

「松任谷由実さんは特別な存在なので、なかなか自分ごと化しづらいかもしれません」としながらも、『続けていれば過去の自分が助けてくれる』という名言は、私たち一般人でも応用できると三嶋さんは力説する。

リスキリングがセカンドキャリアにつながる、とも限らない

意外にも三嶋さんは、リスキリングがもてはやされていることに警鐘を鳴らしています。

「『リスキリング=学び直し』とみなさんは思っていることでしょう。しかし新しいスキルや知識の習得だけがすべてとは限りません。50代であれば、過去の自分のキャリアについて棚卸しをして太らせる方が大事ではないでしょうか? むしろ、私はリスキリングをして、全く新しい仕事に移るのはよく考える必要があると思っています」

三嶋さんは自身のキャリアについて、真剣に考えたそうです。博報堂で働きながら、大阪市立大学大学院(現・大阪公立大学大学院)都市経営研究科都市行政コースで学びました。最初、大学院での専攻を考えたとき、今までの自分がやってきたこととは全然違う「地方創生」のネクストキャリアも考えたそうですが「自分は楽観性が全くないので、競争相手が大勢いる地方創生の分野で新規参入は難しいと思いました」と明かします。そして、「今までやってきたコピーライティングの知見とスキルを生かした方がいいと悟った」そうです。つまり、自分の独自性を育てて太らせる方が合理的だと気づいたそうです。

「大学院で学んだことを生かし、今、京都の大学で非常勤講師をやっています。個人のビジョンとしては、大学は70歳まで働ける可能性があるので、そこを目指したいと思っています。50代で修士を取ったり、資格を取ったりしたのもそのためです。だからこそ今までやってきたコピーライティングのスキルを太らせたんですよ」

博報堂で働きながらキャリアコンサルタントの資格を取得

三嶋さんは本業の仕事と大学院の非常勤講師をやりながら、キャリアコンサルタントの資格を取ったそうです。キャリアコンサルタントとは、職業選択や能力開発に関する相談・助言を行う専門職です。三嶋さんがキャリアコンサルタントの資格を取ったのは2つの理由がありました。

「一つは憧れですね。コピーライターは国家資格じゃないですし、何となく国家資格に対する憧れみたいなものはありました。新型コロナが発生後、テレビで医師が一生懸命働いている姿を見てカッコいいと思ったんです。それを見て、私も国家資格を取りたいと考えるようになりました。

もう一つの理由は、非常勤講師をやっていた大学で、学生から多くの就活相談を受けたことです。私が知っているのはコピーライティングだけで、他の業界のことは全く知りません。そこで、ちゃんと資格を取ってきちんと学生にアドバイスしたいと思いました」

「過去×人脈拡大×人脈貯金」がセカンドキャリアのキーワード

コミュニティへの参加

50代でセカンドキャリアを成功させるには、スキルだけではなく、その人の生きざまや人間関係など過去が助けてくれるそうです。それ以外で大事なことは「人脈」だと三嶋さんはいいます。

「『こんな仕事あるんだけど、一緒にやらない?』と誘われることもあると思います。ですから、”人脈拡大・人脈貯金”でいいつながりをたくさん持っておくことを意識するのがいいですね」

社会人大学院やマーケティングの学校への参加

三嶋さんは社会人大学院やマーケティングの学校への参加によって人脈拡大・人脈貯金ができたそうです。

「本来の私はものすごくネガティブで、閉じた性格。全く社交性がないんです(笑)。でも社会人大学院に行くとゼミというものがあります。そうすると、自ずとそういうコミュニティに属さざるを得なくなるんですよね。これは自分にとっては、正解でした。

以前、上司からマーケティングの学校に行くよう、指示を受けました。会社のお金で行かせていただいたわけですが、当時の私は『クリエイターが何故、マーケティングの学校?』と猛烈に抵抗しました。結果的には、それもコミュニティに属することになったので、行ってよかったと思っています。1つのコミュニティに入ると横のつながりができるんですよね。引っ張り出してくれる人がいるということは、ありがたいと思っています」

せっかくコミュニティに入るなら、オンラインサロンや異業種交流会はなるべく良質なところを選んだほうがいいと三嶋さんはいいます。

「趣味の優先順位が高かったら、趣味に関連したコミュニティに入るのがいいですね。自分のスローガンは何なんだろうと考えたほうがいいと思います。たとえば、ボランティアが自分のテーマなら、ボランティアに関するスタートアップもあるので、登録するなら、そういうところがいいですね。

セカンドキャリアを志すのであれば、ある程度戦略的にコミュニティも選んだ方がいいと思います。私の場合、キャリアコンサルタント講座を受講するとき、専門実践教育訓練給付金を使って、費用対効果も考えました。たとえば、私が進学した大阪市立大学は大阪市民だと半額になる制度があります。自分の住んでる地域の大学や大学院に行きたい場合、そんな情報も探してみるとよいのではないでしょうか」


三嶋浩子(みしまひろこ)

博報堂シニアビジネスフォース コンテンツ・ディレクター、キャリアコンサルタント(国家資格)。大阪市立大学大学院修了、修士(都市経営)。2019年から非常勤講師として同志社女子大学 表象文化学部日本語日本文学科にて「コピーライティング」を担当。広告クリエイターと大学非常勤講師、シニア研究、地方創生の4足のわらじを履く。著書に『未定年図鑑』(中央経済社)がある。

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