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地方公務員にも開けた副業への道。ボランティア活動を副業でやるという選択肢

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公務員が副業をしたり、起業したりする道があるとしたら、それはどういう道なのでしょうか。現在、横須賀市の職員として勤務しながら副業として一般社団法人KAKEHASHIの代表を務めている高橋正和さんに伺います。

時代が副業解禁に動く中でも、公務員が副業をしたり起業をしたりするのは難しいのでは? と思う人もいるかもしれません。横須賀市の市職員でありながら副業で起業するために市長に直談判したという高橋正和さんが実現したのは、地域のためになる事業でした。

傷がついたり大きく育ち過ぎたりした野菜の販路に悩む農家の支援や性教育の学習機会の提供、民間企業と地域の起業家を連携させた地域活性化の取り組みなど、その名の通り想いある人たちのその想いを実現するための「KAKEHASHI 架け橋」になる起業でした。高橋さんの歩んだ道のりを伺いながら、公務員の新たな働き方について模索します。

きっかけは地域の人たちの生の声

高橋さんが一般社団法人KAKEHASHIを立ち上げるきっかけになったのは、2018年のこと。役所の研修で市民の声を聞く機会だったと言います。

地域の声を聞くための勉強会などを開催(写真/本人提供)

「若い世代の方々の街を想う声を聞き、「私たちにもっとできることがあるのではないか。」という思いが出ました。これからの街づくりには、女性や子どもといった若い世代の声を反映させることが大切だと考えましたが、市役所の今の立場(役職)では決定権もなく、その実現は遠かったです。サラリーマンは、『やりたいことがあるなら出世しなさい』と言われますが、横須賀の現状を考えると10年や20年先まで待ってはいられない状況であり、今できることをやらなければと覚悟して、起業して副業という選択肢を取りました」

地域を変えていく素晴らしいアイデアを持っている人がたくさんいると確信した高橋さんでしたが、同時に課題も感じていました。

「私たち市役所職員であれば、日頃の困りごとで市役所に連絡して良いのかどうかという判断がある程度できますが、声を聞く活動の中で、市民の方々にその判断は難しいと思いました。ましてや、何か考えがある方が市役所に提案にくることなど、さらにハードルが高いことで、私たちが市民の方々側に近づいていくことが大事だと考えました」

研修後も、街の声を聞く活動を続け、民間企業の人を呼び勉強会を開催するなど、地域をもっと良い街にするための仕組みづくりをしたいという思いで取り組んできましたが、本業ではないため、市役所の名刺を出すわけにはいかず、また交通費などの手出しが増えて負担が増えていきました。しかし、配属によって仕事が分けられてしまい、本業でできないことが多かったため、違う立場(副業)を作り、通訳者になることを目指したいと考えるようになっていきました。

長く続けていくための手段として公務員のまま法人化を決意

本格的に地域のために動き出そうと考えたとき、「ボランティア活動自体は非常に素晴らしいけれど、続けていくためにはボランティア活動だけでは難しい」と感じた高橋さんは、知人から「法人化してはどうか」というアドバイスをもらいます。

「地方公務員法について調べたところ、公務員にも副業の道が開けていることに気づいた」という高橋さん。「公務員が副業をしてはいけない」という先入観を持っていましたが、職場の許可などがあれば公務員でも副業できるということを知り、法人化を決意したのです。

「これから人口が減少していけば、市のお金も減ります。そうすると、本来やるべき社会福祉に回すお金も少なくなります。想いのある地元の企業や人々を支援していくことを事業とする一般社団法人を設立することを決めました」

時代も高橋さんに味方したのかもしれません。2017年に、神戸市で『地域貢献応援制度』が設置され、全国で初めて職員が報酬を得る副業・兼業の許可要件を定めました。これに倣って、奈良県生駒市や宮崎県の新富町などでも、公益性が認められる地域貢献活動について、副業を解禁していました。

地方公務員は、地方公務員法38条によって株式会社などの営利企業の設立や営利団体での勤務が制限されていますが、NPO法人財団法人など、営利目的ではない団体を立ち上げたり役員になったりすることは禁止されているわけではありません。報酬を受けて活動する場合は許可が必要ですが、許可が取れれば、給与収入を得ることも可能です。

高橋さんはこれまで横須賀市には前例のない一般社団法人の起業の準備を進めていきました。

公務員副業とは、自分の立場を理解した中で行うことが必要

前例がなかった横須賀市での起業を実現させるために動き始めた高橋さんは、職場の許可を得るために市長に直談判し、定款の作成や法務局への申請などは全て自分たちで行ったと言います。法人化を目指すことを決めた詳細と経緯、市の職員として感じている活動の必要性、副業で起業するメリットなどを訴え、市長から直接許可を得ます。

2020年にこれまでヒアリングしてきた街の声と、アイディアを実現させるために様々な事業を立ち上げていきました。そして、今の制度の中だと公務員の立場ではできないが、横須賀市のためになると考えることを事業として実現していきます。

「横須賀市の農家さんで、育ちすぎたり傷がついたりした野菜の値段が下がってしまう課題がありました。一方で、育児中のママやパパが離乳食で野菜をペーストにすることに苦戦しているという課題もあって、これらを解決するために、当社団法人で、無添加無着色の野菜ピュレを開発しました」

副業はあくまで副業。ライフワークバランスが公務員副業の鍵

経営者という立場になったことによって、公務員という立場だけでは得られなかった民間事業者と同じ目線が実現。同じ言語で話せることで、良い効果を生み出すことができるようになったという高橋さんは、「公務員という本業があっての副業だという本質を忘れないようにしている」と言います。

現在、有給などを活用して仕事を進めたり、週末に、子どもと遊びながら、一緒に納品に回ったり、工夫を続けているそうです。大切にしているのは「何よりも大切なのはKAKEHASHIの活動を長く続けること。そのためには副業で無理をしないこと」だという高橋さんは、仕事の時間を増やすのではなく、今、必要なことを最小限の時間でやるようにしているのだそうです。

高橋さんが公務員としての仕事、起業家としての仕事を通して分かったことは、地域というのは終わりがなく、当たり前を続けていくことが求められるものだということ。だから「私たちは、自分たちが街をもっと良くしたいという信念を持って、自分の信じることをやっていく」ことを大切にしながら、本業と副業という二刀流で深く入り込んでいくことで、想いある人たちが活躍できる地域となるように挑戦し続けています。

取材・文/MARU

この記事を書いた人

MARU
MARU編集・ライティング
猫を愛する物書き。独立して20年。文章で大事にしているのはリズム感。人生の選択の基準は、楽しいか、面白いかどうか。強み:ノンジャンルで媒体を問わずに書けること、編集もできること。弱み:大雑把で細かい作業が苦手。

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