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みらいのとびら 好きを仕事のするための文章術集客効果を高める「カスタマイズスキル」はことばを磨くと身につけられる?

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文章のプロ・前田安正氏が教える、好きを仕事にするための文章術講座。第18回は「ことばを磨くとカスタマイズスキルが身につけられる?」についてです。

ことばが「カスタマイズスキル」を支える

プロになる。その途端、趣味だったものが商品となりサービスとなります。この事実を知ったときに「できるのだろうか」と二の足を踏む人は多いと思います。ほんの少し前まで「プロ並み」だったことが「プロ」としてのスキルを求められるからです。とはいえ、そこを心配し過ぎる必要もありません。なぜなら、いわゆる技術・技能としてのスキルは、一生追求しなくてはならないからです。とかくこうした技術・技能に意識が行きがちですが、実は「スキル」は技術だけを指すものではありません。もう一つ重要な役割があるのです。

仕事を立ち上げたばかりの頃は、知名度もありません。誰にも知られていない状況で唯一頼りにできるのが、自らのスキル、つまり技術・技能です。ここがしっかりしていれば、次第に集客できる、という自信は重要です。これは大筋で間違ってはいません。

一方で、オン・ザ・ジョブ・トレーニングということばがあります。仕事して実績を積みながらスキルを高めるという意味で使われます。これは、失敗も織り込んだトレーニングです。失敗を次の糧にしてよりよいサービスや商品を生み出すという意味で、オン・ザ・ジョブは重要な実績になります。

なぜなら、持っているスキルが万人に等しく通用するわけではないからです。同じ商品やサービスであっても、人が求めるものは、それぞれ異なります。これはオン・ザ・ジョブで学んでいくしかありません。このとき必要になるのが、技術・技能をベースにした「カスタマイズスキル」です。これがもう一つの重要なスキルです。そして、ことばや文章は、これを鍛え、支えるものです。ことばや文章は、発信する道具だけではありません。むしろ、顧客の要望に耳を傾ける手段として有効なのです。

ことばや文章は、コミュニケーションを高めるための手段です。いくら文章を書いてもそれを読んでもらえなければ、無意味な記号として終わります。つまり読まれて理解されて、初めてその価値が生まれるからです。これをサービス・商品に当てはめれば、技術・技能を使う前に顧客から「求められているものが何か」を理解しなくてはならない、ということです。

「カスタマイズスキル」にはことばの力が必須だ(写真/Canva)

「カスタマイズスキル」を使った成功事例

僕が20年近く通っているカイロプラクティックは、当初1回の施術が3000円でした。10回分の値段で11回使える回数券も出していました。次第に人気が出てくると、回数券をやめ、少しずつ単価を上げていきました。今は1回5500円、当時に比べると1.8倍単価が上がっているのです。

では、先生の施術が1.8倍よくなったかというと、そこは数値では表されません。もちろん、いろいろな研究をしているし、活躍の場も広げてプロ野球のトレーナーにもなるほどに腕を上げました。しかし、それでもベースの技術が劇的に変わったわけでも、特別な技が加わったわけでもありません。

それよりも、これまでの技術を基に、患者に応じて力の入れ具合やツボの押さえ方をカスタマイズしているのです。もちろん痛めた場所は一人ひとり違います。治療の違いとは異なる患者への向き合い方なのです。先生は、患者一人ひとりが抱えている小さな悩みに耳を傾けることから始めます。たわいのない会話から患者が求めているものを探り、施術を通して「ことば」を発しています。つまり、施術そのものが「ことば」として機能しているのです。

それによって患者は施術による体のリハビリと、心の安心を得ているのです。その結果、先生に対する信頼が増し、単価を上げても患者が逃げていかない構造をつくったのです。これは単に技術を高めることではなく、患者が求める心地よさを先取りして提供し、満足度を上げた結果です。

ですから、値段が上がっても、誰も文句を言う人はいないし、通院を辞める人もいません。むしろ、患者数は増えています。

これを単にサービスの問題だ、と片付けることもできます。しかし、僕は患者に合わせて会話をする「カスタマイズスキル」に長けていると思っています。ビジネスにおける言語能力の高さを示していると思うのです。

近年、発信するという意識が強く、SNSを使って様々な商品・サービスがうたわれています。しかし、そのほとんどは、長々と周辺情報を伝えて不安や期待を煽って、ECサイトに誘導しようとします。早口でまくし立て、見ている側に考える余地を与えない、発信者からの一方的なことばが連発されます。

SEO(検索エンジン最適化)を優先する手法は、ネット世界ではそれなりの重要性があることもわかります。そこでは、ポイントになることばを追って、全体を理解しようとする傾向が強くなりました。一方で、文脈を追って行間を読むことが弱くなりました。

たわいない会話ができないという人が増えてきました。会話の中で突然、場にふわさしくないことばを発したり、話題からかけ離れたことを話し出したりするのは、相手のことばを理解し、行間を読み解く力が減ってきているからです。そのせいで、会話をカスタマイズできないのです。

カスタマイズスキルを磨くと提供サービスの価値も上がる(写真/Canva)

ことばを味方にするとビジネスが広がる

カイロプラクティックの先生は、会話から患者の情報を得てカスタマイズした施術をし、それによって安心という付加価値を患者に与えています。

サービス・商品をアピールする際も同様です。おなじサービスや商品でも、受け取る相手が求める価値は様々です。その価値をカテゴライズすることが、ターゲティングです。そしてターゲットごと聞いた声を言語化し、その中から真に求められているものを提示することがマーケティングです。マーケティングは、データに基づいて言語化されたことばであり文章です。

同じタネからいろいろな色の花を咲かせることができれば、ビジネスは広がります。技術・技能だけでは得られない付加価値は、顧客の要望に耳を傾けることから生まれるのです。そのためのことばや文章は、いろいろな色の花を咲かせるための手段です。その手段に必要なのが「カスタマイズスキル」なのです。

執筆/文筆家・前田安正

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

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