飽和状態の料理研究家。レシピ作成だけに頼らない生き残り方とは?
料理研究家にはだれでもなれるけど、だれでも稼げるわけじゃない。ならばどうする?料理を趣味ではなくちゃんとビジネスとしてやっていくために、「捨てない料理人」小鉢ひろかさんが選んだマネタイズの方法とは?
女性が好きや得意を活かした仕事をしたい。その一つが、料理関係ではないでしょうか。
なかでも料理研究家は、特別な資格を必要としない職業です。調理師や栄養士の資格を持っている人や飲食店で修業をした料理人から、昨日今日料理研究家を名乗り始めた人までさまざまです。料理研究家と名乗り、レシピをSNSやレシピ投稿サイトに投稿した瞬間から料理研究家になれるというハードルの低さもあり、その裾野はとても広いです。
レシピも多岐に渡り、自分の得意料理をはじめ、時短料理から節約料理、またダイエットレシピや海外を旅して得た各国料理のレシピなど実にさまざま。巨大レシピサイト「クックパッド」に登録されているレシピの数は、2023年11月の時点で388万品。3分に1品の割合で新たなレシピが生まれていると計算できます。さらにインスタグラムやYouTubeでも様々なレシピが日々投稿されています。これらを合わせると“秒刻み”で料理レシピがネット上に投稿されているといえるでしょう。
ただし、誰でも料理研究家になれるとはいえ、誰でも料理研究家で稼げるわけではありません。
稼げる料理研究家は料理教室の運営、書籍出版、テレビ、雑誌などメディアへのレシピ提供、企業へのレシピ提供のほか、案件と言われる企業とのコラボ、そして動画サイトでの広告収益などを得ています。しかし稼げているのは一握り。では一握りに入れなかった人は、その他大勢の稼げない料理研究家としてレシピを発信し続けるしかないのでしょうか?
目次
京料理の講師からキャリアをスタート
「捨てない料理人」という異名を持つ小鉢ひろかさんは現在、社会派料理コンサルタントとして幅広く活動していますが、もともとは京料理の講師としてキャリアをスタートさせました。
小鉢さんは京都の調理師専門学校にて京料理を専攻。卒業後は同校のクッキングスクールで京料理の講師として活動したのち、都内の青果店で飲食部門の立ち上げや、弁当や惣菜の考案を担当しました。その後レシピサイト運営会社に転職し、小売り店に向けた旬の食材レシピの開発やコンサルティングを行っていました。業務委託を経て、独立したのは5年前のことです。
料理研究家は、マネタイズが難しい
最初は料理研究家として独立した小鉢さん。食生活を豊かにするための情報を日々SNSやセミナーで発信するほか、高名な料理研究家の元で働いたり、アシスタントに入ることもあったといいます。
そこで気づいたのは、「料理研究家は企業とのタイアップが不可欠」ということでした。
料理研究家の主な仕事は、料理の作りやすさや美味しさを研究し、SNSやセミナーを通じてレシピを情報発信することです。しかし今、レシピはネット上で無料で見られるものがほとんどであり、レシピでマネタイズすることはとても難しい状況です。
仕事として成り立たせるにはマネタイズは必須。その方法の一つが企業とのタイアップというビジネスモデルです。タイアップで大切なのは、第一に企業のターゲット層が興味を持つコンテンツを作ることでしょう。
企業とのタイアップの例として飲料メーカーを挙げると「ビールが飲みたくなるレシピ」があります。ビールが美味しいつまみレシピを日々投稿してフォロワー数が数万、数十万と人気が出てきたら、ビールメーカーとのタイアップなどが可能になります。
しかし小鉢さんは企業とのタイアップが必要と感じながらも、フォロワー数ではない「自分の本当の強み」「自分が本当にやりたいこと」で勝負したいと考えました。
小鉢さんが本当にやりたいこと、それは「すべての食材を美味しくいただく」ことでした。美味しくいただくことで、食品ロスをなくしたい。その思いが小鉢さんの中でどんどん大きくなっていったのです。
「捨てない料理人」として収益化するには?
独立する前に働いていた青果店では飲食部として廃棄・規格外野菜を活用した弁当総菜屋を立ち上げ、まだ食べられる野菜約3トンを料理に大変身させました。独立してからもSNSやセミナーで「この野菜は皮をむく必要はありません」「こっちは茎も全部食べられます」のように、京料理のひとつ精進料理の手法を取り入れた、食材を無駄なく使う発信を積極的に行っていました。
京料理を会得し、様々な料理の仕事を経験する中で、小鉢さんはいつしか「料理の力で食品ロスをなくしたい」と思うようになっていました。
どうすれば、「捨てない料理人」として収益化し、仕事として続けていくことができるのか?
タイアップでのマネタイズは、例えば「ビールが飲みたくなるレシピ」など企業の意向に沿ったレシピ開発が必要だったり、料理研究家に企業イメージが重なってしまうことも起こりえます。フラットな立場で活動したい小鉢さんにとって、タイアップによる収入をビジネスの基盤にするのは難しいと考えました。そこで小鉢さんが選んだのは、料理研究家ではなく、料理コンサルタントというポジションでした。
立ち位置を変えることで、趣味からビジネスに
料理コンサルタントとは、飲食に関する店舗や会社に専門的なアドバイスを提供する仕事です。新規出店のプロデュースをはじめ、メニュー提案からマニュアル作成まで様々なサポートを行い、報酬を得ています。
その中で、小鉢さんが最も得意とするのは商品開発でした。食材やテーマに沿っていかに美味しく、以下に無駄なく調理し、製品化するか。それは前職でずっと行ってきたことだったからです。
そしてなにより、toC(個人向け)とtoB(企業向け)では、食材を救える量が全く違います。例えばブロッコリーの葉はケールに似た味わいで食べられるのですが、出荷段階で取り除いてしまうため、toCでは救えません。この時小鉢さんは、ブロッコリーの葉をスムージーに使い、廃棄を減らすことに成功しました。
toBに入り込むことで、「加工すれば十分全然美味しくなるものが廃棄されている現状が見えるようになってきた」と小鉢さんはいいます。toCでは、発信したレシピを見て、実践してもらえなければ野菜を救うことはできませんが、toBであれば、その企業や生産者が取り扱う野菜すべてに反映することができるのです。
料理コンサルタントなら「捨てない」ことでマネタイズできる。それが、小鉢さんが料理研究家から料理コンサルタントにシフトした理由でした。
小鉢さんは料理の力で食品ロスをなくすという目的を据え、「捨てない料理人」として料理研究家ではなく料理コンサルタントとして進む道を選びました。それにより多方面から仕事を依頼されるようになり、現在はその目的をさらに故郷に活用。茶葉の食品ロスをなくすことで茶農家の離農という社会問題に取り組んでいます。
料理好き・料理が得意なので料理研究家を名乗ってみたけどなかなか芽が出ないと悩む人は多いでしょう。そんなとき、自分が料理を通してやりたいことを、もう一度考えてみるヒントになるかもしれません。
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この記事を書いた人
- 知りたがりのやりたがり。エンジニア→UIデザイナー→整理収納×防災備蓄とライターのダブルワーカー、ダンサー&カーラー。強み:なんでも楽しめるところ、我が道を行くところ。弱み:こう見えて人見知り、そしてちょっと理屈っぽい。座右の銘は『ひとつずつ』。