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みらいのとびら 好きを仕事のするための文章術サービス・商品の魅力を伝える基本「ミッション・ビジョン・バリュー」って?

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文章のプロ・前田安正氏が教える、好きを仕事にするための文章術講座。第17回は「自分のサービス・商品の魅力は、どんなことばなら伝えられる?」についてです。

理念を理解できることばに置き換える

自分のサービスや商品をどう伝えればいいのか。とりわけ自分のウリとするところをスッキリ表現するのは、なかなかの難問です。

よく「ミッション・ビジョン・バリュー」などと言われますが、これは企業理念の3要素です。しかし、副業や個人事業主の場合、そこまで大上段に構える必要もないと思うのです。

「好きなことを仕事にする」というミニマムなところから出発するうえで考えてみましょう。

ミッション

社会における使命・役割という難しいことばを使うより、「成し遂げたいこと」とした方がわかりやすいかもしれません。

ビジョン

「理想とする姿の追求」のことです。これも、「将来のあるべき姿を追い求めること」と言い換えます。

バリュー

「組織が共有して持つ価値観」のこと。これは「ウリになるもの」とすればわかりやすくなります。

理念の3要素意味自分ごとにすると
ミッション社会における使命感・役割成し遂げたいこと
ビジョン理想とする姿の追求将来あるべき姿の追求
バリュー組織が共有して持つ価値観ウリ

大きな企業・組織を中心に使われるビジネス用語を、副業・個人事業主などにそのまま使うと現実とかけ離れてしまうことがあります。まずは自分が理解できることばに置き換えて現実的に考えるとわかりやすくなります。とはいえ、こうした理念は押さえておくべきだろうと思うのです。

他者との差別化が図れる

ピアノの教師をする場合も

「成し遂げたいこと」

「将来あるべき姿を追い求めること」

「ウリになるもの」

を明確にできれば、他者との差別化が図れます。国際コンクールに出場するような人材を育てたいのか、音楽を楽しめる環境を整えてあげるのか、では「成し遂げたいこと」も「ウリになるもの」も違ってきます。どちらがいい悪いではありません。それは、ピアノの教師をしようと思う人のリソースを踏まえたうえでの判断になります。

近所の子どもたちに、音楽を楽しめる環境を整えてあげるというミッションを掲げていたとしても、そこから著名な音楽家が育つ可能性もあります。その時に、あなた自身が指導し続けるのか、他の先生に委ねるのかは、指導する能力・演奏家としての技術、これまでの実績などに応じて変わってきます。

その時その時の変化に応じて何を目指すかは「将来あるべき姿を追い求めること」に大きく影響してきます。そのためにも、現実を踏まえながら理想へ向かって理念を考えておく必要があると思うのです。

 選択をするときは理念に立ち返る(写真/Canva)

理念はどうやって考える?

そうした理念をキャッチコピーから考えてみるのも一つの方法です。あなたがやろうと思っている仕事のキャッチコピーをつくってみるのです。テレビの企業CMなどで、僕たちの耳にも馴染みのあるものをいくつか紹介してみます。

日立Inspire the Next
東芝人と、地球の、明日のために
ドトールすべての今日を、支えていく

企業のホームページにも載っているので、参考にしてください。

日立のコピーは、「次の世界をにらんで動いている」という印象が強く出ています。東芝とドトールは、SDGsを意識した「持続可能な社会を担う」意気込みを感じます。

ところが、キャッチコピーは、時代によって変わったりもしているのです。東芝はかつて「Leading Innovation」と言っていました。ドトールも「ドトール、のち、はれやか」でした。キャッチコピーが変わるのは、時代に沿った形で企業理念を表現しているからです。

先ほどピアノ教師の例を挙げたように、僕たちだって小さいながら仕事を立ち上げれば、「成し遂げたいこと」「将来あるべき姿を追い求めること」「ウリになるもの」は、時を経て変化してきます。いまある仕事をこなしながら、変化に対応できるだけの力を養っておかなくてはならないのです。

理念から着想した社名、キャッチコピー

僕は会社名を「未來交創」としました。それは「未来は人と人とが交わって創り出していくものだ」という僕なりの気持ちを込めた造語です。「交創」は「構想」にかけています。「來」を旧字体にしたのは、もともと「麦」の象形文字だからです。麦は春先に霜柱で浮き上がります。それを土とともに芽を足で踏んで押さえます。いわゆる麦踏みです。そうして麦の不必要な生長を抑制して根張りをよくするのです。踏みつけられて、立派な実をつける「麦」を「來」という象形に感じたからです。

キャッチコピーも考えました。

ことばを使って人生をデザインするという意味で「ことばデザインワークス」とか、ことばでコミュニケーションを円滑にする意味を込めて「コミュニケーションファクトリー」であるとか、その時々に感じたことをことばに落としていったのです。まだ、「ウリになるもの」が曖昧な時期のことでした。

文章コンサルタントという仕事をミッションとしてからは「文章コンサルティングファーム」ということばを使うようにしました。まだ一人なのに「ファーム」としたのは、将来同様の仕事をする仲間をつくりたいという思いからです。

キャッチコピーは「ことばで未来の扉を開く」としました。ことばや文章を、やはり事業の中心に据えたいと思っているのです。本コラムのタイトル「みらいのとびら」もここから、採りました。

ことばには描いた方向へ連れて行ってくれる力がある(写真/Canva)

仕事はことばで成立している

仕事はことばでできています。企業の広報やプレスリリース、自治体の広報誌も、伝えたい思いをことばで表現できるかどうかに掛かっています。大学生の就活もエントリーシート(ES)が、社会の扉を開けるカギになります。それこそ、幼稚園や小学校の入学願書も、思いを伝えるという意味では同じなのです。ことばを道具として使いこなせるようになれば、未来の扉を開くことができるのです。

恐らく、あなたもどこかで「何かをなしたい」と思っているはずです。その思いを客観的に見て、社会の動き(ニーズ)をつかめるようになれば、同業の人たちとの違いを打ち出せます。それこそが、「ウリ」になります。それをことばにするためにも、あなたが理念とするものを見つめ、見直す作業を繰り返してほしいのです。

そうすれば、ひと雫のことばが、あなたの中に浮かび上がってくるはずです。

     

執筆/文筆家・前田安正

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

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