みらいのとびら 好きを仕事のするための文章術ことばの力は願望を宣言に、宣言を実現に変える。自己投資とバカの意外な関係とは?
文章のプロ・前田安正氏が教える、好きを仕事にするための文章術講座。第13回は「思いをことばにすることが、自己投資の第一歩になる」です。
目次
ことばの力で「願望」を「宣言」に変える
「〜したい」を「〜する」ということばに置き換えると、世界が変わります。「副業をする」と言えば、その際の課題が見えてきます。課題が見えてくれば、そのために何をすればいいのか、という目標が見えてきます。時間がないなら時間をつくる工夫をします。お金がないなら、分割にできないかを相談すればいい。だめなら目的貯金をする。つまり、できない理由を考えるのではなく、できることからひたすら解決していけばいいだけです。
自分のために2万円を投資できない人が逃すものとは?
僕は、大学のキャリアセミナーでエントリーシートの書き方を中心とした文章講座を担当しています。テーマを出して学生に400字で書いてもらいます。それを添削して課題を伝え、再度書き直したものをさらに添削するという講座です。そこで学生から「もっとブラッシュアップしたいので、講座が終わってからも見てもらえないか」という声が上がりました。
僕は「1回は無料で見るが、2回目からは添削料として2万円をもらいます」と伝えます。すると、ほとんど「見てほしい」とは言ってきません。無料のチャンスさえも放棄するのです。授業で教えたことは、大学から報酬を得ています。「学生だから当然、無料ですよね」という考えには、与しません。情報はただでは得られないということを知ってもらいたいからです。ただ、学生から2万円も取ろうという気持ちもないのです。
なかには、エントリーシートを書いて送ってくる学生もいました。その学生に対して、僕は何度も添削をし、模擬面接までしました。その学生は、みごと希望の会社に合格しました。もちろん無料です。
無料の自己投資は存在しない?
それなら、初めから無料で見る、と言えばいいじゃないか、という意見もあることと思います。ところが端から無料で得られると思ったものは、身につきません。自己投資になっていないからです。
自己投資をしたからといって、必ずしもその対価を得られるという保証はありません。しかし、本当に手に入れたいと思ったことは、自己投資をして成果を得られるように努力するものです。
これは、学生だけの話ではありません。誰しも、無料セミナーなら受けてみようと思います。しかしそこでは中身のない話ばかりで、高額のバックエンド商品(サービス)に誘導するための手段に過ぎないことがほとんどです。これはセミナー商法の常道です。
先生業をする人は、教えたがりが多い。だから、無料セミナーで教え過ぎて、受講者から「わかりました。自分でやってみます」と言われ、バックエンド商品まで誘導できないことが多い。
これは、僕が大学院を出た後に通ったウェブ集客を学ぶ塾で言われたことです。一理あると思いながらも、納得できませんでした。中身のない無料セミナーで、集客できるとも思えないからです。
「バカ」にできることと「小利口」にできること
チャンスの神様は、頭の前にしか髪の毛がないので迷わずつかめ、という話を聞いたことがあります。
「取り敢えずやってみる」という考えは頭でわかっていても、実際に行動する人は本当に少ない。そもそもチャンスであることに気づかない場合もあります。チャンスは、偶然を装ってやってくるからです。
動けば、そこに流れができます。僕も独立を考えていた、そのタイミングで子会社設立に立ち会うことができ、社会人大学院に行く切っ掛けをつかみました。そして大学院の仲間と出会い、「あなたは文章で勝負すべきだ」と叱咤され、そこに書籍のオファーがきました。
いまでも、飲み会の誘いであれ、仕事のオファーであれ、断ることはまずありません。どんなに仕事が目いっぱいであっても、体が少々しんどくても断りません。それは、その先にきっと面白いことが待っているだろうという期待があるからです。面白いことが待ち受けている(はずの)チャンスは逃したくないからです。
これについては事業家の堀江貴文さんも次のようなことを言っています。「事業家や社長のほとんどは天才かバカだ。天才だと思っている社長もほとんどがバカだ。でも、普通の人は小利口なだけ。バカになれない」
僕は堀江さんの信奉者ではないのですが、このことばには「なるほど」と思わされます。小利口は、できないことの理由を並べ立てるのが上手いからです。
「バカ」になって自己投資をしたらどうなるか?
僕は「マジ文アカデミー」というライティング講座を主宰しています。現在、6カ月のコースで60万円+税です。
受講生募集の無料セミナーでは、1時間半ほど文章についての基礎講座を開きます。これは、大学の一コマ分とほぼ同じ内容です。興味のある方には、個人セッションを開いて課題を聞き、講座をカスタマイズします。
講座は隔週で、第0講〜第12講。第0講まで無料です。第0講に参加する人には、事前課題を出して添削をします。6カ月で13回。1回1時間半です。そこで毎回、文章講座と添削をします。添削で出た課題は再度書き直してもらい、さらに添削します。2回で終わらなければ、何度でも書き直してもらいます。多いときは4回ほど書き直してもらうこともありました。
さらに、1回1時間の個人セッションも12回開きます。講座修了後も3カ月間は、フォローアップとして月1回1時間の個人セッションを設けています。ざっと見積もって、一人と34.5時間、お付き合いすることになります。これは、添削時間と資料作成時間を除いた時間です。
これを高いと思うかどうかは、この講座を必要とするかどうかに掛かっています。文章に対して自己投資の必要がない人には、全く意味のない話です。「一度、前田の講座を聴いてみたかった」という方もいて、それはそれでいいのです。
文章力が必要だと思っても、講座料を見て「高い、無理」「時間がない」と思う人もいると思うのです。比較検討した結果、他の文章講座を選択したという方もいるはずです。それも当然のことです。
ここで言いたいのは、必要を感じているなら、バカになって飛び込んでみる勇気を持とうということです。
「〜したい」と思っている間は、ことをなせません。「副業をしたい」の後には「でも、いまは時間がない」「でもいまは、お金がない」というマイナス心理のことばが後ろに付いています。できない理由をあげて自分を納得させるのです。
ちなみに僕の講座でも「月1万5千円ずつの支払いにできないか」という相談がありました。もちろん僕はOKしました。やりたいことがあるのに、お金がネックになるなんてもったいないじゃないですか。2万円を払うつもりで、エントリ−シートを持ってきた学生も同じです。思いこそが、偶然を装ったチャンスの神様です。
人は、自分の思いをことばにするものです。「〜したい」を「〜する」に置き換えることが、自己投資の第一歩となることは間違いありません。
執筆/文筆家・前田安正
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この記事を書いた人
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早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。