Series
連載

みらいのとびら 好きを仕事のするための文章術「レッドオーシャン」で刊行した書籍が 10 万部突破 ポイントは「視点の変化」

ログインすると、この記事をストックできます。

文章のプロ・前田安正氏が教える、好きを仕事にするための文章術講座。第 11 回は「ブルーオーシャンは視点を変えたらつくり出せる」です。

プロフィール

未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正

ぐだぐだの人生で、何度もことばに救われ、頼りにしてきました。それは本の中の一節であったり、友達や先輩のことばであったり。世界はことばで生まれている、と真剣に信じています。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。

レッドオーシャンから抜け出すには?

ブルーオーシャンは思わぬところからつくり出せる(写真/Canva)

レッドオーシャンの中に飛び込むには、やはり準備が必要です。集客への不安は多少減るにしても、それなりのコンセプトを持たなければ、生き残ることはできません。レッドオーシャンをブルーオーシャンに変える視点を持つことが重要になります。


本を書くという作業もその一つです。


書店に行けば、数え切れないほどの本が並んでいます。しかし、ビジネスコーナーには、さまざまなテーマの本が並んでいます。まさにライバルがひしめくレッドオーシャンなのです。コンビニの商品と同様、売れなければ、棚から即座に外されます。本は毎月新刊が、それこそ大波のように押し寄せるからです。

レッドオーシャンで見つけた独自のポジション

僕が、初めて文章作法の本を出したのが 2013 年 5 月です。新聞に漢字の字源『漢字んな話』というコラムを連載していたときのことでした。それを読んだ編集者から「文章作法について執筆してほしい」という手紙を頂戴したのです。


これには、戸惑いました。文章作法は、三島由紀夫や谷崎潤一郎、丸谷才一といった小説家や、論説委員、編集委員といった新聞社のスターライターが書くものだと思っていたからです。


僕は校閲部門にいたので、原稿を書くのが本業ではありませんでした。編集者がどういう意図で僕に出版のオファーしたのかも理解できませんでした。その編集者から、「校閲の視点でわかりやすい文章をつくる本を出したい」という狙いを聞かされました。とはいえ、かなり難しい注文です。


僕自身、文章作法に関するものは三島由紀夫と丸谷才一の『文章読本』くらいしか読んだことがなかったのです。慌てて、書店に飛び込みました。日本語関係の棚にあるのだと思って探すと、ないのです。書店員に聞くとそれは、ビジネスコーナーにあると言うのです。「文章はビジネスの一環なのか」。驚きながら、コーナーに行くと、文章作法に関するたくさんの本が並んでいました。いくつか見てみると、「文章は短い方がいい」「文は短い方がいい」と「文章」と「文」の定義が曖昧なまま使われていました。その事例として原文が書かれていて、横に改善例が並んでいるのです。ところが、そのどこがわかりやすくなったのかという科学的な説明がありません。改善例を示して、「このようによくな
った」でしょ、と言うのです。


改善すべき根拠を示せないまま新聞社の出稿部デスクに話を持っていっても、門前払いされるだろうな、という感想を持ちました。


ようやく、編集者の意図を理解できました。文章を直したりするには、科学的に根拠を示さなくてはなりません。それは校閲の得意とするところです。それでも、校閲の人間が文章について書くことに、読者は納得するだろうかという危惧はありました。一方で、これまでと異なる視点の本が書ければ、他の本と差別化できるかもしれないとも考えました。


これこそが、ブルーオーシャンに変えるヒントだったのです。

そうして生まれたのが『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(すばる舎/朝日文庫)で、3 万部ほど売れたのです。

視点を変化させるとブルーオーシャンになる

視点を変えたことがベストセラーにつながった(写真/本人提供)

10 万部超の『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)は、「きっちり!」を読んだ編集者からのオファーでした。編集者も文章を直すことができないという課題を提示されました。そこで、就活の際にエントリーシート(ES)で悩む 20 歳の学生をペルソナとして本をつくることにしました。当時、大学で就職支援の講座を担当していて、ES で文章の壁に悩む就活生を見ていたからです。そのため、文章作法だけでなく自分をどうプレゼンすればいいのかという視点で書くことにしたのです。このコラムのタイトルの基になった「文章で未来の扉を開く」というコンセプトは、ここで固まったのです。


「わかりやすい文章作法」というカテゴリーには、たくさんの本が並んでいます。そのほとんどは、同じような内容で書かれています。


「飲み屋街」に数件の焼き鳥屋があったとしても、高級店を除けば、その味も値段も大きく異なることはありません。


レッドオーシャンをブルーオーシャンに変えられるかどうかは、視点の置き方によります。ある店舗はのれんの大きさを変えたと言います。店内の様子が気になるような大きさののれんにして集客に工夫したそうです。


また、ビールサーバーをカウンターに据え付けて、自由に客がつぐことができる飲み放題にした店もあります。ビールのジョッキ不足や店員の削減につながったそうです。


つまり、焼き鳥は焼き鳥なのです。差別化を図るなら、それ以外のプラスアルファの視点を付加して、新しい店だと思わせることが必要なのです。


レッドオーシャンをブルーオ−シャンに変えるのは、既存のものにプラスアルファの視点を加えることです。見せ方や視点を少し変えるだけで、差別化できるのです。


これは「わかりやすい文章作法」と同じなのです。

ブルーオーシャンを実現した事例解説

改めて僕の本で説明します。初めて出した文章作法の「きっちり!」は「校閲の視点で、科学的に根拠を示す」ことを新しい視点としてつくりました。ですから、修飾語と被修飾語の関係や、主語と述語のかかり方を矢印で示して文章を図解したのです。それまで、矢印を使って、ことばのかかり方を示した本がほとんどなかったのです。また、日本語の本であるにもかかわらず横書きにしました。その方が矢印を示しやすかったからです。


「マジ文」は、ペルソナと目的を絞って「文章の話をことばで語らない」ことを意識しました。4 色カラー、判型も小さなバッグに入るようにし、イラストとキャラクターを際だつようにしました。フォントも手書きに近いものを採用しました。とにかく、若い人に読んでほしかったのです。

たとえば、書道なら子ども、大人という大きな括りではなく、篆刻も一緒に教える方法があるかもしれません。敢えて下手な字を取り上げてその原因を共有し、それをどう克服すれば、上手くなるのかということを教室のみんなで話し合い実践するという方法だってあるかもしれません。


普段見慣れた風景から、新しい未来を見いだすタネを見つけて、視点を変える。そうすれば、レッドオーシャンをブルーオーシャンに変えることができます。それが、未来の扉を開けるポイントとなるはずです。

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

ログインすると、この記事をストックできます。

この記事をシェアする
  • LINEアイコン
  • Twitterアイコン
  • Facebookアイコン