白川密成のお悩み駆け込み寺 僕にもわかりません若い新社長がリーダーシップを発揮できず会社がガタガタ。良い人材をどこで探せばいい?
読者から寄せられた働き方や仕事のお悩みに白川先生がお答えする癒しのコーナー
【白川密成のお悩み駆け込み寺― 僕にもわかりません―】
今日のお悩み
若い新社長就任で会社がガタガタ。良い人材をどこで探せばいい?
60 代・女性 経営者
京都でカフェのオーナーをしていますが、ある企業の大株主でもあります。昨年、38 歳の新社長を迎え入れました。しかしトラブルが絶えません。ミスだけでなくコミュニケーション不足で人間関係でも問題が発生。仕方なく自分も経営に参画して 1 年、なんとか持ち直しましたが、良い社員がなかなか見つからないのが目下の悩みです。理想の人材と出会うためのコツがあれば、ヒントを教えてください
目次
白川先生からあなたに贈る言葉
「工夫」
最近、お寺でアルバイトを募集しました
お悩みをありがとうございます。シビアなビジネスの世界に精通しておられるあなたに、僧侶である私が、なにか有用なアドバイスをできるか心許ないですが、もしかしたら、今までとは別の視点があるかも知れないので、思いつくままにお答えしてみます。
そういえば、最近、私が住職をつとめるお寺で、不定期のアルバイトが必要になり、尼僧の妻がはじめてネットで人材募集を試し、何人かの募集があったので面接をする機会がありました。多くの人が、「お寺の募集なんて、はじめてみたので興味を持ちました」と話されていましたが、「働く」ということは、どれだけ経験を積んでも、答えのない難しさを持ちつつも、面白いことですよね。
愚直にビジョンを
まずは仏教とは、関係のない話ですが、数年前に雑誌の企画で対談をさせて頂いた経営者の方が話されていたエピソードが、印象的で今でも心に残っています。その方が、ある大きな外資系企業の社外取締役をされていた時、その企業の「離職率」が非常に高いことが、大きな問題になっていました。
そこで、その方が会議で相談を受けた時に、「自分はこの会社に関わって、何年か経つけれど、“自分達の仕事を通じて、こんな社会を実現させたい”とか、“こんな人たちが、喜ぶんじゃないか”というような、イキイキとした夢やビジョンを聞いたことがない。もっと会社が従業員に対しても、夢を持ったビジョンを語るべきじゃないか」と提案し、このことを深刻に受け止めた企業も、真摯に受け止めた結果、離職率が大幅に減少したとのことでした。
これは、私自身も耳が痛い話でした。日々の仕事や儀式を「いつも通り」することに追われ、自分達が、お寺や仏教を通じて、「どんな“うれしいこと”を社会に実現したいか」という、視点が欠けているような気がしたからです。
相談者のあなたは、日々そういったことに向き合われているとは思うのですが、「人材」という壁にぶち当たったことを契機にして、一度、愚直に「自分達って、社会に対して、どんな“うれしさ”を提供するビジョンや夢が持てるだろう」と組織全体で真剣に取り組むと、自然といい人材が集まり、育つ要素が組織の中に芽生えてくるかもしれません。「言うはやすし」ですし、そんなにうまくいくことばかりではありませんが、少なくとも取り組む価値があることではないでしょうか。
100 パーセント、そんな風にビジョンを持って働くことができなかったとしても、わずかでも、そういう要素が加われば、変わってくる面があるように思います。私がんばります。
空海の言葉「人の癖を活かす」
私は約 1200 年前に生きた弘法大師・空海の書かれたものに日々触れることが多い役割ですが、空海が当時、書き残していることものもヒントになると思います。例えば、「人に能力を発揮させるためには、人の性格の“癖”を強制的に直すのではなく、その曲がった所を“活かして”役割を与えてみてください」という意味のことも述べられています。こういっては身も蓋もありませんが、その 38 歳の方は、今はまだマネージャーというよりも、プレイヤータイプだったのかも知れません。
他にも、「なにかを学ぶ時には、自分の専門分野だけに捕らわれず、様々な分野を学ぶように」と学校を設立する時の文章にあり、これはビジネスの分野でもそうだと思いました。方法論だけでなく、様々な分野に興味を持ち学ぶこと自体が、人材確保に対しても、新しい視野がありそうです。
「工夫」
今回、あなたに贈る言葉は「工夫」です。よく使う言葉ですよね。この言葉は、現代ではご存じのように、様々な考えを巡らせるといった意味で使われている言葉ですが、仏教語としては、「仏道修行に専念する」という意味があります。
何かに取り組む時に、よく考えることも大事です。しかしそれを修行のように「実際に行う」ことも意識してみてください。ある方が、新しいお店を出す時、場所を決める際に、何日も街をただ歩き回ったり、何時間も外ですわって地域の人の流れを凝視する、と書かれていましたが、そういったことも、「考え」だけに留まらない行為だと思います。
もっとシンプルに「工夫」を捉えても、長く仕事に関わっていると日々、「工夫」することを、ついつい忘れてしまいます。しかし仕事の中でのご褒美のような楽しさや、うれしさはこの「工夫」の中に詰まっているようにも感じています。
答えている内に、自分の「座右の銘」を「工夫」にしようかな、思うほどです。「工夫」の語に詰まっている、“実際にやってみる”と“繰り返し考える(ことを癖にする)”のサンドイッチをヒントにしてみてください。
【今日のまとめ】
- もっとビジョンを語ってみよう。
- 弘法大師の学ぶ「癖を活かす」、「他分野を学ぶ」。
- 「工夫」の語をヒントに「実際にやってみる」「繰り返し考える」。
【直感・運気アップ】
- 2 泊 3 日で、組織ビジョンの「ひとり合宿」をやってみよう。
- 実際にやることをいくつか決めよう。
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この記事を書いた人
- 「ほぼ日刊イトイ新聞」に「坊さん。」を連載。その後、著書『ボクは坊さん。』(ミシマ社刊)が映画化。著書多数。他の連載に「密成和尚の読む講話」(ミシマ社「みんなのミシマガジン」)、「そして僕は四国遍路を巡る」(講談社、現代ビジネス)など。執筆や講演会などで仏教界に新風を巻き起こすべく活動中。趣味は書店で本の装幀デザイナーを当てること。1977年生。
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