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みらいのとびら 好きを仕事のするための文章術3000 文字書いて、800 文字に減らす。このプロセスでプロフィールにエピソードを盛り込める【第5回】

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文章のプロ・前田安正氏が教える、好きを仕事にするための文章術講座。第5回は「文章を減らす」作業で濃縮させる、です。

プロフィール

未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正

ぐだぐだの人生で、何度もことばに救われ、頼りにしてきました。それは本の中の一節であったり、友達や先輩のことばであったり。世界はことばで生まれている、と真剣に信じています。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。

1日2つ書けば一か月で完成

50 も箇条書きにできなかったという方もいたでしょうし、それを文章にすることができなかったという方もいたことと思います。焦って書く必要はありません。
毎日数個ずつ書いていってください。一日二つ書き出していけば、1 カ月で 60 ほどになります。
文章としてまとめることができなかったという方は、箇条書きにしたものを取りあえずつなげていってください。まずは、それでじゅうぶんです。初めから整った文章にする必要はありません。


今回は、その続きをお話ししていこうと思います。前回、ストーリーにまとめたものは、3000 字ほどになりました。それは、小学 5 年から時系列に並んでいます。
ここでもう一つ思い出してもらいたいことがあります。それは、履歴書とプロフィール文の違いです。履歴は過去の出来事、プロフィールは未来を含んだストーリーだと言うことです。

過去と未来を分ける

前回書いたものは、履歴を文章におこしたものです。
箇条書きの 1〜46 は、思い出のなかにあるものを記しています。47〜55 が、実際にギター教室を開くきっかけとその理由です。

つまり未来の姿は、そこに含まれているのです。

1〜46思い出
47〜55未来の姿

好きになった理由などを書き出していったのは、この最後の部分を確認するためのものでした。プロフィールは、そこから書き始めればいいのです。もちろん、時系列を追って書いていくことを否定するものではありません。その際には、未来の姿までを読んでもらえるように文章の精度を上げていく必要があります。

前回書いた 47〜55 の箇条書きを再度、掲載します。

47.長男が中学に入る頃、納戸にしまったギターを見つけて、弾きたいと言い出した。
48.「弾いてよ」とせがまれるが、弾く気にはならなかった。
49.息子の部屋からギターを練習する音が聞こえてくる。あまりにひどいので、つい口を出してしまった。それを見ていた妻が、息子との会話も大事だ、ギターを通して会話したら?と言ってきた。
50.20 年ぶりにギターを弾いた。指はうまく動かなかったが、それでも息子と妻は喜んでくれた。
51.すると、息子と同じ頃にギターに打ち込んでいた頃の喜びが、ふわーっと思い出された。
52.ギターを弾く私を、息子が目を輝かせて見てくれる。
53.その週末「ギターをみんなに教えてほしい」と、息子は友達を数人連れて、家にやってきた。
54.口コミで、次第にギターを教わりにくる子どもたちが増えてきた。
55.保護者の方からも「月謝を払うので、ぜひ、教えてやってほしい」という声を頂戴するようになった。

一時期プロの道を目指し挫折した経験が、その後ギターを遠ざけていました。こうした思いを転換させたポイントが 49 です。つまり、これをきっかけにギター教室の道が開けたのです。
恐らく皆さんも好きなことを仕事にしようとおもったきっかけがあるはずです。そこから書き出していけば、比較的スムーズに進むはずです。

50 の箇条書きから1エピソードを抜き出す

【50 分の1から 800 文字のプロフィール】

「ギターを弾くのは楽しい」。私はギター教室を通して、自らを表現する場を広げたいと思っています。
そう思ったのは、息子の部屋からギターを練習する音が聞こえてきたのがきっかけです。彼が中学入学前の春休みのことでした。(105 字)

ギター教室を開くきっかけと、どういう教室にしたいのかという展望をまず書いていきます。「ギターを通して自らと対話し心をほぐす」がいささか難しい表現になっています。これが理解できるようエピソードを書いていきます。

私も小学 5 年のときにウェス・モンゴメリーというジャズギタリストのアルバム『The Incredible JazzGuitar of Wes Montgomery』を初めて聴いて、ギターの魅力に引き込まれました。
息子のギターを聞いたとき、もうそんな年になったのか、という感慨と共に苦い思い出がよぎりました。
大学在学中に、私はプロになるためアメリカのジャズバーで働きながらギターの勉強をしていました。しかし、力及ばず挫折して帰国しました。以後、二度とギターを弾くことはありませんでした。(205 字)

こんな状態からどうやって再びギターを手にするようになったのか、を続けます。

息子のギターを聞くたび「ああ、違う」と小さく声を漏らしているのを見ていたのか、妻があるとき言いました。「思春期に入ると、息子と話をする機会も減ってくる。ギターを通して会話したらどう?」
息子とギターを通して会話? そのことばが妙に心に引っかかりました。それもあって一度だけ、家族を前にギターを構えました。するとウェス・モンゴメリーの「In Your Own SweetWay」のメロディーがすーっと浮かんできました。さすがに何カ所かは間違えたけれど、指が自然に動いたのです。(220 字)

ここから、ギター教室を開くにいたった心境の変化を綴っていきます。

その時の息子の驚いた顔が忘れられません。それにもまして、一心に上手くなりたいと思って練習していた頃の自分を思い出したのです。「息子とギターを通して会話したら?」と言った妻のことばは、もう一度ギターを始めろというサインだったのかもしれません。
「ギターを教えてほしい」と、息子が毎週、友達を家に連れてきました。やがて口伝てで人が集まってくるようになったのです。(178 字)

ギター教室を開いた思いを伝えます。

音楽は情熱の発露、自己表現の手段です。ギターはその表現手段のひとつです。
私は、ギターを楽しみながらあなたの思いを表現できる場をつくりたいと思っています。
現在、10〜70 歳代の 20 人とともにギターを楽しんでいます。一度、遊びにいらっしゃいませんか?(120 字)

これで、830 字ほどです。3000 字のストーリーから「ことばの芽」を見つけ、それを言語化していきました。
要は、思いの丈を書けるだけ書いて、そこから自分の気持ちを抽出していくのです。あなたの思いを編集する作業でもあるのです。2000 字以上、無駄になったとは思わないでください。すべてを書き出したから、伝えたい気持ちを整理できているのです。端から 800 字に収めようとすると、字数のことで頭がいっぱいになり、伝えたいことが薄まってしまいます。


【エピソードのないプロフィール】

これはプロフィールではなく、エッセイみたいになってない?という疑問もあるかと思います。では、以下のプロフィール文と読み比べてみてください。

小学 5 年でギターに目覚める。大学時代、アメリカでプロになる勉強をするも挫折。以後 20 年、ギターを封印していた。
中学に入る息子が、ギターを弾いていたのをきっかけにギターを再開した。息子の友達にも教えるようになり、口伝てで人がふえたため、教室を開くようになった。
教室では、表現の場を広げたいと思っています。現在、10〜70 歳代の 20 人がギターを楽しんでいます。
一度遊びにいらっしゃいませんか?

これで 190 字ほどです。ほとんどエピソードのない履歴をなぞっただけのプロフィール文です。
これではギター教室を開いて、「思いを表現できる場をつくりたい」という思いがじゅうぶん伝わりません。


プロフィールにエピソードを書くということは、思いを伝えることです。思いを伝えるにはエピソードがどうしても必要になります。これを記すことが、言語化なのです。
時系列に並べた履歴は、プロフィール文とは別に用意すればいいのです。


まずはプロフィールとしての文章を、800 字ほどをめどにたっぷり書いてみましょう。これを元に 1000 字にしたり 300 字にしたりするのは、さほど難しくありません。

【プロフィールワーク】

  1. 箇条書きを50個
  2. 未来を書き出した最後の10個から1つを選ぶ
  3. 1つをもとに800字のプロフィールを書く

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

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