Interview
インタビュー

東儀秀樹が3年ぶりの最新アルバムに込めた「色気」と「ありえない演奏法」。息子と共演した新曲で「ビックリした」独特の発想とは?

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雅楽師・東儀秀樹さんが3年ぶりのアルバムで、ロックバンドのメンバーでもある息子と共演しました。東儀さんを驚かせた息子のギター演奏は、タケカワユキヒデさんらとの密かな交流に裏打ちされていたといいます。

プロフィール

雅楽師東儀秀樹

1959年生まれ。高校卒業後宮内庁楽部に入り、篳篥(ひちりき)を主に、琵琶、太鼓類、歌、舞、チェロを担当。宮中儀式や海外での演奏会に参加する一方、ピアノやシンセサイザーとともに雅楽の持ち味を生かした独自の曲の創作にも情熱を傾ける。1996年デビューアルバム「東儀秀樹」で脚光を浴び、2000年「TOGISM2」で日本レコード大賞企画賞を受賞。著書に『すべてを否定しない生き方』『雅楽:僕の好奇心』など。

3月29日に最新アルバム「NEO TOGISM」を発表した東儀秀樹さん。コロナ禍をポジティブに乗り越えた制作中の心境や、ギタリストでもある息子との共演について語りました。

アルバム「NEO TOGISM」限定版のジャケット

どんな状況になっても音楽を楽しむことは奪われない

――アルバム「NEO TOGISM」を3月29日にリリースされました。3年ぶりの作品ですが、どのような思いで制作されたのでしょうか。

東儀:1996年にアルバム「東儀秀樹」でデビューしてから年に1枚は新作を出し続けてきました。それがコロナ禍になり、スタジオなどで作業をすることが難しくなってしまった。「無理をして出しても良い結果にはならないし、どんな状況になっても音楽を楽しむことを奪われたりはしないのだから」と自宅でいろいろな楽器をひたすら楽しんでいました。

――「音楽を楽しむことを奪われたりしない」。東儀さんの思考にはいつも励まされますが、やはり前向きにとらえられていたのですね。

東儀:そうですね。ただ止まっているだけではなくて、ワクワクすることを探そうって。自宅には色々な楽器がいつでも演奏できる状態で置かれているので、これもいつものことなのですが、子どものとき部屋でギターを弾いているような感覚で好きなように自由に楽器を演奏していました。そういえばデビュー前にこんな笙のフレーズを考えたこともあったなあ、なんて思い出したりしてそれを膨らませてみたり。頼まれたわけでも期日があるわけでもないのでかなり自由に展開して作りました。今思いついたもの、そして深く想いを込められたもの、過去の自分から受け取った「種」の花も今なら咲かせられるし、はいま形にするものだと、過去の自分から受け取った「種」の花を咲かせようと進めていきました。

「琵琶はかわいそう」だからやった、あることとは?

――雅楽とプログレッシブロックを融合させたアルバムには、古典をモダンにアレンジした「朝倉音取幻想曲」のほか、10分以上の大作「Memories Of Future」など13曲が収録されています。どれも進化し続ける東儀さんを体現した曲ばかりです。

東儀:「Memories Of Future」と「Clockwork Universe 時計仕掛けの宇宙」にはこれまでやりたいと思った要素を詰め込みました。僕は(英国のロックバンド)ピンク・フロイドの「狂気」というアルバムが大好きなのですが、「狂気」が1枚で物語を構成していたように、「Memories Of Future」の可能性を広げていきたいと考えました。10分で1曲ではなく、3曲に分けることもできたけれど、そうではない大作にしたかった。笙などの音はもちろん、リズムの変化、歌も入っているので、本をめくるように楽しんでほしいです。

――勇ましい「Steppin’ Slide」は今までにない演奏表現に胸がざわつきました。琵琶を独奏演奏していた「夢幻霊月」はアルバムではドラムなどと競演し、また違う魅力を引き出しています。

東儀:琵琶はメロディーを弾くことができないと言われているかわいそうな楽器なのですが、僕なら可能性を広げられる、と追求していきました。エレキ・ギターを弾くように指をスライドさせているのは、僕が長くギターやベースなどを親しんでいるからこそ生まれたもの。琵琶だけを演奏していらっしゃる方だったら「ありえないこと」と思われるようなことも、大胆に取り入れています。

演奏の中に醸される色気の正体は?

――雅楽で用いられる笙、篳篥、龍笛はそれぞれが、天・地・空を表していて、重なることで宇宙を創る要とされています。琵琶はどのような意味が込められているのでしょうか。演奏に色気を感じました。

東儀:色気を感じたのは、僕に色気があるからじゃないかな(笑)。音楽には昔から、異性・同性問わずに、人を魅了する力がありますよね。宇宙とつながっている雅楽には、細胞を持つ生き物を振り返らせる力があるのだと思います。

ロックもできる雅楽師の父と雅楽もできるロッカーの息子

――アルバムには、ご子息の典親さん(愛称:ちっち)もギターで参加されています。

東儀:何曲か共演しているのですが、「ハレソラ」という曲では彼の発想のユニークさにビックリさせられました。僕はトラッドなロックが好きなので、ギターソロを弾くときは予定調和なものになりやすいのですが、彼はいつの間にかFacebookなどで(四人囃子)の佐藤ミツルさん、タケカワユキヒデさん、ミッキー吉野さんなどとつながっていて、使っているエフェクターなどについてやりとり、未発表の音源を聴かせてもらったりして知識を深めているみたい。

――ちっちさんが研究を重ねた証が「ハレソラ」に詰まっているのですね。東儀家は奈良時代から1300年以上、雅楽を世襲してこられました。ちっちさんも12歳のときに、京都の仁和寺で初舞台を踏まれましたね。東儀さんの活動25周年を祝うコンサートでは、親子3世代の共演も話題になりました。ちっちさんは、いつごろから音楽に興味を持ち始めたのでしょうか。

東儀:幼い頃から僕のコンサートに来ていました。自宅には笙や篳篥のほかにギターもピアノもあるので、吹いて(弾いて)遊んだり、僕が演奏する様子を見て、聴いて真似をするうちに馴染んだようです。僕は彼に雅楽師になってほしいと言ったことはないし、「東儀家はこういう家系だから」と膝を突き合せたこともない。僕と同じように伸び伸びと音楽に接しているので、これからも楽しんでほしい。僕はロックもできる雅楽師で、彼は雅楽もできるロッカー。これが一番しっくりきます。

息子との演奏の様子

――ちっちさんは、現在はご友人たちと結成したバンド「GRASSHOPPPER(グラスホッパー)」としても活躍されていますね。

東儀:息子のことは、分身のように感じています。だから、全面的に応援したいと思っています。彼の良いところはたくさんありますが、僕の音楽も生き方もリスペクトしていると、僕が横にいても平気で口にする素直さは偉いなと感じています。彼がひとり立ちできるように、成長していく姿を見ることがいまの楽しみでもあります。

――ちっちさんとは4月4日に、オリックス・バファローズが、京セラドーム大阪(大阪市西区)で福岡ソフトバンクホークスを迎え撃つ、本拠地開幕戦で球団応援歌の「SKY」と国歌を演奏されます。5日には平安神宮(京都市左京区)で開催される音楽会「桜音夜~紅しだれコンサート2023」にも親子出演されますね。

東儀:国歌はもちろん、スタジアムでファンの人に親しまれている球団応援歌「SKY」を演奏できることをとても光栄に思っています。野球命の方々が集結している開幕戦で、日本に1000年以上も前からある楽器について知ってもらえるチャンス。考えるだけでもワクワクします。平安神宮では今回のアルバムに収録した曲も演奏する予定です。僕は笙と篳篥。彼はエレキ・ギターを持って、平安神宮という場にふさわしい狩衣を着てステージに立つ予定です。雅で幻想的な世界を楽しんでいただきたいです。

取材・文・写真/翡翠
編集/MARU

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