白川密成のお悩み駆け込み寺 僕にもわかりません新しいことに後ろ向きな会社の方向性に対して違和感と不安を感じる
読者から寄せられた働き方や仕事のお悩みに白川先生がお答えする癒しのコーナー
【白川密成のお悩み駆け込み寺― 僕にもわかりません―】
++ 今回のお悩み ++
長年会社員として働いてきました。実績をのこし、仕事で評価され役職もつきました。
しかしこの不況下、何をどう頑張っても会社全体の売上は上がらず、
仕事や責任は増えたのに、お給料は以前と変わらない状況です。
また会社は古い体質で、新しい事に対して後ろ向きです。
このままでは会社の存続も危ぶまれるように感じ私は日々不安を感じています。
上層部は現状を踏まえて何か行動を起こそうという意識も低く、
楽観的な姿勢にとても違和感を感じます。
社内でも私と同じ考えでなんとかしたいと思う人は少なく、温度差も感じます。
危惧して動いているのは自分ばかりだとどんどんモチベーションも下がっています。
かと言って、今さら転職しても…と思いますし、
ましてや独立して自分で何かビジネスを始めるほどのものを自分は持っていません。
(40代女性)
目次
白川先生からあなたに贈る言葉
「無事」(ぶじ)
少数派の覚悟
私自身、現在同じ40代ですが、24歳で祖父からお寺の住職という、小さいながら「組織のリーダー」を引き継ぎ、20年間が経ちました。自分なりのことができた、ということもいくつかあると同時に、あなたの書いている「上層部は現状を踏まえて何か行動を起こそうという意識も低く、楽観的な姿勢にとても違和感を感じます」という部分に、むしろ私自身もドキッとしました。
まず仏教とは、まったく関係ない話からはじめます。ある作家の方が、「<働く人>には、問題意識をもって実行できる5パーセントと、まったくできない5パーセント、残りの普通の90パーセントの人達で構成される」という意味のことを書かれていて印象的でおぼえています(細かい数字や表現違うと思います)。あまりにクールでストレートな表現に、ぷっと笑ってしまったのですが、ある意味で真理をついていると感じました。
あなたも「社内でも私と同じ考えでなんとかしたいと思う人は少なく、温度差も感じます」と書かれている現状認識は正しいと思います。しかし、同時に「永遠の少数派かもしれない」でという覚悟は、必要でしょう。あなたがこの「問題意識を持ち実行できる人は少数派」であることのクールな現状認識を持てば、色々なことが変化するスイッチになる可能性があると感じました。
現実を動かしてみよう
そのうえで、まずは社内でなにかを「具体的なこと」をはじめて底上げを試みる、ということも良いのではないでしょうか。言葉や資料で危機感を促しても周りが無関心にみえるのは、心の中で「わかっているけれど、方法が思いつかないんだもん!」という思いがあるのかもしれません。
そこで、“危機”を1歩でも2歩でも、打破できるような可能性を持った具体的なアクションを起こすことで、「あ、そういうことか」「わたしも実はそう思っていた」という少数であっても仲間や同志、そして恐らく何よりもあなたが欲している「前向きな雰囲気」が、少しずつ出てくるのではと予感します。
またその結果、「ああ、この会社にはもういられない」ということが、わかったとしても、それが事実としたら早くわかった方がいいですよね。
かつての歴史的な僧侶も、「腹の減った人には、論理ではなく食事をあげなさい」「病気の人には、病理学を説くのではなく、薬をわたしなさい」といった具体性を示唆する言葉をいくつも残されています。
「無事(ぶじ)」を生きる。
そのような中で、あなたに捧げたい仏教語は、「無事(ぶじ)」です。仏教語では、「むじ」と読むことがあります。この語は、様々な経典や仏典でも用いられ、「すべてのわざとらしい作為を離れた自然なあり方」という仏教的にとても大切な意味もあれば、「無用であること」などの否定的な意味の両方があります。ここではいい意味で使おうと思います。
文面から溢れるエネルギーを感じると、あなたにはビジョンや目標があって、そこに向かうことができる人だと思います。それは、人が働くうえで大切なことでしょう。しかしそこに、この「無事」―作為を離れた自然なあり方―を加えることもアドバイスしてみたくなりました。仕事を離れたふとした時に「このことをやっていると笑顔が止まらない」「うれしさが自然とじんじんこみあげてくる」そんな自分の<生の声>にも、具体的に定期的に向き合ってみてください。
そしてそれは、「時に仕事を離れて、ゆっくり過ごしてください」という意味だけでなく、そういった思わず笑顔になるような「無事」の精神を<仕事>の中に混ぜることができたところに、「これから」の仕事の面白さや(あえて言いますが)ほがらかなビジネスチャンスが残されているのではないでしょうか。競争相手に競り勝つ目標設定ではなく、本気で「うれしさ」とコミットするような。また「危機」においてキリッとした厳しい表情が多くなるでしょうけれど、その中でも「楽しそうな」人に、人は集まりたくなるものです。
言うは易し、現実的に大変な現場で働かれている、あなたからすれば「そんなに簡単にいかない」ことばかりでしょうけれど、「無事」をヒントにしてみてください。
言うまでもなくこの「無事」は、一般的に今でもよく使われる言葉です。仕事は、相手もあることなので、うまくいくことも、うまくいかないこともあるでしょう。そんな時も、どうか無事でいてくださいね。無事でいることは、最大の目標です。
今日のまとめ
- 問題意識をもって行動できる人は、少数派であることを覚悟する。
- 具体的な行動が、最大の「説明」になる。
- 「無事」の精神をヒントに、私生活においても仕事においても「作為を離れた自然なうれしさ」を取り入れる。
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この記事を書いた人
- 「ほぼ日刊イトイ新聞」に「坊さん。」を連載。その後、著書『ボクは坊さん。』(ミシマ社刊)が映画化。著書多数。他の連載に「密成和尚の読む講話」(ミシマ社「みんなのミシマガジン」)、「そして僕は四国遍路を巡る」(講談社、現代ビジネス)など。執筆や講演会などで仏教界に新風を巻き起こすべく活動中。趣味は書店で本の装幀デザイナーを当てること。1977年生。
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