絶対に失敗するカフェの作り方地震や火事などのリスクにどう備えるか。小さなカフェや飲食店がやるべきお客様の安全を守る危機管理。
マスター1人で経営する小さなカフェを立ち上げて、長く続けていく方法をお伝えしていくこの連載ですが、驚くほど具体的に、かつ「絶対に失敗する方法」をお伝えしながら、逆張りをすることで成功へと導くメソッドを公開しています。今回は、個人店、マスター1人の小さなカフェを運営する上で大切な「危機管理」についてお伝えします。
目次
カフェを立ち上げる人が持っておくべき危機管理能力
一年に渡ってお送りしているこの「I am」での連載も実は残すところあと5回となりました。最終コーナーを回って最後の直線ダッシュをかけるべくあれもこれもまだ話し足りないことが山盛りなのですが、その中でどうしても絶対これだけは述べておかなければという事柄を絞りに絞ってお届けしたいと思います(残り5回は本当に必読です!)。
今回は、カフェを立ち上げる人が持っておきたい深刻な事態に備える感覚についてお伝えしたいと思います。
飲食店を構えるというと、重大で深刻な事態に備える必要が出てきます。
この「重大で深刻な事態」や「事故につながるものごと」とはどんなものがあるかをまず考え、またそれへの防止策を考えていきたいと思います。
事の重大さを考えるにあたり、まずはやはり命に関わる、もしくは大怪我につながるような事態を考えていきましょう。
指差し確認はルーティーンが鉄則
かつて「幼稚園バス幼児置き去り事件」がありました。
本当に痛ましい事件で、何故たった6人の園児の点呼確認が出来なかったのだろう・・・と無念でなりませんが、詰まるところこれは「規則がルーティンにまで浸透していない」ということに尽きるのではないかと思っています。
「駅員さんの【指差し確認】」などがまさにそれに当たると思うのですが、それはもはや条件反射や身体反応というものであります。
バスの運転手がわずか5,6歩、時間にして3秒くらいの確認がルーティーンとしてその体を動かすだけで大惨事にならずに済んだはずなのです。
カフェ経営をする皆さんにお伝えしたいのは、この、危機管理ルーティーンの徹底です。それはもう、朝起きて顔を洗う、歯を磨く、外に出る時靴を履く、くらいに
カフェで行うべき危機管理ルーティーン
珈琲文明で行っている危機管理のルーティーンの数々をここで披露します。
食器のひび割れを必ず毎回チェックする
さて、私のお店(珈琲文明)はサイフォンでコーヒーを淹れ、フラスコ器具のままお客様に提供しています。
抽出の際と提供の際、また提供後の「重大な事故」の可能性について考えてみます。
フラスコを火にかける際、フラスコ表面が濡れている場合割れる恐れがあります。
それを防ぐためには当たり前の話ですが火にかける前にフラスコが濡れていないか確認することです。
しかしこの「その都度確認」という行為は見落としや怠りが生じるものです。
すべきことは「フラスコが濡れていようがいまいが拭くという所作をルーティンにする」これに尽きます。
提供する器具の緩みは緩んでなくても「毎回締め直す」
次にそのサイフォン(フラスコ)をお客様に提供する際あるいは提供後に起こり得る重大事故の可能性としましてはフラスコとスタンドが外れる事態であります。
スタンド上部にあるネジ(?)のような部分がしっかり締まっていれば外れることはまずないのですがこれがいつまでも締まったままであると過信するのは禁物でありまして、経年で緩くなってくるだけではなく、お客様が(悪意あるなしに関わらず)いじった後にきっちりと締め直さなかったということもあるかもしれません。
フラスコとスタンドが外れて落ちた場合火傷や器物損失(フラスコの破損の問題などではなくお客様のスマホが壊れた、資料がズブ濡れになった等等)につながります。
これらの防止策も先ほどと同様でして、フラスコがスタンドにしっかり固定されているかとその都度確認するのではなく「締まっていようがいまいが締める」のです。
つまり所作として定着させそれをルーティン動作にしてそれを何万回も繰り返すのです。
そうすることでそのルーティン動作がない場合、自分自身がなんだか気持ち悪くなるくらいになればようやく「型が出来た」と言えると思います。
思えば「お茶」の世界の所作もそれこそおびただしい数のルーティンの中で成立しています。
それを思えばコーヒーの所作なんてしれたものですし、それが当たり前になってしまえば、それはもう面倒なものではありませんので、当たり前になるまでの辛抱です。
それがお客様の安全につながり、ひいては店の存続につながるのですから、ぜひここは気合を入れて頑張ってください。
カフェで行うべき「危機を未然に防ぐ工夫」
店のドアが開いた時に人がぶつかる場所を塞いでしまう
別の話をします。
珈琲文明の玄関の扉は入って来る人が引いて、退店する人が押して出て行くタイプであります。
その扉を開けると車は来ないまでも狭い仲見世の道ということもあり歩行者がかなり行き交います。
ここで気を付けなければならないのは「歩行者は店の扉が突然開くことなど考えていない」ということです。また同時に退店されるお客様も何も考えずに扉を開けることでしょう。
これは扉がこのタイプ(入る時に引き、帰る時に押す)のお店は須らく気を付けなければならない問題です(とりわけ扉を出たら車がビュンビュン走る道などは大問題です)。
ではどのように事故を防ぐか?まず扉の写真をご覧ください。
赤い丸で囲んだ部分、扉の横に看板(拙著の宣伝看板)が見えますよね。
この看板が実はポイント。
ここに看板を置くことでドアが閉まっていても、このゾーンに人は入ってこれないのです。
店内のお客様が帰る際に押し開いたドアの動線上(この看板があるゾーン)にもしも人が歩いて入って来たら歩行者と開けた扉がクラッシュする可能性があるのです。この看板があることで危険なゾーンに歩行者が入ってしまうことを防止しています。
地震が来てもお客様の方にサイフォンが倒れない
他にも様々なリスクケースを想定しておくことが大事で、例えば当店のサイフォンガステーブルはほんのわずかではありますが厨房(淹れている私側)のほうに傾いています。
ほんの数ミリの話ではありますが、仮に地震が来て大きな揺れが起こった場合に倒れるのはカウンターにいるお客様側ではないということがポイントであります。
またオーダー提供の際にトレーに物が乗った状態でつまづいたり転んだりした場合、そのトレーを瞬時に自分側に向けるという反射神経も身につけたいものです(実際に私はかつて一度トレー上にあるアイスコーヒーをよろけて倒したことがあり、私は自分のワイシャツがコーヒー色に染まってその後1日営業したことがあります・・・)。
今回色々と実例を挙げましたが、とにかく最重要事項としては、「危険な状態になる物事、場所を探す」そして「その策を講じる」で終わってはダメで、「それを避けるための所作をルーティン化、習慣化させる」というところまでやらなければならないということです。 その道を極めたプロフェッショナルの人たちが美しいのはこうしたルーティン化された所作に拠るところも大きいのです。
一時期、自己啓発本などで盛り上がったこの「ルーティーン」ですが、飲食店を経営する我々にとってはお客様の安全を守る命綱。これからカフェや喫茶店を立ち上げる方はもちろんのこと、今飲食店を経営されている方も、ぜひ気を引き締めて見直していきましょう。
レッツルーティーン!
珈琲文明店主・赤澤智でした。