みらいのとびら 好きを仕事のするための文章術プロフィール文に必要な思考の言語化!まずは想いを50個書き出してみる【第3回】
文章のプロ・前田安正氏が教える、好きを仕事にするための文章術講座。第3回は、思考の言語化について考えてみよう。
目次
好きなことを仕事にするために言語化は必須
「言語化むず~い。ムリムリ」
近年「言語化する」ということばをよく見聞きします。ところが言語化ということば自体が、わかるようでわからない。そのため、何となく「言語化むず〜い。ムリムリ」って思ってしまう。
言語化がどういうものなのかを、プロフィールを例に考えてみます。
プロフィールに書くのは、これからやろうと考えている仕事に対する自分自身の考えや思いです。プロフィールにおける言語化は、「自身の考えや思いを明確にする」ということです。
自らの考えや思いを明確にすることは、そう簡単ではないと思うのです。だから言語化って言われると、本能的に自分自身では語れないものだというイメージを持ってしまうんですね。だから、
「言語化むず〜い。ムリムリ」っていうことになってしまうのです。
でも、「好きなことを仕事にしたい」「好きなことがはっきり見つからないけど、自立したい」と考えているなら「自身の考えや思いを明確にする」ことは、自分の頭を整理するうえでも重要なことだと思います。その意味で、言語化はやはり必要なのだと思います。
自分の長所と短所を10個ずつ書いてみる
それでは、どうやれば「自身の考えや思いを明確にする」ことができるのか。実は、言語化する前にすべきことがあります。多くの人がその手順を飛ばしているのです。
そこで、このコラムを読んでいるあなたに試してほしいことがあるのです。
次の簡単な質問に答えてください。
①あなたの長所を10個あげてください。
②あなたの短所を10個あげてください。
たった二つです。考えすぎず直感的に書いてください。
短所は書けるんだけど、長所が書けないという人もいるでしょうし、その逆の人もいるでしょう。なかなか書けないかもしれません。でも、とにかく10個ずつひねり出してください。
言語化はことばの背景=ストーリーを語るもの
さあ、書けましたか?
恐らく、いま書いた長所と短所は、
・粘り強い
・協調性がある
・気が短い
・飽きっぽい
といった「ことば」が並んだのではないでしょうか。長所・短所を聞かれれば、大体こうしたことばが出てくるはずです。ところが「粘り強い」「協調性がある」を長所だと思っている人は、あなた以外にもたくさんいます。しかし、そう思った背景にあるエピソードは、一人ひとり違うはずです。
「粘り強い」「協調性がある」の裏側
ここがポイントです。言語化というのは、表面に出てきたことばの背景にあるエピソードを書いていくことなのです。「粘り強い」「協調性がある」という背景にあるものを書かないと、なぜそれがあなたの長所なのかがわかりません。それはあなた自身のストーリーに他なりません。つまり、言語化というのはストーリーとして語られるものなのです。
「好き」の中身を箇条書きにする
いきなりストーリーを書かなくていい
ところが、いきなりストーリーは書けません。これは、僕自身の体験を踏まえての感覚です。それでも難しいといって、諦める必要はありません。誰だって、いきなり1万字の文章を書けと言われてもスラスラ書けるわけがありません。100字、500字と小さくまとめていけば、負担は少ないはずです。もっとも、プロフィールに1万字も必要ないので、安心してください。
想いを50個書きだしてみる
まずはストーリーを書くための素材集めをしましょう。実は先ほど長所・短所を書いてもらったのは、素材集めの肩慣らしです。同じように、あなたが仕事にしようと思った趣味や好きになったものについて、そのきっかけ、苦労したこと、そのお陰で得られたもの、そしてなぜそれを仕事にしようと思ったのかなどを書き出していきましょう。
短いことば、箇条書きで結構です。
例えば、趣味のギターを仕事にしようと思うのなら、
・ギターを始めたきっかけ
・うまくなるためにどういう努力をしたか
・その際に何を参考にしたのか
・その結果、どういう効果があったのか
・ギターが楽しいと思った理由
・その結果、得られたもの
・どうしてギターを仕事にしようと思ったのか
・楽しいと思ったギターの何を伝えたいのか
などを、まず可能な限り箇条書きで書き出すのです。少なくとも50個は書き出してください。「ギターの形が面白いと思った」「村治佳織さんの演奏を聴いて涙が出た」など、どんなことでもいいのです。ギターにまつわる事を書いていきます。
「自分の文字起こし」がプロフィール文作成の第1歩
ことばにまつわるエピソードを書き出す
書いていくと、その時々の情景を思い出してくると思います。それを書き留めていってください。ギターの例であげたように、何が切っ掛けでギターを弾こうと思ったのか、どういう練習をしたのかといったことを思い出しながら箇条書きにしてください。これが素材集めです。どんな些細なことでもいいのです。そうすると、50くらいは簡単に書けるはずです。書けるならできるだけたくさん書いてください。
ストーリーになる前の素材を集める作業を、僕は
「自分の文字起こし」
と呼んでいます。
「ことばの芽」を拾い集めれば、ストーリーになる
想いを書き出して原点を思い出す
こんなふうに「自分の文字起こし」をしていくと、その時々の情景とともに、それまでうまく表現できなかった感情や想いの「ことばの芽」のようなものが見つかります。さまざまな思いは、僕たちの日常のなかで、心の奥深くに置き去りにされているものです。「自分の文字起こし」を通して、置き去りにしていた「ことばの芽」を拾い集めていきます。そして趣味や好きの原点を確認していくのです。
好きを仕事にしようと思った原点にある記憶は、ぼんやりとしたものです。しかし、その時に思っていたことや、その時の状況を箇条書きにしていくと、映像の焦点が絞られてくるように記憶の中にかすんでいた出来事やそのときの思いが浮かんできます。
次にその素材をストーリーに変えていく編集作業をしていきます。
インタビューをまとめて文章をつくるときに発言者の話を録音して、それをテキスト化する、文字起こしをしたことはありませんか? しかし、文字起こししたものがそのまま原稿にはなりません。なぜなら、話はあちこちに飛び、横道にそれたりします。文章にするには、必要な素材を選り分けなくてはなりません。
同様に、書き出した箇条書きのことばを文章にするには、編集作業を加えなくてはなりません。編集作業とは、発言の中の無駄なことばを整理し、構成を整えて、記録すべき内容をまとめる作業です。プロフィールでの記録すべき内容とは、あなたが伝えたい「想い」です。それを抽出する編集作業が「言語化」なのです。そして、ここでできるものがストーリーです。
50個書き出したことを編集する
素材として集めたものを何度も読み返しください。すると、そのなかで一番伝えたいと思う内容が浮かんできます。それが、「好きを仕事にする原点」です。そこから書き始めればいいのです。
書き出した素材は連想ゲームのようにつながっているはずです。一つ思い出すと、それにまつわる出来事が浮かんでくるからです。無理をしなくても自然に話の流れができてきます。これがストーリーの源流です。
この手法は、実際に僕が新聞にコラムやエッセイを書いていたときに使っていたものです。
子どものころに住んでいた団地のことを書いたことがありました。何十年も昔のことです。その時の景色や子どもの目線で見ていたものなどを箇条書きにしていきました。すると、その時の情景が次々に浮かんできたのです。エッセイには、団地の名前や地名などは出していません。ところが読者の方から「もしかしたら」と手紙を頂戴し、見事にその団地を特定されたのです。そのくらい具体的な描写ができるのです。
「自らを言語化する」なんて大上段に構えると身動きが取れなくなるかもしれません。言語化するにはまず「自分の文字起こし」をして頭を整理して、記憶の底に潜んでいる「ことばの芽」を見つけましょう。それを編集してストーリーを書いていきます。もっとも、この段階で「ストーリーの源流」は見えてくるので、心配はありません。
次回は、書き出した素材をどう編集していくのかについて、お話ししていきます。
さあ、あなたが一歩踏み出そうとしている想いを50個書き出してください。
プロフィールに載せるべきストーリーをつくっていきましょう。
《ポッドキャストを配信しています》
日頃使う何げないことばについて、ちょっとした思いや蘊蓄などを話す10分程度の番組です。毎週月曜日のお昼頃配信します。時間があるときにお聴きください。
関連記事
この記事を書いた人
-
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。