みらいのとびら 好きを仕事のするための文章術プロフィール文の書き方を文章のプロが伝授!プロフィールと履歴は別物【第2回】
文章のプロ・前田安正氏が教える、好きを仕事にするための文章術講座。第2回は、履歴とプロフィールの違いについて考えてみよう。
プロフィール
未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。
目次
過去に頼ってばかりでは共感は得られない
「何をどう書くか」
これはプロフィールにかかわらず、企画書や稟議書であっても、文章を書く場合には、この問題がまず立ちはだかります。
一口に「何をどう書くか」と言われますが、実は「どう書くか」よりも「何を書くか」の方が、悩ましいのです。
「何を書くのか」は、目的や内容を定めることです。
では、プロフィールは何を目的としてどんな内容を書けばいいのか。まずプロフィールと履歴との違いから見ていきたいと思います。
履歴 | 現在までに経てきた学業・職業など、経歴。 |
プロフィール | ①横側から見た時の顔の輪郭。 横顔。また、横顔を描いた肖像画や写真。 ②普通とは異なった角度から見た人物評。 ③人物の紹介。 |
辞書には、こう書かれています。僕たちは通常、プロフィールも履歴も、ほぼ同じ意味で使っています。しかし、敢えて履歴ということばを使わず、プロフィールということばを使う意味を押さえておきたいと思うのです。
履歴の「履」には、「(靴などを)はく」とか「ふむ」「実行する」「経験する」といった意味があります。「歴」は「時を経る」「通り過ぎる」という意味です。つまり、「履歴」は辞書にもあるように、過去から現在までに実行したこと、経験を言うのです。
そのため、コンピューターで過去に実行された通信記録を指すことばにもなっているのです。
一方、プロフィールは、正面の顔ではなく横顔、普通とは異なった角度からの人物評のことです。過去の履歴も含みつつ、単なる経歴を並べるのと少し趣が違います。プロフィール(profile)をプロファイルと読めば、異なる意味が見えてきます。
プロファイルは情報を集約することです。プロフィールをプロファイルに置換するとわかりやすいのではないでしょうか。
整理すると、
履歴 | あなたが過去から現在まで経験したこと。 |
プロフィール | あなた自身の情報。 |
ということです。
つまりプロフィールには、あなた自身の情報を記さなくてはならない、ということです。これは、過去の出来事ではなく、その先の未来にあるあなたの情報も含んでいるということを忘れてはいけません。
どこの学校を卒業した、どこで働いた、といういわばこれまでの人生の枠組みを語るのが履歴です。それは正面から描いた顔に他なりません。
いくら過去の立派な経歴を見ても「すごいですね」で終わります。それは次の将来像が描かれていないからです。過去の栄光にのみ頼っている人に魅力を感じませんよね。プロフィールもそれと同じです。
未来をイメージして「いま」を書く
プロフィールは未来の姿、あるいは未来への思いを書いていくものです。つまり、5年後、10年後にあなたが描く姿から、今のあなたとそれにひも付く過去のあなたを逆算していく作業です。これをバックキャスティングと言います。
履歴は過去の積み重ねで現在のあなたの姿を語るものです。これをフォアキャスティングと言います。
つまりプロフィールは、遠い未来の姿からいまを語るということです。言い換えるとストーリー(Story)からヒストリー(History)を語ることなのです。
このコラムを読んでいる方は、「好きなことを仕事にしたい」と思っているはずです。副業であっても、独立であっても、創業の志は重要です。「なぜ」「何のために」創業したのかという意志が、事業を形づくっていきます。
「お金儲けが大好き」なら、なぜそう思ったのか、お金儲けができたら何をしたいのか、を書いていくようにします。僕は人を騙さない限り「ただひたすらお金持ちになりたい」という思いを否定しません。お金を生むには、それに見合った価値を提供しないといけないからです。
その価値は、商品やサービスを提供する人の意志が働いています。ひたすら「お金儲けをしたい」という思想が、どうして生まれたのかを説明できれば、それに共感する人が出てくるかもしれません。そしてその手法・考え方は多くの人に広がり、そこから新たな商品・サービスが生まれてくる可能性があるからです。
「ストーリー」こそが「価値」
逆説的な言い方をすると、商品やサービスを買おうと思う人は、必ずしもその商品・サービスそのものを買おうとはしていない、ということです。
「バッグがほしい」と思った人が、ほとんどものが入らない有名ブランド品を求める場合もあるでしょう。物を入れるだけなら、たっぷり収納できて安いものでもいいのです。
それでも、有名ブランド品を求めるのは、その商品に付随するストーリーを求めているからです。それは、ブランド品を持った時の自分のイメージであるかもしれません。少し背筋が伸びた感覚を持つからかもしれません。
実用に役立つ物だけが商品・サービスではないのです。そこに裏付けされたストーリーを求めているのです。これが「価値」です。極論をすれば「ストーリーこそが価値」なのです。
同じ品質であっても、あるいは品質がよくても、売れないものは売れないし、売れるものは売れるのです。その違いは商品・サービスについての価値(ストーリー)のあるなしなのです。
同じ仕事をしても単価が違うのは、その人が提供する商品・サービスの価値が違うからです。それは必ずしも品質の良し悪しだけが問題なのではありません。
先ほど、プロフィールは自らの情報を書くことだと言いました。情報とは、それを読んだり見たりした人の行動を変化させることだと言えます。
あなたが書いたプロフィールを読んで、「その気持ち、よくわかる」と思った人がいれば、ファンになってくれる可能性があります。
あなたの「志」や「意志」に共鳴してくれたファンは一過性の買い手ではありません。ずっと応援してくれる伴走者になってくれます。
過去の履歴だけを書いても、共感はもたれません。いくら有名大学を出て、一流の企業に入って仕事をしたとしても、それだけでは闘えません。
あなたは次のステージに上がるために、未来の扉を開かなくてはなりません。その扉を開くためにも履歴をプロフィールの違いを理解してほしいと思うのです。
次回からは、プロフィールをどうやって書けばいいのか、についてお話ししていこうと思います。
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この記事を書いた人
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早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。