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ChatGPTには書けない、自分らしい文章術・超入門「わかりやすい文章は子どもっぽい」と思っていませんか? 論理的でわかりやすい文章のコツは書く順番だった!

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文章のプロフェッショナル・前田安正氏が教える、AIが主流になっても代替えのきかない「書く力を身につける」文章術講座。第9回は「論理的な文章を書くコツ」についてです。

プロフィール

未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正

ぐだぐだの人生で、何度もことばに救われ、頼りにしてきました。それは本の中の一節であったり、友達や先輩のことばであったり。世界はことばで生まれている、と真剣に信じています。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。

文章が下手と悩む人のための超文章入門。生成AIが当たり前になった今だからこそ、ChatGPTには書けない、自分の言葉で文章を書く力を身につけたい。朝日新聞社の元校閲センター長で、10万部を超えるベストセラー『マジ文章書けないんだけど』の著者・前田安正氏による文章術講座。今回は「論理的な文章を書くときのコツ」について教わります。

「論理」の意味が誤解されている

ロジカルシンキングとかロジカルライティングということばがあるように、思考や文章は論理的であるべきだ、というのが一般的な理解です。もちろん、これに異を唱えるつもりはまったくありません。しかし、そこに落とし穴があるのです。

論理的ということばが何を意味しているのかについては、さほど意識していないし、誤解していることも多いと思うでのす。論理的と言えば、

論理的=理屈っぽい

論理的=難しい

論理的=大人の考え

・・・

という感じで捉えていることが多いと思うのです。

そのため、長々と難しいことばを使って、自分の頭の中で巡っている思考(論理)をそのまま書くのが、大人の文章だと思う感覚があると思うのです。

だから、「わかりやすく書くと、子どもっぽい文章だと思われる」という誤解が生まれるのです。まさにこれが、論理的ということばが独り歩きした結果の落とし穴です。

「論理」を辞書で調べると、

①思考の形式・法則。議論や思考を進める道筋・論法。


②認識対象の間に存在する脈絡・構造。

と書かれています。(大辞林ウェブ版)

普通、僕たちは①の「議論や思考を進める筋道」を「論理」だと思って、その筋道を書こうとします。これも、間違った方法ではありません。

ところが、これが両刃の剣ともなるのです。思考を進める筋道を延々と書かれても、読む気にはなりません。書き手の頭の中でぐるぐる回っている思考を順にたどっているのは、なかなかに苦痛なのです。

むしろ②にあるように、書きたいと思う内容の「脈絡・構造」に意識を向けた方が文章を書く場合には、読み手にはわかりやすいのです。

ここでいう「脈絡」は思考の流れ(文脈)、「構造」は結果に導いた考え方、と置き換えてもいいと思います。

つまり、論理的に書くというのは、思考の道筋を順番に書くのではなく、その結果(伝えたい内容)を構造的に裏付けていくという作業なのです。

読み手に伝わる論理的な文章を書く方法

ステップ1:伝えたい内容を分解する

具体的に見ていきます。

【例1】

パリ協定の枠組の下における、我が国の温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止を図るための森林整備などに必要な地方財源を安定的に確保する観点から、森林環境税が創設されました。

長い一文です。これが一般的に「論理的に書いた文」の例なのです。しかし、ここで伝えたい内容は「森林環境税が創設された」ということにつきます。そこにいたる理由が延々と書かれています。書かれている内容を、ハッシュタグを使って分解してみます。

#1.パリ協定の枠組の下に

#2.我が国の温室効果ガス排出削減目標の達成

#3.災害防止を図るための森林整備など

#4.(そのために)必要な地方財源を安定的に確保する観点から

#5.森林環境税が創設された

#1〜#4で書かれているのは、パリ協定の枠組から我が国の対応、そのために必要な地方財源、という思考の流れです。それを踏まえて創設された森林環境税(#5)という流れです。これが「論理的に書かれた」文と言われるのです。

 ハッシュタグを使って文を分解すると、伝えたい要素が見えてくる

ステップ2:結果から書く     

読み手としては、書き手の思考の流れを順に追っていくのは、結構大変です。それよりは、思考の結果を中心にして書いたものの方が読みやすいのです。たとえば、

【改善例1】

森林整備などに必要な地方財源を安定的に確保するため、森林環境税が創設されました。

これはパリ協定の枠組において、我が国の温室興亜ガス排出削減目標の達成や災害防止などに役立てられます。

まず、森林環境税が創設されたこと(#5)と、その直接的な理由(#4)を1文目書きます。これが思考の結果です。その次に、森林環境税がつくられる、そもそもの理由(#1〜#3)を書いていきます。

こうすると、森林環境税創設の構造と脈絡が見えてきます。論理的な文章とは、思考の順に書くのではなく、思考した「結果」を示し、次にそれを導いた「脈絡と構造」を書いていけばいいのです。

ステップ3:結果を導いた「脈絡と構造」を書く

【例2】

徴収された森林環境税は、森林整備や担い手の育成・確保、木材利用の促進や普及啓発の費用に充てるため、森林環境譲与税として地方自治体に譲与されます。

これも思考の順に、森林整備や担い手の育成・確保などの税の使い道を示し、最後に、そのため地方自治体に譲与される、と結論づけています。

破綻もなく「論理的」です。とはいえ、森林環境税が譲与税として地方自治体に渡される、ということが「結果」としてわかればいいのです。書き換えてみます。

【改善例2】

徴収された森林環境税は、森林環境譲与税として地方自治体に譲与されます。

これによって、森林整備や担い手の育成・確保、木材利用の促進や普及啓発事業を進めます。

論理的な書き方というのは、思考の道筋を書くことではありません。もう一つ見てみましょう。

論理的なのに伝わらない文章になる原因

話しことばと同じ展開になる

【例3】

○○県選挙管理委員会及び○○県明るい選挙推進協議会の主催で、県民が選挙について考える機会として、選挙啓発標語を募集したところ、中学校の部において△△中学校3年の前田安正さんが「最優秀賞」を受賞されました。

長い一文です。これも

#1.○○県選挙管理委員会及び○○県明るい選挙推進協議会の主催で

#2.県民が選挙について考える機会として、選挙啓発標語を募集

#3.中学校3年の前田安正さんが「最優秀賞」を受賞

という結果へいたる思考の順に話が進みます。話しことばの展開と同じです。

とくに、「募集したところ」という表現がそれを表しています。話しことばの場合は、話し手が口調や表情、身ぶり手ぶりなどノンバーバル(非言語)の力を借りて表現できます。話し方一つで、聞き手を引き付ける要素があります。

ところが、文章にはノンバーバルの力を借りることはできません。全てを文字に託すほかないからです。思考の道筋を順に書いても、それが読み手の集中力を持続できるだけの筆力があれば、別です。しかし、僕たちの力量ではなかなか難しいことなのです。

ですから、思考の先にある伝えたい内容(結果)について書いたうえで、その「脈絡・構造」を示した方が楽だし、読み手もその方が安心して読めるのです。

【例3】を書き直してみます。

【改善例3】

○○県明るい選挙啓発標語「中学の部」で、△△中学校3年の前田安正さんが「最優秀賞」を受賞しました。

県民の政治や選挙への関心を高めるとともに、明るい選挙の推進を目的としたものです。○○県選挙管理委員会と○○県明るい選挙推進協議会が主催しました。

この場合、伝えるべき内容は、選挙啓発標語で前田安正さんが最優秀賞を受賞したことです。募集の目的と結果にいたった経緯(構造と脈絡)を書くことが、論理的な文章なのです。

結果を導き出す「脈絡と構造」がない

もう1例見てください。

「犬と猫の違い」を書いてもらったものです。

【例4】

犬と猫の違いについて述べる前に、犬も猫も「生物のうちの動物」である。その「動物のうちの哺乳類」である。

敢えて、共通点を挙げるなら「ペットとしての人気も需要も高い」。

では、違いはというと、容姿・性格・食事・運動から社会性まで、違いだらけだ。

わかりやすい違いは鳴き声「わんわん」「にゃー」だろうか。

だが「くー」と鳴く犬もいるし、英語や言語が違うと、同じなのか疑問。

自然界で生きるのか、人間社会で生きるのかでも違う。

犬と猫が違うだけではなく、犬や猫の種類で違う。

同じ種類でも、育つ環境や性格で違う。

人も多様性の時代だが、犬と猫も多様性を理解し、個性の違いを理解する必要がある。

最後に1つ違いを見つけた。

十二支の中に「犬(戌)」はいるが「猫」はいない。

理由はともかく、違いである。

とても素直に書かれた文章です。ところが、これも思考の順に書かれていることがわかると思います。

1段落目に「犬と猫の違いについて述べる前に」と書かれています。頭の中で、違いを見つけようと考えているときに、「そういえば違いもあるけれど、共通点もあるはず」という考えが浮かんだので、それを書き出しに置いたのです。

そのため、2段落目に「では、違いはというと」という書き出しになっています。その後に続けて、

#1.「わんわん」「にゃー」

#2.だが「くー」と鳴く犬もいる

#3.自然界で生きるのか、人間社会で生きるのかでも違う

#4.犬や猫の種類で違う

#5.同じ種類でも、育つ環境や性格で違う

#6.人も多様性の時代だが、犬と猫も多様性を理解し、個性の違いを理解する必要がある

と、頭の中に浮かぶ犬と猫の違いを列挙しています。必ずしも頭に浮かんだ順ではないにしろ、思考の道筋として書かれているのです。

そして、

最後に1つ違いを見つけた。

十二支の中に「犬(戌)」はいるが「猫」はいない。

理由はともかく、違いである。

という発見を記しています。

共通点があることを押さえて、違いを列挙し、最後に発見を書くという展開です。書き手自身のなかでは論理として展開しているのです。しかし、これが論理的な文章に見えないのは、最後の発見を導いた「脈絡と構造」が書かれていないからです。

もし、十二支の中に犬(戌)がいるのに猫がいないことを書こうとするなら、十二支にまつわる説話を調べて、そこをもっと深く考察して自らの意見を書くことができるはずです。

【まとめ】論理的な文章を書くときのポイント

まとめます。

論理的な文章とは、

自らの考えから導かれた内容(結果)を記し、そこにいたった思考の道筋(脈絡)、結果に導いた考え方(構造)を付随させることなのです。

思考の道筋そのものをメインに据えて順番に書き、それによって導かれた内容(結果)を付随させることではありません。

執筆/文筆家・前田安正

写真/Canva

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

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