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ChatGPTには書けない、自分らしい文章術・超入門文章は「分解」するだけで、驚くほど伝わりやすくなる? ハッシュタグ(#)で頭の中を整理する方法

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文章のプロフェッショナル・前田安正氏が教える、AIが主流になっても代替えのきかない「書く力を身につける」文章術講座。第6回は「わかりにくい文章を改善する方法」についてです。

プロフィール

未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正

ぐだぐだの人生で、何度もことばに救われ、頼りにしてきました。それは本の中の一節であったり、友達や先輩のことばであったり。世界はことばで生まれている、と真剣に信じています。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。

文章が下手と悩む人のための超文章入門。生成AIが当たり前になった今だからこそ、ChatGPTには書けない、自分の言葉で文章を書く力を身につけたい。朝日新聞社の元校閲センター長で、10万部を超えるベストセラー『マジ文章書けないんだけど』の著者・前田安正氏による文章術講座。今回はハッシュタグを活用し、わかりにくい文章を改善する方法について教わります。

解決策はデカルトの名言にあり:「困難は分解せよ」

回りくどい文章の代表格が、同じことば、同じ内容を繰り返してしまうことです。

丁寧に書こうという意識が、引き起こす悲劇です。書いている本人に悪気がないので、繰り返しに気づかない。なかなか手強い相手なのです。それでも、解決方法はあります。

「困難は分解せよ」

デカルトが『方法序説』の中で言ったことばです。回りくどい文章の解決策は、この一言に尽きます。

「わかりやすい文章を書く」ことが目標なら、上手く書こうとか、気の利いたことを書こうとする必要はありません。特に勘違いしやすいのは、丁寧さがわかりやすさに繋がるわけでもないということです。丁寧に書こうとすると、重複表現が増え、奇妙な敬語を交えたりします。文章は、枝葉を伸ばすより、幹を太くすることの方が重要なのです。

わかりにくいリリース文章を分解して改善

次の文を見てください。

【例1】

2024年6月開業のホテル「レジデンスI am」。もとは大輪酒造の販売所として使われていた古民家を改修した。ラウンジが特徴のホテルだ。有名ホテルブランドが付くわけでもなく、東京・谷中の街中に建つ小さなホテルのPRを考えたとき、ターゲットを絞り込み、的確に情報発信できるSNSでのPRを選択することになった。

新規開業するホテルのPR戦略の話だということはわかります。よく見ると、144字ほどの原稿の中に、「ホテル」という単語が4回使われています。

また、

ホテルのPRを考えたとき、〜PRを選択することになった。

という構造も気になります。ハッシュタグ(#)を使って整理してみましょう。

Step1 分解して#をつける

検索数を増やす目的で使うハッシュタグを利用して、文の要素をわかりやすく分解して整えていきます。

例1は#1〜#7の要素に分解できます。

#1 2024年6月にホテル「レジデンスI am」が開業

#2 もとは大輪酒造の販売所だった古民家を改修

#3 ラウンジが特徴のホテル

#4 有名ホテルブランドは付かない

#5 東京・谷中に建つ小さなホテル                  

#6 PRを考えたとき、ターゲットを絞り込む

#7 的確に情報発信できるSNSをPRに選択

こうしてみると、#2〜#3にはホテルの特徴が書いてあるので、ここをまとめられそうです。さらに、#6、#7を整理すれば、簡潔な文章になりそうです。書き直してみます。

Step2 分解した文章を組み替える

例1の1行目が

2024年6月開業のホテル「レジデンスI am」。

というように、体言止めになっていました。

体言止めは、文として完結したものではありません。字数が足りなくなった場合の緊急避難であったり、その文を強調したりする役目を持つものです。文頭から体言止めにする必要はありません。改善例1では「小さなホテルだ」としました。書き出しに必要なことは「レジデンスI am」について、読み手にアピールしたい内容をコンパクトにまとめることです。

ここでは、

#1 2024年6月にホテル「レジデンスI am」が開業

#5 東京・谷中に建つ小さなホテル                  

の順番にして、「谷中に建つ小さなホテル」を売りの一つとして捉えました。

次に、

#2 もとは大輪酒造の販売所だった古民家を改修

#3 ラウンジが特徴のホテル

#4 有名ホテルブランドは付かない

#2〜#4をつないで、

大輪酒造の販売所だった古民家を改修し、ラウンジに特徴がある。

として、開業するホテルの特徴を伝えるようにしました。

最後に、

#5 東京・谷中に建つ小さなホテル

#6 PRを考えたとき、ターゲットを絞り込む

#7 的確に情報発信できるSNSをPRに選択

#5、#6、#7を整理して、PR戦略についてまとめます。

そのため、ターゲットを絞り込み、的確に情報発信できるSNSでのPRを選択することとした。

この前の文を受ける形にして、「そのため〜」とすれば、流れはスムーズです。

例1のように「PRを考えたとき」と、書き手の思考を時系列順に追って丁寧に書くと、最後に「PRを選択した」という具合に、同じことばを2度も使うことになるのです。思考の過程を書く必要はありません。考えた結果を中心に書いていけばいいのです。「丁寧」は、必ずしも「わかりやすさ」につながるわけではありません。

【after】

2024年6月に開業する「レジデンスI am」は、東京・谷中に建つ小さなホテルだ。大輪酒造の販売所だった古民家を改修し、ラウンジに特徴がある。有名ホテルブランドが付くわけではない。そのため、ターゲットを絞り込み、的確に情報発信できるSNSでのPRを選択することとした。

これで126字。18字短くなりました。

このように、ハッシュタグを使って文章を整理すると、同じ内容の固まりが見えてきます。

この例で言うと、

新規開業ホテルの概要⇒その特徴と売り⇒PR戦略

という流れをつくり出すように、ハッシュタグの内容を組み立て直せばいいのです。この流れが文脈です。

これは、プレスリリースやネット広告文にも応用できます。

わかりにくい「報告書」を分解して改善

今度は、報告文書を取り上げます。

【例2】

本改修案件は2019年度、2020年度で別の改修案件になっておりますが、そのため今回は2020年度分を省略させていただきたい。また、現在工程状況についてご確認いただき、改修案件の着手の承認をいただきたい。

丁寧さが、わかりにくさを生み出した例です。話しことばをそのまま文章に落としたように見えます。文章は、幹をしっかり見せることが重要です。枝葉の部分はとにかくカットします。

Step1 分解して#をつける

これもハッシュタグで整理します。               

#1 本改修案件は2019年度、2020年度で別の改修案件

#2 2020年度分を省略させていただきたい

#3 現在工程状況についてご確認いただき

#4 改修案件の着手の承認をいただきたい

#1の「改修案件は〜別の改修案件」「2019年度、2020年度」は、同じ文言が繰り返されています。まず、ここを整理します。また、「おりますが、」の「が」は接続助詞です。逆接ではなく、話題を変えるためのものなので、#2の「そのため」という因果関係を示す接続詞とは、うまくつながりません。

#2〜#4には、「させていただきたい」「ご確認いただき」「承認をいただきたい」という、いわゆる「いただき表現」が続いています。「いただく」は、相手の許可を得る謙譲語です。クライアントとの力関係などが影響しているのかもしれませんが、多用すると却って卑屈に思われることがあります。

こうした部分を整理していきます。

改善例2でも、まだわかりにくいところは残ります。とはいえ、同じことばを使わないように整理するだけでも、読みにくさは軽減されます。

Step2 分解した文章を組み替える

#1の「年度」は、一つにまとめました。

また、冒頭を読めば改修案件であることがわかるので、同じ文にそれを2度書く必要はありません。「別案件」とすればすみます。また、「が」という接続助詞は、その後の「そのため」という接続詞の意味とつながらないので省きます。

#2〜#4にあるように、許可を得る謙譲語「させていただく」を、なんでもかんでも丁寧語のように使うのはそぐいません。「いたします」も、丁寧語としてじゅうぶんな役割があります。「いただきます」だけでなく、「頂戴したい」という表現を使って、ことばのバリエーションを増やしていきます。

【after】

本改修案件は2019、2020年度で別案件になっております。そのため今回の説明では、2020年度分を省略します。また、現在の工程状況についてご確認のうえ、改修案件着手の承認を頂戴したい。

丁寧に書こうとする意識は重要です。しかし、過剰に丁寧にする必要はありません。省略したり余分なことばを削ったりすると、「相手に失礼な文章になるのではないか」といった心配は不要です。自信をもって書いていきましょう。

文章力を身につけたら、ビジネス文書を書くのがスムーズになる

わかりにくい「提言」を分解して改善

【例3】
インターネットでの安全性は、子どもに任せることはできない。その意味では、家庭内で安全を確保し守るべき規則をつくることが肝要で、子どもがパソコンなどでインターネットを利用することを見守るという、ある意味において常識的な対応が、メディアリテラシーの育成に必要とされる。

子どものインターネット利用について、家庭内でどう対応すべきか、という提言が書かれています。2文目は「その意味では」から書き始め、「ある意味において」とつないで結論へ導いています。

ここでは、家庭でインターネットを子どもが使う場合は「規則をつくる」「利用を見守る」という「常識的な対応」が必要だ、ということを言っているにすぎません。

「その意味」「ある意味」を、接続詞や接続助詞のように使って文をつないでいるため、一文がかなり長くなっています。このことばを削っても、じゅうぶん文意は通じます。

Step1 分解して#をつける

ハッシュタグを使って例文を要約すると、

#1 子どもがインターネットを使うときには、

#2 親が安全なインターネット環境を保証することが重要、

#3 常識的な対応がメディアリテラシーを育む

ということです。この3点が、読み手に伝わればいいのです。例文を書き換えてみます。

Step2 分解した文章を組み替える

【after】

インターネットでの安全性は、子どもに任せることはできない。子どもが守るべき規則を親が決め、パソコンなどでインターネットを利用する際の安全な環境をつくる。こうした家庭内の対応が、メディアリテラシーの育成には必要だ。

何を伝えたいのかを要約して、整理すると骨格が見えてきます。最後も「必要だとされる」という受け身ではなく、書き手の意見として「必要だ」と、自信をもって言いきるようにします。これで、説得力が増すのです。

僕たちは、ことばを無意識に使うことがほとんどです。文章を書く際には、少しだけことばに意識を向けるようにしましょう。「その意味では」「ある意味において」ということばの「その」「ある」は、何を伝えようとしているのか。そこに思いをいたせば、無駄なことばを使わずにすみます。

枝葉のように広がる無駄なことばを多用すると、幹として有効に働くべきことばが霞んでしまいます。同じようなことばが何度も出てきたら、一度ハッシュタグを利用して、文章を分解してみましょう。そうすると、無駄なことばがあぶり出されてきます。それを整理すれば、すっきりとわかりやすい文章が簡単に書けるようになります。

執筆/文筆家・前田安正

写真/Canva

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

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