ChatGPTには書けない、自分らしい文章術・超入門「わかりにくい文章」が「伝わる文章」に変わる。書き方のポイントはハッシュタグ( # )
文章のプロフェッショナル・前田安正氏が教える、AIが主流になっても代替えのきかない「書く力を身につける」文章術講座。第5回はハッシュタグを活用した「伝わる文章の書き方」についてです。
プロフィール
未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。
文章が下手と悩む人のための超文章入門。生成AIが当たり前になった今だからこそ、ChatGPTには書けない、自分の言葉で文章を書く力を身につけたい。朝日新聞社の元校閲センター長で、10万部を超えるベストセラー『マジ文章書けないんだけど』の著者・前田安正氏による文章術講座。今回は、ハッシュタグを活用して「伝わる文章」を書く方法について教わります。
目次
「ハッシュタグ」で文章のわかりにくさを解決
「書いた文章がわかりにくい」「回りくどい文章になっている」。
そう思いながら、どうやってそれを修正すればいいのかがわからない・・・。
今回は、そんなモヤモヤを解決する方法をお伝えします。
いま、「文章」と書きました。文章の元になっているのは、「文」です。ここでいう「文」は、英語で言うセンテンスを指します。文章は、文を紡いで構成されています。ですから、簡潔でわかりやすい文章を書くには、まず簡潔な文を作らなくてはなりません。
簡潔に書くために「ハッシュタグ(#)」を使って文を整えていく方法です。
ハッシュタグは、SNSなどの投稿に付けてその内容を知らせ、検索に掛かりやすくするための記号です。ネットユーザーは、自分の関心のあることばにハッシュタグを付けて検索すると、同じハッシュタグが付いている投稿を拾うことができます。今回は検索を目的とするのではなく、ハッシュタグを活用して、文を分解して整える方法をお話しします。
「ハッシュタグ」を使って「伝わる文章」を書く方法
【Step①】 「ハッシュタグ」を使って文を分解する
次の例文を見てください。
【例1】
伝達手段が多様化した時代は、SNSやネット環境が発展しているので、直接顔を合わせなくてもコミュニケーションが取れる時代だ。
59字でできた文です。言わんとするところは、大体わかります。
とはいえ、一つの文としてはやや長く、回りくどい言い回しになっています。
「これが回りくどい文だとは思わない」というあなた。
その不審に答えるために、これからハッシュタグを使って、文を分解して、原因と解決方法を探っていきます。脳トレだと思って、少しお付き合いください。
例1は次の4つの要素でできています。
#1.伝達手段が多様化した時代
#2.SNSやネット環境が発展している
#3.直接顔を合わせなくても(すむ)
#4.コミュニケーションが取れる時代
この4つを係助詞「は」や、接続助詞「ので」「ても」でつないでいるのです。
【Step② 】 わかりにくい文章になる原因「係助詞」を探す
回りくどい文になった原因を挙げます。
#1と#4を見てください。
#1.伝達手段が多様化した時代
#4.コミュニケーションが取れる時代
#1も#4も「〜時代」という同じことばが使われていることがわかります。
それが、係助詞「は」で関連付けられています。
伝達手段が多様化した時代は〜コミュニケーションが取れる時代だ
というように、「時代は〜時代だ」という身も蓋もない構造になっていることがわかると思います。
そのなかに、
#2.SNSやネット環境が発展している
#3.直接顔を合わせなくても(すむ)
が組み込まれています。こうした構造を生み出すのは、係助詞「は」にその要因があります。
「は」には、遠くの述語(述部)に作用する特徴がある。
ということです。サラッと書きましたが、これがポイントの一つです。
そのため#1の「時代は」が、#4にある「コミュニケーションが取れる時代」という述部にまで作用してしまうのです。
回りくどさの原因がわかったので、それを改善します。
「時代」ということばを一つにまとめれば、この構造から脱することができます。「は」の特徴を理解することが、例文をスッキリさせる重要なポイントなのです。
【Step③】 わかりにくい文章になる原因その2「接続助詞」を探す
もう一つのポイントが、「SNSやネット環境が発展している」という#2の後についている「ので」という接続助詞です。
接続助詞を理解するために、簡単な例を挙げます。
1)食べ盛りの子どもがいるので、食費がかかる。
2)日照りが続いているので、水不足が心配だ。
1も2も接続助詞「ので」が付いています。 よく見ると、「ので」の前と後ろが一つの文ができていることに気づきませんか? 1が21字、2が20字です。ハッシュタグで要素を分けてみます。
1)#1.食べ盛りの子どもがいる/#2.食費がかかる
2)#1.日照りが続いている/#2.水不足が心配だ
という具合です。#1と#2がそれぞれ一つの文になっていることがわかります。
元の文は、スラッシュ(/)の部分に「ので」が入っているのです。「ので」などの接続助詞は、その前後の文を一つにまとめる接着剤の役目があります。二つの文が一つになっているので、当然、一文が長くなります。
【Step④】 わかりやすさの味方「接続詞」を使う
そこで、接続助詞の代わりに「接続詞」を使って分割すれば、一文がコンパクトになります。
1-1)食べ盛りの子どもがいる。/ だから、食費がかかる。
2-1)日照りが続いている。/ そのため、水不足が心配だ。
1、2と比べるためにスラッシュを入れておきました。
「だから」「そのため」が接続詞です。
こうすると、ハッシュタグが付いた文を、一つの要素として独立させることができます。21字あった1は、1-1では12字と11字に分けられました。20字だった2は、2-1で10字と13字になっています。接続詞が加わったので、全体の文章としては文字数が多くなりますが、一文は短くなります。
接続詞の役割の一つは、前後の文の対比を明確にすることです。短い文を接続詞でつなぐと、テンポも良くなりメリハリも効くので、理解しやすくなるのです。
改めて例1を見てください。
【例1】
伝達手段が多様化した時代は、SNSやネット環境が発展しているので、直接顔を合わせなくてもコミュニケーションが取れる時代だ。
接続助詞「ので」の前後が
・#1+#2 伝達手段が多様化した時代は、SNSやネット環境が発展している
・#3+#4 直接顔を合わせなくてもコミュニケーションが取れる時代だ
という二つの文でできていることがわかります。
これを接続助詞「ので」の前後で分割します。
【改善例1】
伝達手段が多様化した時代は、SNSやネット環境が発展している。そのため、直接顔を合わせなくてもコミュニケーションが取れるようになった。
接続助詞「ので」の代わりに、接続詞「そのため」を使い、最後の「取れる時代だ」を「取れるようになった」として文を整えました。例1は59字でした。それが改善例1では29字と36字の文に分けられました。全体では65字に増えました。
【Step⑤】 「無駄なことば」を削る
ここからもう一歩進めて、無駄なことばを徹底的に削るようにします。
次のポイントは、概念的な表現です。
例1の場合は、書き出しの「伝達手段が多様化した」の「多様化」です。これは、とても使い勝手がいいことばです。しかしよく見ると「伝達手段が多様化した」は、そのすぐ後にある「SNSやネット環境が発展している」ことを概念的に表現しているに過ぎません。
見方を変えると「伝達手段が多様化」と書いてもわかりづらいため、「SNSやネット環境が発展している」という具体的な説明が必要になったということです。そうであれば、概念的なことばを使う必要もありません。思い切って削ります。
【改善例2】
SNSやネット環境が発展した時代だ。そのため、直接顔を合わせなくてもコミュニケーションが取れるようになった。
「伝達手段が多様化した」をそっくり削り、「SNSやネット環境が発展した時代だ」としました。これを受けて、コミュニケーションの変化を次に示す構成に変えることができました。
これで合計52字です。例1より合計で7字短くなりました。
たった7字のために、こんなに面倒なことをしなくてはいけないのか、と思ったあなた、ちょっと考えてください。59字の文から7字減らしたということは、実に、原稿の約12%が無駄なことばに費やされていたということなのです。単純計算をすると、2000字の原稿なら約240字が無駄なことばになるということです。
新聞や雑誌などのように紙のメディアでは決められた字数に収めなくてはなりません。ところが、ネット環境ではその制限がないため、文章は長くなりがちです。
そのため無駄なことばが多くなり「書いた文章がわかりにくい」「回りくどい文章になっている」という悩みが生じるのです。それは、文章の元になる文を絞り切れていないからです。そこで、ハッシュタグを使って文を分解し簡潔にしようというのが、今回の狙いなのです。
まとめ:5つのStepで「伝わる文章」を書いてみよう
以上をまとめます。
1.何となく回りくどい文だなと思ったら、ハッシュタグを使って文の要素を分解する。
2.係助詞「は」を見つけたら要注意。遠くの述語に作用して「時代は〜時代だ」という構造になっていないかを確認する。
3.「時代は〜時代だ」構造になっていたら、そのなかに「ので」などの接続助詞がないかどうかを調べる(ほぼ間違いなく、接続助詞が含まれている)。
4.接続助詞があったら、その前後で文を分割する。そして、接続詞を使って文をつなぐ。
5.「多様化」などのように、ザックリと概念を表すことばがあったら、その前後に具体的な表現がないかどうかを調べる。具体的な表現で通じるなら、概念としてのことばは、思い切って削る。
難しそうだし面倒くさそうだと思うのは、当然です。水泳もまず顔を水につけて蹴伸びすることから始まります。2、3回トライすればすぐ慣れます。
これを実践すれば、簡潔な文章にするための一歩を踏み出せるはずです。
僕自身も実践している方法です。
ぜひ、ご自身の書いた文章で確かめてみてください。
執筆/文筆家・前田安正
写真/Canva
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この記事を書いた人
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早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。