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辞めサラでも転職でも、無職期間にキャリアアップする「キャリアブレイク」基礎知識

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勤務先を辞めて無職の期間(キャリアブレイク)を過ごすことは、後ろめたいことではなく、むしろ次のステップには必要なこと。そう力説する、この分野の第一人者が解説します。

プロフィール

北野貴大

きたのたかひろ 1989年生まれ。大阪市立大学卒。妻のキャリアブレイクをきっかけに2022年10月に、一時的な離職・休職を肯定的に捉える「キャリアブレイク」を文化にする一般社団法人キャリアブレイク研究所を設立。

最近しばしば聞く言葉に「キャリアブレイク」があります。これは、一時的な離職・休職によるキャリアの中断を意味します。このキャリアブレイクについて専門家の北野貴大さんに話を聞きました。

北野貴大さんは一般社団法人キャリアブレイク研究所の代表理事としてキャリアブレイクの研究・発信する取り組みを行うほか、『仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢』(KADOKAWA)も上梓したばかり。日本ではまだなじみのない、この文化について北野さんに解説いただきました。

ビジネスパーソンにとってのブランク期間とは?

欧州では、高校を卒業して大学に進学するか就職する前に、1年間の空白期間を設けるギャップイヤーを選択する人がいます。空白期間といっても、何もしないわけではなく、様々な社会体験やスキル習得に充てるのです。

社会人になってからも、そのままずっと勤め続けるのではなくて、長期の旅をする、留学する、資格をとる、家族と過ごすといった理由で空白期間を設けることがあります。あるいは、勤務先の倒産など意に染まぬ出来事で、しばらく仕事をしていない時期も生じたりします。理由はなんであれ、そうした期間はどれもキャリアブレイクです。

これが日本では、空白期間はよくないこと、転職では不利にしかならない要素だと思われがちです。ですが、統計的に見ると、キャリアブレイクの期間なしですぐ転職した人は全体の約26%しかいません。残る7割強の人たちは、大なり小なりキャリアブレイクを経験しています。総務省の「労働力調査」によれば令和2年の転職者数は319万人でした。この年に離職期間が1か月以上に及んだ人だけでも147万人いると推計できます。「無職期間」以外に適当な言葉がなかっただけで、キャリアブレイクをする日本人は珍しくはないことがわかります。

「無職だから弱者」という勘違い

これまで、500人以上ものキャリアブレイク経験者に会って話を聞いてきました。キャリアブレイクをすることによって、新たな人生を歩んだ日本人の事例をいくつか紹介しましょう。

まず、キャリアブレイクに興味を深めるきっかけとなった私の妻です。新卒で商社に就職して、3年目に別の商社に転職しました。2つめの会社で4年働いたところで、自分をすり減らしながら働いてきたようで、「私が私じゃなくなる」と心の悲鳴を感じて、転職活動を始めました。

その活動を続ける間、人生の転機について落ち着いて考えたい気持ちが強くなったようです。ある日、私に次のように話してきました。

“少しのあいだ無職になってみたい。やりたかったことをやったり、行きたかった場所に行ったりして、次の人生を選択するための感性を充電したい。”

そう聞いて、妻の選択を「応援」しようと思いました。ですが、妻からは「応援はいらない。何もせずに見守ってほしい」と言われました。私は、無職を弱者と捉えて支援が必要だと勘違いしていたことに気づきました。

その後、ITの分野に興味を持ち、学校に通いました。結果的に、いまはIT企業でエンジニアとして正社員で働いています。

キャリアブレイク後はどうなる?

転職ケース:キャリアブレイクで天職と出会う

今挙げた妻の例のように、キャリアブレイクの期間を経て、別の会社に転職した人は多いです。他の事例も挙げましょう。

幼い頃からピアノを弾いていて、大学も音楽科へ進みました。就職する段になって、このまま一生音楽をしていくのかと、なんとなく嫌になったそうです。親とも相談して、まったく異なる分野のサービス業に就職を決めました。

そこで1年ぐらい働いていたのですが、厳しいノルマがあって、欲しくない人に売りつけることもあったそうです。考えた末に退職し、キャリアブレイクという言葉を知らずに、1年ぐらい無職をしていました。その間、音楽でもない、サービス業でもない、新たな自分のキャリアを探し始めました。例えば、島で暮らしながら農業体験したり、おしゃれなカフェでアルバイトをしたり、母親の音楽教室を手伝ってみたり……。10職種ぐらいアルバイトをしたそうです。

ある日、学校でアルバイトをしていたときに、一緒に働いていた人の一言がきっかけになりました。「福祉が向いているんじゃない?」。音楽で人に癒しを届ける気持ちが芽生えていたり、サービス業で人と接すること自体は好きだったりと、いろいろな思いが重なっていた頃にそう言われ、雷を打たれたように気分になったそうです。それで今は、障害者が集まるカフェのある福祉事業所で働いています。今はもう1年半ぐらい働いていて、本当に天職という気持ちだそうです。

復職ケース:激務から休職もキャリアブレイクで初心を思い出す

最初は辞めるつもりで休職したけれど、最終的に元の会社に戻った人もいます。

その方は、テレビ局の報道の分野で働いていた20代後半の女性です。相当な激務で体調を崩して休職しました。

休職した時点では、「もう、絶対に戻らない」と思っていたのです。でも、1か月休んで体調が回復し始め、2か月、3か月と休職を続けるうち、入社したときの気持ちを思い出したそうです。それは、各界で活躍している人を取材したり、世の中に必要なニュースを届けることが好きだということでした。働いている間は、忙しすぎて忘れていたのです。

結局、半年ぐらい休んで、転職活動もされたのですが、戻りたいという気持ちが勝って復職しました。復職後は、かつてのように業務に振り回されたりせず、できないと感じたら断れるし、やりたいことに割く時間もある。そういう、バランスの取れた状態になれたと聞いて、ちょっと印象的でした。

起業ケース:倒産によるキャリアブレイクの後に起業

最後は、キャリアブレイクを経て、復職でも転職でもなく、起業された方の例です。

有名大学を出て、不動産ディベロッパーに入った男性の話です。有名企業であったのですが、入社2年目ぐらいで倒産してしまいました。最初のうちは、コンサルティングファームのような知的労働系の会社に転職しようと活動をしていました。でも、あえて1年ぐらい、本当にやりたかったことを思い出す期間として過ごすことに決めたそうです。とはいえ完全な無業ではなくて、フリーランス的な立ち位置で、請け負いの仕事をしていました。だけれど、そうした仕事で時間がどんどん埋まっていく……。「なんかサラリーマンみたいだな」と思ったそうです。

それで、そうした仕事も全部やめて、あえてフラフラしていました。ちょうどその頃、仲間がオフィスに集まって、自由な働き方をするコワーキングが流行り出したのです。それは、彼の使命感みたいな感情と結びついて、コワーキング事業で起業されました。

キャリアブレイク後の2パターン

【パーパス型】納得して復職

キャリアブレイクによって、自分の仕事へのやりがいを再確認、納得して復職するパターン。
・ワークライフバランスをとりながら復帰
・本の仕事への志を思い出して復帰

【スラッシュ型】プラスアルファの仕事と携える

キャリアブレイクによって、プラスアルファのスキルや仕事を携えて復職するパターン。
・事務職に復帰したが、趣味のハンドメイドでアクセサリー作家としても活動
・医者に復帰しがた、大好きだったプロレスにも挑戦

日本では転職が決まると、すぐに次の職場で仕事をスタートさせるケースが多いですが、長い人生の本の数ヶ月、キャリアの種まきに充てるという考えもあるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

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