額賀澪のメシノタネ小説家と親子炊き込みごはん――フリーランスとふるさと納税
小説家・額賀澪が「好きなことを仕事にする人たち」をテーマに書き下ろすエッセイ「メシノタネ」。#10のテーマは、「フリーランスとふるさと納税」。
11月の上旬に、北海道の白糠町からイクラが届いた。去年のふるさと納税の返礼品だ。
500gの冷凍イクラが年に4回、定期便として送られてくるのだが、2023年最後の便が届いたのだった。
「額賀さん、イクラです! 今年最後のイクラです!」
宅配便を受け取ったルームメイトの黒子ちゃんが嬉々として報告してきて、我が家のこの日の夕飯はイクラを使った料理に決まった。
お寿司屋さんに行けばまずタマゴとイクラを注文する黒子ちゃんが作ったのは、鮭とイクラの親子炊き込みごはんだった。
スーパーで肉厚の鮭を買ってきて、ほんのりバターを引いたフライパンでこんがりと焼いて、お米と一緒に炊飯器へ。生姜のみじん切り、油揚げ、ダシの素、醤油を加えて炊くらしい(私は1ミリも手伝っていない)
ごはんが炊き上がったら鮭の身をほぐして炊き込みごはんに混ぜ込み、好きなだけイクラをかける。
鮭を焼くときのバターが多すぎると味がくどくなるから注意が必要なのだと黒子ちゃんは言うが、確かにバターのほのかな甘味が鮭とイクラとよく合うのだ。
イクラが山盛りになることを見越して炊き込みごはん自体は薄味にした方が、イクラをたっぷり楽しむことができるという。
白糠町のイクラは美味い。さすがは北海道のイクラだ。大粒でツヤツヤで張りがあって、味は濃厚。不思議なことに食べても食べても飽きない。
今回は炊き込みごはんにぶっかけて食べているが、炊きたての白米にかけてイクラ丼にしてももちろん美味しい。冷凍で届くのでいろいろな料理に使える。
我が家では11月に届いたイクラを、年末年始のお節料理まで楽しむことにしている。イクラで1年を締めくくり、イクラで1年を始めるのだ。
「美味い、これは来年も定期便を頼もう……」
私は強く決意した。イクラの定期便ほど、人を強く生かすものはない。
仕事で多少のトラブルがあっても「まあ、家に帰れば冷蔵庫にイクラがあるしな」となる。〆切明けにぐったりしているときも、イクラが届けば人は元気になる。
やはり、来年も我が家にはイクラの定期便が必要だ。
*
2023年も残り2ヶ月を切ると、小説家も今年の収入がぼんやり見えてくる(逆にこの頃にならないと自分の年収がはっきりしないのが小説家である)
そうとくれば、ふるさと納税をしなければならない。
なんて話を先日、フリーライターをやっている友人にしたら、なんと「よくわかんないからやってない」という。
そんな友人に、
「税金ばかり高くなってどうしようもない昨今、節税できるものはできるだけしたいだろっ? 悪いこと言わないからふるさと納税はしときな!」
と、ふるさと納税制度について解説したタイミングで白糠町からイクラが届いたので、今回のエッセイのテーマはふるさと納税に決まった。
ふるさと納税とはつまり、自分が暮らしている町以外の特定の自治体を選んで寄付できる制度だ。
寄付した金額のうち、2000円を超える分は所得税・住民税の控除が受けられる。しかも寄付した自治体からは返礼品が届く。
本来なら納税という形で出ていくだけだったお金が、ふるさと納税によって控除&返礼品になるわけである。
同じ金額を払うなら、返礼品をもらえる方が断然嬉しい。
もちろん寄付できる金額には上限があり、これは課税所得で決まる。
寄付上限額を算出できるシミュレーションサイトがたくさんあるので、昨年の確定申告に使用した書類をもとに計算したうえで、ふるさと納税をしたい。
とはいえ、年収が変動しやすいのがフリーランス。おおよその年収が見える年末に寄付上限額を確認してふるさと納税するのが安心だ。
*
というわけで、11月までの帳簿と睨めっこしながら、私はふるさと納税の準備を始めた。
私はできるだけ返礼品は定期便にすることにしている。返礼品が一度届いて終わりではなく、年に数回、海産物や肉やフルーツが届くのだ。
忘れた頃に去年の自分からプレゼントが届くような感じで、届くたびに幸せな気分になれる。
寄付する自治体は、その1年に刊行した本に関係する自治体からまず選ぶようにしている。あとは、今後書く小説の舞台にしたい自治体も。
例えば『競歩王』のときは石川県輪島市と能美市に、『沖晴くんの涙を殺して』のときは広島県尾道市に、という具合だ。
ちなみに白糠町に寄付するようになったのは5年近く前で、「美味しそうなイクラだ!」と何気なく寄付した。それ以来、白糠町の担当者が丁寧なお礼の手紙をくださるようになり、毎年必ず寄付するようにしている。
私の寄付金で白糠町の子ども達がすくすく育っているなら嬉しい。北海道旅行に行くことがあったらいつか尋ねてみたいし、町役場にいるであろうふるさと納税の担当者に東京土産を持っていきたい。
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この記事を書いた人
- 小説家、ときどき大学講師。 青春小説やスポーツ小説をよく書きます。強み:面白いと思ったら何でも小説にしたがること、休みがいらないこと。弱み:小説にしても面白くなさそうなものに興味が湧かないこと。
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