Be Career
キャリア設計

元NHK報道キャスターが「お嬢さん」と呼ばれた日、自分の名前で自立を目指して独立、大学准教授、スピーチコンサルタントに。

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元NHKキャスターであり、長崎大学准教授、スピーチコンサルタントとして活躍する矢野香さん。矢野さんのキャリアのスタートは、「お嬢さん」と呼ばれるアシスタントのような役割でした。

長崎大学准教授、スピーチコンサルタントとして活躍する矢野香さんは元NHKキャスター。しかし、入局当初は3年契約の有期雇用でしかありませんでした。当時、職場の先輩男性からは名前ではなく、同僚全員が「お嬢さん」と呼ばれることは珍しくない「不適切にもほどがある」時代のリアルな話です。そこから17年、報道番組のキャスターを務めた経歴を持ちます。単なる「お嬢さん」だった女性がどのようにメインキャスターとしての地位を獲得し、さらにスピーチコンサルタントとして独立しビジネス現場で活躍しているのか? 矢野さんに聞きました。

女性は「アシスタント」「お嬢さん」が当たり前だった

矢野さんのキャリアは、新卒後、有期雇用のNHK地方局キャスターからスタート。当時は、男性キャスターに対して女性キャスターは全員が有期雇用でした。この職種の人は名刺の肩書は「NHKキャスター」でしたが、現場では男性の記者やカメラマンから「アシスタント」または「お嬢さん」と呼ばれていたそうです。ニュース番組の中でもトップニュースを読むことはほとんどなく、季節の話題やいわゆる「暇ネタ」といわれるいつでも放送できる柔らかいネタ、天気予報の原稿が中心でした。

NHKだけではありません。TBSで37年、女性アナウンサーの第一人者として活躍し、現在もコメンテーターなどを務める吉川美代子さんも、自著の中で新人時代について、同じくアシスタント的な役割だったと振り返っています。

「吉川さんも『女の声でニュース原稿を読ませるな』と言われたことがあったとのこと。憧れの吉川さんも同じだったんだ、と励まされました。NHKだけでなく民放でも、有期雇用だけでなく正社員でも同じ。そういう時代だったのでしょう」

出版した本が売れたら「出る杭は打たれる」

契約更新や局内の人事昇格制度などを利用し、キャスターとしてのキャリアを積み重ねて、男性キャスターとともに担当する番組だけでなく、一人でニュースを担当するメインキャスターの仕事も徐々に任せてもらうようになりました。また、局外からも講演やビジネス書の出版など、個人指名をされる仕事の依頼も増えていきました。

しかし「出る杭は打たれる」というのが日本の悪しき文化。出版する際は、申請とともに事前の原稿確認も行いオフィシャルで許可をとります。手続きの上ではまったく問題なく応援してくれる人もいれば、そうでもない人もいたといいます。

顕著だったのはNHKで教わったスキルを書籍で紹介た本がベストセラーとなったときのこと。矢野さんの書籍と顔が大きく掲載されたJR山手線の交通広告や勤務先の東京・渋谷のNHK放送センター内にある書店で平積みになっている書籍を写真で送ってくれる同僚や上司がいた一方で、SNSなどでは匿名の批判コメントを書かれることも多々ありました。

自分の守り神、セルフ・パペット

名指しで自分のことを批判されたら誰でも凹んでしまうもの。そこで役に立ったのが「なりたい自分」。今矢面に立っているのは、「なりたい自分」の矢野香であるとマインドチェンジすることで乗り越えてきたそうです。矢野さんは「なりたい自分」とは「セルフ・パペット」、自分のあやつり人形のようなものだと説明します。「ほんとうの自分」が「なりたい自分」を操るのです。

「『ほんとうの自分』が批判されたわけではない。『ほんとうの自分』が操った『なりたい自分』が相手を不快にさせた。『なりたい自分』の自己表現を失礼のないように変更しよう、と考えました」

たとえば、自分を「セルフ・パペット」として客観的にとらえ「なぜこのパペットは批判されているのか?」と考えます。「偉そうに見えたから」と思ったとしたら、「どこが偉そうな印象を与えたのか?」と自問自答を続けます。

「話しを聞いているときの顎の角度が上向きで、いい気になっているように見えて癇に障ったのではないか」

「言葉遣いが横柄に聞こえたのかも」

と何かしら思い当たる原因を排除し、相手に批判されない話し方に変えていくというものです。

「なりたい自分」を使って大学教員、スピーチコンサルに

NHKでキャスターを続けながら、矢野さんは人前に立つ方のための指導を行うコンサルタントとして活動をはじめます。そんな矢野さんが選んだ肩書は「スピーチコンサルタント」。コンサルタント業務を「NHKキャスター」という肩書で行うことは職場の許可がおりなかったため、オリジナルの肩書をつくったそうです。

「スピーチコンサルタント」として商標登録し、Ⓡも取得。政治家や経営者、上場企業役員、有識者、著者、アナウンサー、タレントなどに『なりたい自分』の操り方を伝えていきました。そして著書『その話し方では軽すぎます!エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)を上梓しベストセラーに。2013年にはNHKを退局し、ついに独立します。

現在はスピーチコンサルタントだけでなく、長崎大学准教授としてスピーチ研究をつづけながら、メディア出演やセミナー・講演など多方面で活躍。

そんな矢野さんが政治家や経営者など人前に立つ立場の方々はもちろん、キャリアアップしたいビジネスパーソンや大学生などにも、必ず伝授するのが「なりたい自分」の操り方だといいます。「お嬢さん」と呼ばれていた新人時代から、「なりたい自分」を目指し一歩一歩階段を昇ってきた矢野さん。今あなたが会社や組織で不遇の立場だったり、自分の望むキャリアを築けていなかったりしたとしても諦めることはありません。「なりたい自分」を操るスキルを身につけることで、自分のキャリアは自分の手で切り拓いていくことができるのです。

*この記事は起業や自立を目指すセミナー(コワーキングスペース「Air Business Departure」主催)での登壇内容を記事化しました。

この記事を書いた人

今崎ひとみ
今崎ひとみIT人文好きライター
うさぎと北欧を愛するライター。元Webデザイナー。インタビュー取材やコラムを執筆。強み:好奇心旺盛なところ。失敗してもへこたれないところ。弱み:事務作業が苦手。確定申告の時期はブルーに。

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