「早く親元を離れたい」と18歳で上京した南果歩が考える家族の在り方とは?「早く親元を離れたい」と18歳で上京した南果歩が考える家族の在り方とは?
家族をテーマにした舞台『これだけはわかってる ~Things I know to be true~』に出演している南果歩さんが、舞台に出演して感じた、過去の捉え方や大人になるということについて語ってくれました。
プロフィール
俳優南果歩
「心の奥底で誰もが抱えている言葉がある」と、アンドリュー・ボヴェルの傑作戯曲への出演を決めた南果歩さん。母、妻、女性、看護師……様々な顔を持つ女性を演じて感じた家族の在り方、人生の意味とは?
――家族をテーマにした舞台『これだけはわかってる ~Things I know to be true~』で、夫と4人の子どもがいる女性・フランを演じます。
南:戯曲を読んで「すぐ、やりたいです!」と伝えました。「理想の母親像を表現してください」という物語だったら、お受けしていなかったと思うのですが、この作品には母としての顔だけでなく、妻、女性、そして必死で生きてきた人間としての顔がありました。一人の人間の多面を深く表現したいと思ったからです。物語の中では、心の奥底に秘めていた言葉が、ある出来事を機に溢れ出る場面もあります。
――南さんご自身のご家族と重なる部分はありましたか。
南:私は役と自分自身を重ねることは敢えてしませんが、我が家は5人姉妹だったので、4人の子どもがいるプライス家とは大家族という部分は近いですね。私は末っ子だったので、いつも1番下から家族を見上げていました。4人の姉達の姿から「こういうことをしたらダメなんだな」色んな見本を見せてもらっていました。だから大人っぽい子どもでした。でも、大人になってからはすごく子どもっぽい面が残っていることに気づきました。大人っぽい子どもだったはずなんだけど、バランスが悪い大人になったなって感じています。だから演劇をやっているということもありますが。子どものときに一番最初に接する家族という最小単位の社会は、人格形成に大きな影響がありますよね。
――南さんにとって「家族」はどのような存在でしたか。
南:私は早く親元を離れたいと思っていたので、高校を卒業した18歳のときに進学のため上京しました。「家族」はこういうものとひとくくりにするのは難しいけれど、近くにいれば不満が見つかって、距離を置くと優しくなれる。母については、見習うべきところもあるし、反面教師にしていることもある。『母に似ている』と言われることが1番イヤなんですけど、歳を重ねる中でそう言われることも増えましたね。
――一見穏やかなプライス家ですが、フランが夫・ボブ(栗原英雄)に向けて思いを吐露するシーンが印象的でした。「愛は冷める」「別の人生を考える」「そしてそれも忘れてしまう」「それでよしとするの」――。言葉が刺さりました。
南:傷ついたことを、「過去」としてとらえられるようになることが、大人になるということなのかなって……。人生は続いていくものですから。
――そうですね。プライス家が変化して行く様子からは、果歩さんが25年以上親しくされていた瀬戸内寂聴先生が口にされていた「無常」という言葉が浮かびました。
南:いい言葉ですよね。良いことも、悪いことも留まることはない。今はずっと続くものではない。「無常」は仏教の言葉なんですけど、ほかにも先生からは色々なことを学びました。実は今も瀬戸内先生の日めくりカレンダーを毎日めくっては書かれてある言葉を読んで毎朝元気をいただいています。
――瀬戸内先生とのやり取りで、印象に残っていることはどのようなことですか。
南:それはもうたくさんあります。瀬戸内先生とは食事をしたり、お酒を飲んだりしながら、私の不幸話にも付き合って頂きました。99歳のお誕生日(2021年5月15日)にかけたお電話が最後になりました。とても元気なお声で、まさかその半年後に亡くなられるなんて思いもしませんでした。でも先生の死から大きな教えがありました。人の人生には限りがあるんだってことを。先生の年齢を考えたら、いつお別れがあってもおかしくないはずですが、私は先生は絶対に死なないと、どこかで思っていました。でも誰にで平等に死は訪れるんだと思い知りました。先生はお会いしたときいつも「あなた、それで、いくつになったの?」って私に聴くんですけど、「何歳です」って伝えると、「そう。あなた、人生これからが面白くなるわよ」っておっしゃってくださいました。いつもこれからだと私の背中を押してくださっていました。素晴らしい人生の師と時間を過ごすことが出来て、私は本当に幸せだったと思います。
取材・文/翡翠
編集/MARU
公演情報
tsp NextStage『これだけはわかってる ~Things I know to be true~』
2023年6月30日(金)〜7月9日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
作:アンドリュー・ボヴェル
翻訳:広田敦郎
演出:荒井遼
出演:南果歩 栗原英雄 山下リオ 市川知宏 入江甚儀 山口まゆ
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この記事を書いた人
- 音楽や映画、舞台などを中心にインタビュー取材や、レポート執筆をしています。強み:相手の良いところをみつけることができる。弱み:ネガティブなところ。