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コロナ禍に世界とつながるオンライン教育で起業。ビジネスアイデアは頭の片隅に眠っている?

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コロナ禍の真っ只中に Zoom を活用した教育事業を立ち上げた堂原有美さん。難しい環境下でも事業を育てていくコツをうかがいます。

長年勤めた広告代理店を辞めて、世界幸福度ランキング上位の 27 カ国を旅した堂原由美さん。帰国後はお金に窮しながらも Facebook を通じて得た仕事で、収入面では、ほっと一息つけたといいます。退職、世界 27 カ国の旅を経て、自分のライフワークと呼べる事業を立ち上げるという大事なミッションにどのように向き合い実現したのでしょうか。

プロフィール

インタビュアー、スタートアップ広報中村優子

(なかむら・ゆうこ)元テレビ局アナウンサー、インタビュアー、スタートアップ広報。作家・林真理子さんのYouTubeチャンネル「マリコ書房」、および著者インタビューサイト「本TUBE」を運営。インタビュー動画の企画から出演、編集まで一人でこなす。年100本以上の動画制作に関わる。2022年、スタートアップ広報の会社を設立。

ビジネスアイデアは5年間熟成

幸福度の高い国々を旅した堂原有美さん(本人提供)

とっかかりのキーワードになったのが「教育」。堂原さんは、会社を辞めて世界 27 カ国旅する 5 年ほど前に、一度フィンランドに行っています。そこで、現地の人たちに、幸せである理由を根掘り葉掘り聞いて回りました。答えは様々で、決定打となるものは絞り切れなかったようですが、「教育がいい」という声が多く、気になっていたそうです。


そこで、5 年後の世界一周では、幸せな国の教育を知ることを「裏テーマ」とし、その方面の見聞を広めました。堂原さんは話を続けます。


「帰国して日本のためにできることは何か、いろいろ考えて行き着いたのが、政治か教育でした。ただ、政治だと、今の日本では何をやっても多分動かないと思い、もう1つの教育にやはり目が向きました。


世界中に、社会をよくするヒントや幸せになるヒントが、たくさん落ちています。子供の頃から、教育を通してそうしたヒントに触れられれば、一人ひとりの意識が変わり、どんな自分でもいいんだと気づき、個性を発揮できるようになるのでは。


また、日本の社会制度をよい方向に変えてくれるような子が出てくるのではないか。私は世界一周をして、日本や世界の見え方がガラリと変わったように、子どもたちにも同じ経験をさせてあげたい、と思いました」


そのとき、コロナ禍が始まったのです。しかしコロナにより世界中で Zoom が一気に広く普及。堂原さんにとっては世界中の人とコミュニケーションが取れる状況になったといいます。

コロナ禍のオンラインで「教室から世界一周!」

堂原さんは、「教室から世界一周!」をコンセプトに、コロナ禍の真っ只中の 2020 年 4 月に事業を着想。6 月には、構想を実現していきます。それは「日本と他国をつなぐ場を設け、世界中にたくさんの友達を作る」というもの。記念すべき初回はメキシコと日本の小学校で、オンライン交流。


新規性のある事業だけに、マスメディアがこれを紹介。弾みがついて、ガーナ、フィジー、イスラエル、フランスなど様々な国とオンラインで交流が結ばれました。


堂原さんは、この事業で会社を立ち上げ「株式会社 WTOC(ウトック)」と名付けました。

WTOC とは「World Tour from Our Classroom(教室から世界一周)」の略です。これにはいくつかプログラムがあり、例えば「異文化交流プログラム」だと、「学校や地域などを紹介しあい、多文化に触れ海外に興味を持つ」ことが目的。1 授業 60 分程度で、英語と日本語の両方を使って会話します。また、「日本語で海外の友達をつくろう」というプログラムもあります。こちらは相手国の参加者は日本語学習者で、英語力は問われません。これについて、堂原さんはこう説明します。

「交流」の固定観念を壊したオンライン

「このプログラムは、海外の相手が日本語学習者なので、英語がすごく苦手な日本人でも大丈夫。そんな子でも海外の友だちとの会話を楽しめるから、海外を好きになるきかっけになったりとか、そこから英語を本格的に勉強し始める子も出てきたり。留学へ行く子も出ています。


画面越しでも、いろいろな世界を見てもらうことで、多様な価値観を持つことが、やはりとても重要だと考えています。なので、そういったことをどんどん自分たちの仕事を通じて、日本を担う次の世代に普及させたいという気持ちがあります。


先ほど話したように、オンラインでの会話は、双方が英語のときもあれば、日本語のときもあります。英語が苦手なら、全然日本語でいいと思っています。

「国際交流は英語」の固定観念を壊した日本語で

『英語で国際交流』だと強調したら、『英語できないとダメなんでしょう』みたいな感じにでなってしまいますが、それはすごく勿体ない。英語はできなくても、海外から学べることは、めちゃくちゃありますから。また、海外の人たちとの楽しい交流があって、その後で「英語やってみよう」とか「留学に興味をもった」が自然と湧き上がる例をたくさん見ています。


ですので、まずは言語のハードルを取っ払って、世界中とつながれる場を作りたいのです。そうすれば、日本人の海外に対する意識がもっと身近になり、多様性を面白がったり、海外のいいものを取り入れたり、日本の価値に改めて気づくきっかけが生まれ、心や社会が豊かになっていくのではと」

「教室から世界一周!」の様子(本人提供)

初期費用はクラウドファンディング

「WTOC」の事業は、オンラインが主体とはいえ、ウェブサイト構築や教材作成など大きな費用を要するものでした。堂原さんは、そうした初期費用をまかなうため、クラウドファンディングを活用しました。


「何もない中でどうしようと何人かに相談したとき、出てきたのがクラウドファンディングでした。もちろん私自身、経験がないし、人に“お金をください”と依頼するのは抵抗や遠慮があったので、どこか避けていたところがありました。でも、他に妥当な手段はない……。
これはやるしかない、と意を決しました。

学校がクライアントの課題は「マネタイズ」

実際にやってみて、人にお願いをすることの重みや意味を理解したり、逆に、思いがけない人が応援してくれていることを知ってうれしくなったり。結果として、目標額を上回る資金が集まり、やって本当によかったと思いました。


「事業を立ち上げてから、新しいチャレンジの連続です。何事も、新しいことをするときの初動はいつも大変ですが、学ぶことだらけで、最後には必ず大きなものを得られていて、やってよかったと心から思います。今はまだ見えない、もう一つ先の世界を知れる、これは新しい事業やビジネスをはじめる人のとても大きなメリットであり、幸せを増やせる方法だと思います」


クラウドファンディングの実施から 2 年近く経った現在の課題は、安定的なマネタイズ。特に学校相手だと、「なかなかマネタイズが厳しい」とのことで、今後はそこにも力点を置くそうです。同時に堂原さんは、短中期的なビジョンをこう語ります。


「世界中につながるプラットフォームのような場をどんどん広げていきたいです。世界の多様性を知ることで、それを楽しめるようになったり、寛容になったり、世界のいいものを取り入れるようになったり。人も社会も、どんどん幸せな方向に変わっていくのではと思っています。


私は、世界の情報を知ってないといけない立場なので、これからも世界を巡りながら、この事業も広げていければ、最高に幸せだなと思います」

仕事にも幸福にも欠かせないのは「人とのつながり」

最後に堂原さんは、人とのつながりの重要性について話しました。


「世界一周をしたときや、事業立ち上げのときにお話しをした人たちが、今も相談にのってくれて心強いです。また、大学生のインターン生たちが、授業作りを手伝ってくれ、授業の司会者もしてくれたりと、助かっています。Facebook で発信したときも人に救われたし、クラウドファンディングでも多くの人からありがたい支援をいただきました。


もしも、仕事や人生で行き詰まったときは、とにかく人に頼るっていうことが一番だと思います。


というのも、世界一周をして「人とのつながりが豊かな国のほうが、幸福度が高い」という事実を何度も目の当たりにし、体感したことは大きかったです。幸福度が高い国々に比べると、日本人は人とのかかわりあいがあまり上手ではないと思っています。日本では「人には迷惑をかけないように」とよく言われます。また、もう一つの原因として、日本人は裕福になりすぎたというのがあります。1 人でこもって、不自由なくなんでもできる環境を作れてしまう。さらには効率化を進めてしまって、人に頼らないほうが楽と感じている日本人は少なくありません。私たちはそこを見つめなおすことが必要で、人と深く関係することが幸せにつながるものだと認識して、そんな世の中を作っていくことが必要なのではと感じます。


最後に、WTOC の事業をご一緒してくれる方、おもしろがってくださる方、ぜひご連絡ください! 一緒にワクワクしてもらえるとうれしいです」

株式会社 WTOC 『脱!しあわせ迷子』

この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

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