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6年連続ミシュラン獲得「予約の取れない」シェフ笹川尚平「自分のお店を持ちたい」から独立しても、自由には経営者としての想像を超える責任がある

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予約が取れない東京広尾のイタリア料理店「ボッテガ」のオーナシェフ笹川尚平さん。40 歳でコツコツ貯めたお金で自力で独立。自分の料理を追求できるシェフであると同時に経営者としての責任ものしかかってきます。

プロフィール

ミシュランシェフ笹川尚平

6年連続ミシュランシェフ。広尾のイタリアレストラン「BOTTEGA(ボッテガ)」オーナーシェフ。「知味 竹爐山房」にて中華料理の研究者とも言われる山本豊氏のもとで学ぶ。イタリアに魅せられイタリア留学後「アロマフレスカ」で 14 年務め、2017 年独立。現在まで 6 年連続で「ミシュラン」の一つ星を獲得するほか、2023 年は「ゴ・エ・ミヨ」、「ヒトサラ ベストシェフ&レストラン 2022-2023」も。

ミシュラン星付き有名レストランから独立

「お客様が来ない日々」独立してわかった集客の難しさ

修業先のイタリアから帰国後、アロマフレスカという有名店に就職しました。28 歳の時には、系列店としてオープンした「カーザヴィニタリア」のシェフを任され、5 年連続ミシュラン一つ星を獲得。自由に料理をさせてもらっていたのですが、僕の名前や顔でお店が成り立っていたのではなかったんですね。これが影響したのか、自力でお店をオープンして半年間は、ほとんどお客様が来ない状態でした。金銭的な余裕がなく、広告費を出せなかったことも原因だったと思います。

「誰も叱ってくれない」独立してわかった孤独感

シェフって孤独なんですよね。シェフになった時点で、もう僕に対して叱咤激励してくれる人がいないんです。いろんなことを自分で解決しなきゃいけない。雇われシェフの立場でも、「頑張ります」と言って引き受けた以上はそこから逃げられないですし、大きな責任があります。でも、40 歳で自分の店を開いてからはそれどころじゃなく、12 席で提供するのが精一杯。毎日シェフと経営者の狭間で悩んでいました。

「売り上げ、評価、顧客」独立してわかった経営者の重責

売り上げや目標達成、世の中からの評価だけでなく、お店を持続させていくこと、スタッフの将来……。経営者はいろんなことを考えなきゃいけないんですよね。「カーザヴィニタリア」で 11 年間シェフをしていたときも、自分を追い詰めて精一杯やっていました。それでも、お店を経営しながらシェフをするのとは責任の重さが雲泥の差でした。

自由には責任がある

経営者の立場になってから、やりたいことの制限もあると知りました。毎日「お客様にご来店いただくためには?」「スタッフが過度なストレスを抱えることなく、向上心を持って仕事をするには」?とか、いろんなことを考えるんですね。もちろん、シェフとしてやりたいこともあります。
お店を続けていくために考えていることなんですけれど、バランスを取るのは難しい。でも決定権も、結果に伴う責任も僕にある。自由って大変なんだ、厳しいものなんだと思いました。「自由には責任がある」という言葉の本当の意味がわかったのは、お店を開いてからでしたね。

好きなことを仕事にするにはお金が必要

撮影/I am 編集部

スポンサーを見つけてお店を開く料理人もいる

起業する方たちと同じように、料理人の独立もそれぞれです。最近は 20 代で修業して 30代前半で独立する料理人が多いかもしれません。親のお店を継ぐ人もいますし、スポンサーに出資してもらうケースもあります。有名店の二番手、三番手の料理人の場合、将来を見届けたいとの理由で「スポンサーになるよ」と声がかかることもあるらしいです。

時間はかかったけど自力で開業できた自信

僕は自力でお金を貯めて、お店を開いたので、独立は少し遅かった。イタリアの留学費用を貯めたときも、お金は大事だ、好きなことを自由にやりたいならお金をおろそかにしてはいけない、と思っていました。社会勉強としての意味も含め、投資をしてみて、リーマンショックも経験しました。苦労はあったんですけれど、若かったですし、周りの人にお金を借りてまでやるつもりはなかった。
自分のお店を開いたのは 40 歳でしたが、それまで積み上げてきたことで、たくさんの引き出しを得られました。人とのコミュニケーションでもいろんな経験ができましたし、自力でお店を開いて正解だったと思っています。

独立経営とは、人がいてこその商売

撮影/I am 編集部

何千回も後悔してわかった「みんながいて僕がいる」

スタッフを信用していても、日々いろんなことが起こるんですよね。お客様に食べていただく料理に関することはもちろん、料理ではなくても、お客様に直結することは、はっきり言います。それ以外で言うべきか迷ったときは引きます。「なんであんな余計なこと言ったんだろう」って後悔したことが、1000 回も 2000 回もあるので。
その経験から、ぐっとこらえるようになり、自分の中で感情をちょっと冷やして引けるようになりました。それでもおさまらなかったら、僕の最大の冷却装置「生かされている」ボックスに置きます。ボックスに置いた後は、みんながいて、僕がいて、今日も営業できる。お客様が美味しいって言ってくださる。もうそれでいいじゃないか、となります。

難しいのは「人」だからこそ気持ちいい場所に

人と人が一番難しくて、チームで仕事をするのも、お客様にご来店いただくのも大変です。
仕事の仕方がちょっと気になるとかは、僕だけじゃなく、みんなあるじゃないですか。その場で言って、ギクシャクしてお客様に影響があるぐらいだったら言わない方がいいですし、時間がたてばお互い理解することもある。感情に任せて強く言った言葉は、トラウマになることだってあるかもしれない。そんな状態になるよりも、理解し合えて、高め合えて、気持ちよく提案ができる場所にしたいです。

給料やボーナスのこと

チャンスをつかむときも、人との関係が大切なんですよね。お店も人がいてこそ成り立ちます。僕は経営者とシェフ、両方の立場。でも、スタッフに給料を出したのは僕だなんて思いもしないです。常に給料アップしたいと思っていますし、ボーナスもきらしたことがないです。そのような環境にしたらスタッフが応えてくれるだろう。そう考えて実行しているわけではないんです。やはり「生かされている」というところに戻ってくるんですよね。

続きは5月7日(土)に配信します。

第1話はこちら

取材/I am 編集部

文/村上いろは

バナー写真/有賀傑

この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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