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リスキリング

働く女性のリスキリング事情とは。子育てしながら社会人大学院での学び直しはできるのか?

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働く世代で最も忙しいかもしれないワーママがわざわざリスキリングする動機とは? リスキリングという言葉を見かけるようになって約半年。「働きながら」「子育てしながら」「リスキリング」という超ハイブリッドな女性2人に「働きながら学び直し」のリアルを聞いた。本業の業務、子育てだけでも忙しいワーママが、なぜ3足目のわらじをはくのか? リスキリングにどんなメリットがあるのかを探った。

子育て中にフルタイム勤務で社会人大学院に行く女性たち

政府が昨年10月にリスキリング支援を盛り込んだ総合経済対策を打ち出したことをきっかけに、リスキリング、という言葉をメディアで頻繁に見かけるようになった。

実際、わたしの周りでも、働きながら学びなおしをする人が増えている。しかしそれは、リスキリング支援が始まったからというわけではなさそうだ。また、その中には子育て中の女性たちも少なくない。

今回お話を伺った2人の女性たちも、子育て真っ最中にフルタイムで働きながらリスキリングを行っている。お1人はお子さんが小学校4年生の時、もうお1人は、下のお子さんがまだ2歳になる前だ。

子どもが大きくなってから、あるいは仕事を辞めて大学院に行くという選択もあるだろう。でも彼女たちはそうしなかった。でもそのおかげで二人とも、今の仕事における評価が上がったうえに、ライフワークを見つけることに成功している。

3足のわらじを履けば、キャリアを中断しなくて済むし、金銭面でも安心できる。もちろんシビアなタイムマネジメントと周りの協力が不可欠だし、子育て特有の思いがけない事態も起きるだろう。

だが、物事にはタイミングがある。お二人のリスキリングは、そのタイミングだったからこその成果ではないだろうか。

photo / PhotoAC

彼女たちが社会人大学院で学びなおしをする背景には、どんな理由があるのだろうか?
社会人大学院に実際に進学した働く女性たちへのインタビューをもとに、子育てをしながらリスキリングすることのリアルに迫っていきたい。

実例①2人目の育休後「プログラミング教育」研究

ITコンサル企業勤務の吉田美穂さんの場合

ITコンサルタントとしてフルタイムで働きながら大学院でMBA相当の学びを得た吉田美穂(仮名)さんは、2人のお子さんがいる母親だ。

「まだ創業して間もない会社で、わたしが初めての育休、産休取得者でした」

1人目の育休の時は、”女性が仕事を続ける”ということについて、会社側も吉田さん自身も、まだよくわからない状態だったという。復帰した際のフォローなどもなかったころで、その間ずっと仕事を続けていた人たちと同じ土俵で仕事をしていけるのか?と考えざるを得ない出来事が何度もあったのだとか。

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だからこそ、2人目の育休では、別の仕事に就くことも視野に入れて、「今まで経験してこなかったことをやろう」と様々なことにチャレンジした。

教育関連のイベントで出会ったのが、その後恩師となる大学院の教授だ。ビジネスコンサルタントを退職後に大学院で教授を務める傍ら、教育に関する研究をしていたのだ。

その出会いが、吉田さんの未来を変えた。

「教育についていろいろ伺っているうちに『ぜひこの方から学びたい!』と思ったんです」

2人目の育休明けからちょうど1年後の4月、大学院に入学した。上の子が小学校1年生、下の子はまだ2歳になっていなかった。

ワーママ×自分のキャリアを活かした研究テーマ

 大学院での研究テーマを探していたちょうどそのころ、文科省が「小学生のプログラミング教育を2020年から小学校で開始する」という方針を発表した。ITを生業とし、子育て真っ最中の吉田さんにとって、『子ども向けのプログラミング教育』は、ドンピシャのキーワードだった。

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しかし、肝心のプログラミング教育の中身がちっとも面白くないのだ。

我が子が小学校にいる間にこのカリキュラムは始まってしまう。「プログラミングって面白い、ってことを知ってほしい!」と、『子ども向けのプログラミング教育』をテーマに研究し、論文を書き上げた。

また、コンサルティングを仕事としている吉田さんはこれまで、製品やサービスを作ったことがなかった。この研究は、「何か世の中にモノを作って提供することがしたい」という、吉田さんのもう一つの希望をかなえることでもあったのだ。

後悔はパートナーに相談せず、独断で進学したこと

大学院進学に関して吉田さんが今でも気にしているのは、パートナーに相談しなかったことだ。

大学受験の申し込みの期限が迫るなか、大学院に行く、と決めた。1人で進学を決めてしまったことが、いまだに尾を引いているという。

「相当もめましたね。パートナーにしてみれば、反対どころか賛成すらする間もない状況だったので」

誰が子どもたちの面倒を見るのか。「明確な解決策が見いだせないままの2年間は本当に大変だった」と吉田さんは言う。パートナーは小さい子どもたちの世話を押し付けられた形になり、その後も根深い問題になっているそうだ。

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「当時はベビーシッターさんもお願いしていましたが、全てやってくれるわけではないですし、休日の育児はパートナーにお任せだったので、本当に大変だったと思います」

ただ、母親が不在であることは、子どもの成長に関しては特に問題がなかったという。

「わたしがいなかった2年間、子どもたちは小さかったのでその時は寂しかったかもしれないけれど、そんなに気にしてなかったと思います。逆に、いなかったから成長した部分もありますね」

このタイミングだからこそ、見つかったライフワーク

現在、吉田さんは大学院を修了後、ITコンサルティングの仕事をより深めるだけでなく、副業として大学院での研究をもとにした子どものためのプログラミング教育サービスを起業し、広める活動を行っている。

吉田さんは、このタイミングに進学したからこそ、自分の研究テーマに『子ども向けのプログラミング教育』を選んだ。そしてその研究成果で起業し、今後はこちらを本業にできたら、とひそかな野望も抱いているのだ。

もし子どもがもっと大きくなっていたり、プログラミング教育が始まったあとだったとしたら、このテーマを選んだだろうか?

また、別の仕事に就く前に進学したからこそ、MBA相当の学びが仕事に生かされ、評価につながったのだ。辞めてしまったり、転職した後だったら評価につながらなかった可能性だってある。

吉田さんにとって、このリスキリングはこの上なく良いタイミングだったと言えるのではないだろうか。

実例②父の死がきっかけで学び直しにチャレンジ

大手企業で経営企画部門勤務の小林貴子さんの場合

大企業で経営企画を行うポジションにつきながら大学院でシステムマネジメントを専攻した小林貴子さん(仮名)は、パートナーとお子さんとの3人家族だ。

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大学を卒業したころから、いつか学びなおしをしてみたいという気持ちはあったという小林さんだが、大学院での学びはパートナーのほうが先だった。パートナーが大学院生活を終えた年に小林さん自身も大学院へ進学したが、実はそれは予定していたものではなかったという。

「年末に父が急に亡くなったのが大きかったですね」

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死ぬ時期は選べない。やりたいことはやれるうちにやらなければ。小林さんは、そんな強い思いに駆られたそうだ。

今なら母親はまだ元気だけど、この先介護も必要になるかもしれないし、子どもが中学受験をするなら、6年生の時には全力で応援してあげたい。大学院に行くなら4月から4年生になる、このタイミングしかない!と思い、受験を決意したのだ。

大学院ではスキルではなく「地になる学び」を

選んだのは、とあるコミュニティ繋がりの知人が6年前に通っていた大学院だ。興味深いカリキュラムがいくつもあって、いつか行きたいと思っていた。会社を辞めるつもりはなかったから、仕事をしながら通えるという点を考えても、選択肢はそこに絞られた。

もともとコミュニティ運営等の活動をしてきた小林さん、そういうボランタリーでフラットな組織を上手く動かしていくには何が必要なのか、というところに興味を持っていた。そんなときにシェアードリーダーシップという考え方を知る機会があり、研究テーマに選んだそうだ。

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小林さんは大学院を、「地になる学び」をする場所だと考えている。何かの役に立つとかスキルをさらに高めるとか、もうすでに固まっている学問は他で学んでいるという。

『なんかよくわかんないな』みたいな、新しいことがやりたかったんです」

家事は家族の協力とスマート家電フル活用

授業は毎日だったが、昼間だけでなく、夜や土日、イーラーニングでも受けられた。小林さんは夜間とeラーニングで単位を取得。仕事をしている人でもちゃんと学べる仕組みになっている。

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パートナーが先に大学院に行っていたので、その大変さをよくわかってくれていた。「次はわたしが行くからね!」と宣言していたこともあり、全面的に協力してくれたのだそう。交代で大学院に行ったのは、お互いやりたいことができるし、お互いの助けにもなれて良かったという。

「わたしが大学院に通っている間、夫が普通に家事をやっていました。単身赴任もしていたし、家事は何でもできるんですよ」

とはいえ時間は有限。割り切りも大事だと小林さんはいう。家事はやろうと思えばいくらでも出てきてしまうから、最低限でOKと決めた。スマート家電への投資も惜しまない。

都合がつかないときは、子どもを連れて大学院に行っていた。パートナーの大学院時代からなので、子どもはもう慣れたもの。授業やゼミの間はゲームをしていたそうだ。

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一緒に学んだ戦友たちは、なにものにも代えがたい

現在、小林さんは大学院を修了後、本業もさることながら、「女性の声をもっと経営に生かしたい」と経営により深くかかわるための様々な活動を活発に行っている。

小林さんが子育てしながら大学院に行くことを決めたのは、「ここしかタイミングがなかった」からだ。

もちろんもっと子どもが大きくなってからという選択肢もゼロではなかったが、母親の体調を気にしていた小林さん、先送りにした時の進学のしやすさもきちんと計算していたに違いない。

そして大学院進学で得られたのは、一緒に学んだ仲間たち。小林さんは彼らを「戦友」だという。様々な年齢や価値観、バックグラウンドの方々と忌憚なき議論を交わすことで生まれた仲間意識は、仕事ではなかなか得られないものではないだろうか。

以前から「大学院に行ってみたい」という気持ちがずっとあったことも、「ここしかない」というところでリスキリングを決意する、最後の一押しになったに違いない。

ワーママのリスキリングに欠かせない3つのコツ

吉田さん、小林さんのお話を伺って、フルタイムで仕事をしつつ子育てしつつ社会人大学院での学びなおしをするなら、これだけはやっておきたいと思ったことが3つある。

大学院進学についてパートナーに相談する

ひとつめは、なによりもまずパートナーに相談することだ。特に就学前の子どもがいる場合、大学院での学びなおしはパートナーの協力なくしては成り立たせるのは難しい。そうでなくとも、学びなおしについて相談することは自分たちの将来にもつながるはずだ。

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吉田さんはそれができなかったことで、パートナーの積極的な協力が得られなかっただけでなく、大学院を修了した今でも引け目を感じてしまっている。一方で「次はわたしね!」と常に伝えていた小林さんは、家事全般をお任せしたりとスムーズだ。

お互いが納得して新たな一歩を踏み出すためには、少しでも心の準備がある方が、納得しやすいに違いない。学びなおしたいと思ったらまず、その気持だけでもパートナーに伝えてみてはいかがだろうか。

子どもの世話をどうするか決める

ふたつめは、子どもの世話をどうするか決めることだ。ある程度大きくなれば、小林さんのように大学に一緒に連れていくという選択肢もあることが分かった。しかし就学前の子どもの場合は吉田さんのように、パートナーの負担になることがほとんどだろう。

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ベビーシッターや保育園、学童はもちろん、実家や周囲の手を借りるのもありだし、子育て支援制度があれば活用しない手はない。子どもがいる場合、子どもが何歳ごろの時なら学びなおしが可能か、シミュレーションしておくとよいと思う。

大学院で学びたいという強い気持ちを確認する

そして何より必要なのは、大学院で学びたい!という強い気持ちがあるか確認する、いうことだ。

「ただ単位を取るだけなら難しくないけれど、本業と並行して続けるのは本当に大変」と吉田さん。動機が明確であればあるほど、最後までやりきる原動力になるそうだ。「同期に先を越されたので絶対〇年以内にキャリアアップする!とか、ネガティブな動機のほうがより頑張れると思います」と吉田さんはいう。

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「やらなきゃ、って感じじゃなくて、やりたいからやってる、って感じです」というのは小林さん。やりたいことをやっているから楽しいし、学ぶ意欲の高い人がたくさんいて、みんなで悩みながら勉強するのも楽しい。楽しいから続けられるのだそうだ。

学びたいという強い気持ち、学ぶことを楽しむ気持ち。学びをはじめるのは簡単だが、続けるのは難しい。続けるために必要なのが、この2つの気持ちなのではないかと思う。

子育てしながら、社会人大学院での学びなおしはできるのか?

子育てをしながらリスキリングすることのリアル、いかがだっただろうか。

たった二人の事例ではあるが、二人とも「学びたい!」という気持ちが高じて、大学院に進学したことがわかった。

わたしたちは一人一人、仕事も違えば置かれている状況も違う。みんなが同じようにできるわけでもない。ただひとつ確かなのは、子育てしながら、フルタイムで働きながらでも、社会人大学院に進学し、自分の学びたいことを学んでいる人たちがいるということだ。そしてその学びをしっかり自分の武器にしている。

社会人が大学院で学ぶということは、私たちの世界を広げ、その世界をより自由に動けるようになるためのメインルートの一つだ。学びたいことがあるなら、チャレンジする価値はある。子育て中でも、それを可能にした先輩もいる。大学院でのリスキリングを検討してみてはいかがだろうか。


この記事を書いた人

堀中 里香
堀中 里香取材・ライティング
知りたがりのやりたがり。エンジニア→UIデザイナー→整理収納×防災備蓄とライターのダブルワーカー、ダンサー&カーラー。強み:なんでも楽しめるところ、我が道を行くところ。弱み:こう見えて人見知り、そしてちょっと理屈っぽい。座右の銘は『ひとつずつ』。

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