Interview
インタビュー

ベンチャー投資家/鈴木絵里子インタビュー投資家・鈴木絵里子の「40 代女性キャリアの未来図」ー個の時代を生き抜く働き方戦略

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投資家という半歩先を読むプロフェッショナルである鈴木絵里子さん。実は生き方・働き方のトライアンドエラーを繰り返してきた実践者。先の読めない時代を生き抜く 40 代女性の、これからの生き方・働き方について考えます。

プロフィール

ベンチャー投資家鈴木絵里子

Kind Capital代表取締役。2児の母。
社会課題解決型エンジェル投資・ベンチャー投資家。マギル大学経済学部卒業。モルガン・スタンレーおよびUBS証券を経て、米国のドローンベンチャーの日本法人を立ち上げ日本代表に。2016年よりVC活動に従事。ミスルトウ株式会社にて投資部ディレクターを務めた後、グローバルVCフレスコ・キャピタルのゼネラル・パートナーに就任。現在、VC活動に加えて、ホリスティック・ウェルネス・コミュニティーMIKOも運営。
著書『これからは、生き方が働き方になっていく』(2018年4月、大和書房)。

2018 年に著書『これからは、生き方が働き方になっていく』を執筆し、コロナ禍以前から女性の働き方が大きく変わることを提言していたベンチャー投資家の鈴木絵里子さん。

外資系投資銀行勤務からキャリアをスタートさせるも激務、結婚や子育てとの両立など多忙な日々の中で、本当にしたいことから遠ざかり、ジェンダー・ギャップにも直面してモヤモヤ。そんな中、巡り合った仕事の中で、自分が本当にしたいことへとつながる糸口を見逃さず、一歩踏み出したことで、自身の現実を大きく動かしました。

投資家という半歩先を読むプロフェッショナルであり、生き方・働き方のトライアンドエラーを繰り返してきた実践者でもある鈴木さんと一緒に、先の読めない時代を生き抜く 40 代女性のこれからの生き方・働き方について考えます。

※主催オンラインイベント「元外資系ベンチャー投資家と考える【40 代女性 キャリアの未来図】『個の時代』を生き抜く働き方戦略」(2022 年 5 月 17 日開催)の内容をもとに、編集・再構成しています。

※文/小森利絵

ロールモデルよりレプリゼンテーション。生き方・働き方の選択肢を増やす

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コロナ禍以前の 2018 年に執筆された著書『これからは、生き方が働き方になっていく』。当時このタイトルで執筆したのはなぜですか?

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当時、私はミスルトウ株式会社の投資部でディレクターを務め、テクノロジー業界のベンチャー投資に関わっていました。最先端分野に触れる中、業務内容の変化やツールの多様化、フリーランサーの増加なども目の当たりにし、テクノロジーの進歩によって働き方はどんどん変わっていくと肌で感じていたんです。

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どのように働き方は変化していくのですか?

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その 10 年ほど前にはすでに、アメリカの有名な投資家マーク・アンドリーセン氏も「ソフトウェアが世界を飲み込む」、つまりテクノロジーによって世界の仕組みが変わると予測していました。コロナ禍以後の現在なら、大企業でも DX(デジタル技術を駆使した変革)推進が急務など、自分事として実感されている方も増えているのではないでしょうか。

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自分事になってきたのはいいことですか?

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現状にモヤモヤし「こんなふうに働きたい」という希望を持つ女性が、こうした世の中が大きく変化していく力を追い風にして、ワクワクする生き方・働き方をワンステップリードしていけたらいいなあと思ったから。その1 つの実践例として、私がトライアンドエラーしていることを共有したいと思ったんです。

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ランサーズ実施の「フリーランス実態調査 2021」結果によると、国内のフリーランサー人口は 1670 万人、労働人口の 24%を占めるくらいに増加したと言います。 しかし、日本政策金融公庫総合研究所実施の「2021 年新規開業実態調査」結果によると、開業者に占める女性の割合は 20.7%。ゆるやかに増加してきているとはいえ、低い割合です。女性にとって、起業はハードル高めのイメージが根強い印象ですね。

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国や地方自治体でも、女性の起業を応援されているものの、まだまだ少ないのが現状です。この現状を打破するには、ロールモデルより、レプリゼンテーションが必要だと考えます。

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レプリゼンテーションってなんですか?

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レプリゼンテーションとは、私の解釈では「社会にある生き方・働き方の多様性を見せること」。こんな道もあんな道もあることを知ると、自分の選択肢を増やすことができます。特に、自分と似ている状況等の人の生き方・働き方のバリエーションが見えるといいですね。

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選択肢、多様化……ですね?

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もちろん、ロールモデルも大事ですが、お手本となってしまうため、「こうしなければならない」「比べて、自分はどうか」とプレッシャーになって、身動きがとれなくなってしまうかもしれません。
さまざまなバリエーションの女性起業家の姿が見える機会が日常的に増えれば、起業を選択肢の一つに挙げる女性が増えるのではないでしょうか。

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私自身、『I am』を立ち上げるために意識的に調べたことによって、国や地方自治体で女性起業家を増やす支援を行っていることを知りました。意識しなければ、そういった情報が入ってきにくい現状があると思います。そうした情報を入手したり女性起業家と出会ったりする機会がない人は、どんなアクションを起こすとよさそうでしょうか?

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インターネットで検索して、国や地方自治体主催のプログラムなどに参加してみてはいかがでしょうか。最初の1 歩さえ踏み出せれば、ネットワークができて、広げていけると思います。

「“好き”を仕事にする」以外の選択肢を持つなど、柔軟に、自由に

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これまでのキャリアや経験を活かして独立を考える人も多いと思います。会社員として取り組んでいることを土台に、何かを始めたい人にアドバイスをいただけますか。

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欧米では今、クリエイターエコノミー(クリエイターが自身の表現で収入を得ることにより形成された経済圏)が広がっています。それに伴い、フリーランサーといえば、日本では「個人で業務を受けてこなす」イメージが強いと思いますが、欧米では「新しいものをつくり続けていくクリエイター」という位置づけ。日本も、その転換期に突入しつつあります。

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具体的にどんなアクションを起こせばいいですか?

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状況が許すのであれば、会社員のうちに自分のできることの棚卸しを行い、小さくていいですからビジネスとして試行してフィードバックを受けて、価値や可能性を探っていかれてはいかがでしょうか。

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自分の棚卸しは大事ですか?

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独立後はフリーランサー同士の激しい競争の中に入っていきます。会社員であろうと、フリーランサーであろうと、自らが楽しんで学び続ける姿勢を持つことが大事になってくるのかなと思います。

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一方で、会社員として目の前の仕事を必死にしているうち、自分の好きなことを見失ってしまうこともある気がします。その場合はどうすればいいでしょうか?

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自分の好きを見つけて、それを仕事にできたらベストかもしれませんが、反対に好きなことを仕事にしなければならない、それでお金を稼がなければならないことが強いプレッシャーになるのではないでしょうか。そのほか、SDGs といった世界的な取り組みも意識しなければならないなど、プレッシャーとなるものがたくさんあります。

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好きを仕事にするにもプレッシャーがありますね

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“好き”を仕事にするのも一つですが、趣味として楽しむ、会社員+αで取り組むなど、柔軟な考えを持つことも大事かなと思います。

というのも、欧米ではコロナ禍の影響もありますが、「グレート・レジグネーション=大退職時代」と言われるほど、離職者が増えています。これまでがむしゃらに働いてきた人や自分の好きなことに取り組んできた人が、燃え尽きてしまっているんです。

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「もっとしなければならない」「こんなことも意識しなければならない」など呪縛的に縛られてしまうからでしょうか?

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「売り上げをつくらなくてはいけない」「コロナ禍で交流がなくなって孤独」「5 年・10 年先もわからない」「環境破壊が深刻化している」など、いろんな要素があると思います。フリーランサーに限らず、企業で勤めていても起こりうることですね。

自分のウェルビーイングを見直すことも、これから必要なスキル

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燃え尽き症候群になりそうな恐れがある時、どんな行動をとるといいですか?

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まずは、休むこと。休むことによって思考を整理し、物事を客観的に見て、現状を見直せるからです。今後は、自分のウェルビーイング(身体も心も社会的にも幸せである状態)のメンテナンスも必要なスキルになっていくと思います。

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意識的に休む・自分に目を向ける、今いる環境を離れてみる・俯瞰してみるということですよね。

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「そんな時間を持つ余裕がないよ」という人もいるでしょう。長期的な視点から見て、自分への投資と考えてみてください。自分自身が動けなくなってしまったら、元も子もありませんから。

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休むと収入が減るなど、経済面の心配が出てきます。そのあたりのバランスはどう考えるといいですか?

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自分はどうなったら幸せかを考えること。

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幸せ、ですか?

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お金持ちになることが幸せならその方法を考えればいいですし、ほかに優先したいことがあれば、必要最低限の収入を得るために何時間働き、そのほかの時間に好きなことをするというふうにします。

もっと言えば、将来どんな生活をしたいのか、そのためにどのくらいの貯蓄や投資が必要か、収入と支出のバランスはどう取っていくのかなど、考えることです。

“これから”を見据えた、取捨選択や自分への投資を

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結婚や妊娠、育児、介護など、さまざまなライフステージがあります。自分のことを優先しづらい時期には、何をしておくといいでしょうか?

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自分が大事にしたいことは何かを考えること。その上で、何が必要で、必要ではないのかを、長期的な視点から判断して取捨選択していく必要があります。

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取捨選択のポイントはありますか?

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自分が選択したことに対して、「あの人はあんなことができていいよね」とやじられることもあるでしょう。そんな時、心の支えとなるのは価値観や思いを共有できる仲間ですし、いろんな価値観の人がいますから、「私はこの価値観を大事にする」と一線を引くことも必要かなと思います。

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極論、「やりたくないからやらない」もありでしょうか?

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いいと思います。やめた結果を観察してみてください。問題ないこともあれば、支障が出ることもあるでしょう。
少しずつ試して追跡・分析して、軌道修正していくといいのではないでしょうか。

コンフィデンス、コネクション、コミュニティという 3 つの力を発揮して

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著書にあったこれからの時代に必要な 3 つの要素とは?

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コンフィデンス、コネクション、コミュニティです。

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1つ目のコンフィデンスとは?

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1 つ目のコンフィデンスは「自分の声を聞き、それを信じて行動する力」。自信が持てないゆえに「できない」と思ってしまうことがあるのではないでしょうか。自分を信じて行動し続けることはもちろん、自分の努力を認めてくれる人がいる環境に身を置くなど、自分に自信を持てるように努力することも必要かなと思います。

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2つ目のコネクションとは?

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2 つ目のコネクションは「信頼と共感を通じて人とつながる力」。ウェルビーイングに関する研究を見ても、人間は社会性のある動物なので、重要な部分であると思います。

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最後のコミュニティーとは?

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3 つ目のコミュニティは「連帯感や支え合いから、自分を増幅していく力」。「自分だけが」という考え方は合わない時代になってきていますので、コミュニティを意識して行動するといいのかなと思います。

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これからの生き方・働き方で大事なことはなんですか?

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40 代というと、これまでしっかりと生きて働いてこられた方々だと思います。よりよい世界に向け、これまで積み上げてきた経験や知識などを活かしていける力を持っていますから、自信を持ってほしいです。自分の可能性を模索し、人生をよりよいものにしていっていただけたら。それを着実に実現できる方々だと信じています。

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40代のほうが知見が溜まっているということですね?

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むしろ、若い世代のほうが漠然とした不安感や危機感が強いのではないでしょうか。一方で、固定観念に囚われず、地方に移住したり物を買わない生活をしたり、さまざまな生き方・働き方を選択している人もいます。

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選択肢が増えると、一方で悩みも増えるとうことでしょうか?

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世代間を超えてつながって、ジェネレーションギャップを埋めるのではなく、楽しんでみてはいかがでしょうか。
そうすれば、同世代だけでは考えつきもしなかった気づきやアイデア、選択肢などが飛び出し、それぞれがワクワクする生き方・働き方を模索していけるのかなと思います。

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ありがとうございました!

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どういたしまして!

この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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