バタートースト評論家&声の専門家・梶田香織/インタビュー第 2 話「人脈がすべて!」の名古屋特有のビジネス圏で、苦手な名刺交換をせずに人脈を作るには?
バイトを掛け持ちしながらナレーターとして活躍されていた梶田香織さん。飛び込んだ起業家コミュニティでのふとした一言をきっかけに自分自身も起業家への道を歩みだした。
プロフィール
バタートースト評論家・声の専門家梶田香織
栄養士の資格取得後、敷島製パン株式会社(Pasco)本社開発部で試作研究開発を担当。社内製パン学校に女性第一号の聴講生として入学し粉から一人でパンを作る技術も習得。その食べ歩き経験、栄養学知識、パン開発経験から、バタートーストを専門的にも語ることのできる、非常にまれなトースト評論家。飲食店のトーストメニュー監修の他、TBSテレビ「マツコの知らない世界」等メディア出演多数。一般社団法人日本トースト協会代表。
名古屋独特の「人脈がすべて」というビジネスカルチャー。名刺交換が苦手だから飛び込んだ起業家コミュニティ。バイト掛け持ちのナレーター業から自分も起業家に。
「仕事を待つ」に疑問を感じたとき、人生が変わり始めた?
*全2話、前編はこちらからどうぞ
目次
“興味を持ったらすぐに動く”で道を開く
バイトとの掛け持ちのナレーター業はどうでしたか?
ナレーターになってからも、単純に情報や知識を得るのが好きなので、経営や人材育成など、様々なジャンルのセミナーや異業種交流会に参加していました。
ゆくゆくは起業しようとか、そういった野心もなく?
無かったですね。とにかく興味があったらすぐ行動に移すタイプなので。でもセミナーで行なわれる名刺交換がとても苦手だったんです。
セミナーって名刺交換が目的ともいえませんか?
私は一匹狼タイプで「人脈作り」とかが本当に苦手だったんです。どうしたらこの状況を改善できるかと考えていたときに、名古屋で起業家が起業家のために行う「企業展」をやるからスタッフを募集すると聞いたんです。
2007 年のことでした。
そこに参加すれば来場客も出展者さんもいて、その一ヶ所だけで一気にたくさんの人ときっと顔見知りになるから、後々楽になると思って。
名刺交換が嫌なばかりに、名古屋の起業家たちが集まるイベントのスタッフになったんですか?
はい。結果的にはそこで得た色々なことが、話し方で起業することにつながり、バタートーストの協会立ち上げにもつながりました。
人脈作りが苦手な人の人脈の作り方とは?
名刺交換の苦痛を和らげるために企業展のスタッフになったということですが、それはどんなイベントだったんですか?
名古屋って独特で、人脈がないと仕事ができないと言われていて、逆に、人脈さえ構築することができれば、すんなり仕事が進められるんです。ただ、起業してすぐに人脈などありませんよね。
だから起業家同士が知り合いになればいいという観点で、名古屋圏の起業家たちが有志で実行委員会を作り企画・運営し、出展する側も起業7年以内の人たちというイベントでした。私は 2 回目で副実行委員長に指名されてしまったのでとにかくハードワークでした。寝る時間もないくらい(笑)。でもおかげで知り合いが増えました、想像以上に。
イベントスタッフとしての報酬はあったんですか?
このイベントスタッフは元々”ボランティア”なんです。
なのでむしろお茶代やちょっとご飯食べて帰ったりで、むしろマイナスでしたね(笑)
稼げないのにそんなにハード。メリットはあったんですか?
「作業をやらされているだけ」と思った人はすぐにやめていきました。でも、そこでは“自分から関わりに行く”ことがとても大切で、本当に奥の奥まで関わって初めて、「ところで普段、何をやってるの?」という仕事の話や相談ができるようになるんです。
インスタントな人間関係は築けない……ということですね?
一匹狼的なスタンスをとっていた私にとって、コアな部分までいったからこそ味わえる人との繋がりを得られたことは、とても大きかったと思います。ここでの起業家たちとの出会いが、自分自身の起業に繋がったんです。
起業家との交流が、思ってもみないビジネスに繋がった
企業展のスタッフはどのくらい続けたのですか?
第1回が 2007 年で、その後も6回ほど携わりました。
ある時、一緒にスタッフとして動いていた方に「あなたも起業家ですよね」と言われたんです。その時初めてナレーターの所属事務所から「仕事を待つ」という状況に疑問を持つようになったんです。
こんなにアクティブなのに、自分からナレーターの仕事の営業をかけたことはなかったんですか?
ええ。芸能界的なところで名前を売って仕事をしていこうとは全く考えていませんでした。
やはり起業家たちとの出会いで意識が変わった?
そうですね。例えば「企業 PR 動画に私の声を使っていただくとテレビ番組や CM と同じような感じなるはず」と思い、それをどうしたら多くの人に知ってもらえるかな、と考えるようになりました。そこで、私の声やスキルをいろんなところで役立て、喜んでもらうために、2013 年に『プレゼンジャパン』を立ち上げました。
セミナーや交流会で知り合った経営者の方たちとの交流は続いているんですか?
お仕事を依頼してくださったり、困ったときに「これどうしよう」って言うと、それに対してアドバイスをいただいたり……。
例えばどんなことなんでしょう?
“安売りをしてはいけない”ということ。名古屋は知り合いで都合し合うという文化がありますが、「そこはちゃんと正規の値段を提示しないといけない」とか、「時間かけて苦労して努力して身につけたスキルでしょ?だからちゃんと相応の金額もらいなさい」と。
値段を高く設定するのは勇気が必要ですね
そうなんです。でも、それがブランディングにもつながってくるので、気をつけるように、と何人もの方にアドバイスいただきました。
「喋れる人の方が稼げる」という確信
声で起業したのは、うまく行く自信はあったんですか?
私の経験上、専門分野やスキルを持っている人は、エンターテイメント性のある伝え方ができれば、メディア側に選ばれる確率が高くなります。
すると知名度が上がるので、スキルは高いけれどあまり喋れない人よりも、スキルは2番手だけど、喋れる人の方が稼げるという現象が起こるんです。
なるほど、たしかにそうですね。
私が伝えたい技術は、そういったエンターテイメント性のあるプレゼン力や喋り方なので、私がテレビに出て話すことで、どういう喋り方をするといきいきとしたプレゼンになるのかを実際に見ていただけるので、説得力をもって伝えることができるんです。
例えば私の場合「トーストを持つといきいきする」と言われますが、そういう表情と楽しそうな声で伝えると、やはり印象強く伝わると思います。
たしかに楽しそうに喋る人の情報は、ちょっと聞いてみようかなと思いますよね。ちなみにプレゼンが下手な人って何が原因なんでしょう。
声ですね。私は声が専門ですが、声の出し方次第で、相手の受ける印象が変わりますから。
例えば?
自信を持っていきたいときは低めの方がいいですが、いい印象を与えたいときは高めの方が、明るさも出て耳にスーッと入りやすいです。
でも、声を意識して変えることってできるんですか?
怒るときは大きく声を張り上げるのできつくなるし、猫なで声だと優しくなる。実は皆さん、無意識に使い分けているんです。
あ、本当だ。
声って3D なので、高低や音域、大小、圧力などの組み合わせによって、どれだけでも変えることができるんです。それを戦略的に使い分けるということを、指導しているんです。
なるほど。プレゼンというと、内容や文章の組み立てばかりに気を取られて、どう伝えるかは二の次になっていることが多いですね。
私は見た目や内容より声の方が大事だと思っています。
例えば講演会に行っても、話している方の顔をずっと見ているわけではありませんよね。ほぼ声しか聞いていない。
たしかに。
抑揚がなくて端切れの悪い喋り方だと、眠くなったり声が大きくても聴き取れなかったりするため、内容が頭に入ってきません。それでは聞きに行く意味がありませんよね。
トーストにしても声にしても、あまりに身近すぎてじっくり考えたことがありませんでした。
そうですね。トーストは「ただ焼くだけ」と思われていますが、その焼き方次第で驚くほどおいしいトーストになりますし、声も出し方、喋り方で相手だけでなく、自分の気分までガラッと変えることができます。普段ノータッチな部分だからこそ、工夫の余地があるとも言えますよね。
取材/I am 編集部
文/岡田マキ
写真/田尻陽子
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この記事を書いた人
- ノリで音大を受験、進学して以来、「迷ったら面白い方へ」をモットーに、専門性を持たない行き当たりばったりのライターとして活動。強み:人の行動や言動の分析と対応。とくに世間から奇人と呼ばれる人が好物。弱み:気が乗らないと動けない、動かない。