絶対に失敗するカフェの作り方お客様へのアンケートは創業時1回だけ。小さなカフェに見る大成功する個人店の顧客の心の掴み方
マスター1人で経営する小さなカフェを立ち上げて、長く続けていく方法をお伝えしていくこの連載ですが、驚くほど具体的に、かつ「絶対に失敗する方法」をお伝えしながら、逆張りをすることで成功へと導くメソッドを公開しています。今回は、個人店、マスター1人の小さなカフェをオープンする際に、絶対にやってはいけない「お客様へのアンケート」について。赤澤智が語ります。
目次
創業時に1度だけ取る大切なアンケート
前回「アンケートを取ってはいけない」「アドバイスに耳を傾けてはいけない」と言いながら、私のお店(珈琲文明)では創業時に一度だけ(約1か月間)アンケートをとったことがあるとも言いました。
矛盾していると思いますよね。
今回お伝えしたいのはそのアンケートの内容です。
売上のため、店をどう変えていくか、アドバイスをもらうという趣旨の質問はなく、
「コーヒーに砂糖やミルクは入れますか?」
「一日に何杯コーヒーを飲みますか?」
「タバコは吸いますか?」
といった素朴な疑問調査のようなものでした。
アンケートは店の改善目的で行わない
もちろん、回答そのものに興味はありました(貴重な統計もとれますし)が、これを実施した本当の意味……それはこのアンケート用紙に住所と名前を書く欄を設けること。
「なんだ、DMを送って店に来てもらおうとしてるんじゃん」と思った方、残念ながら不正解です。記名して提出してくれた方に、無料で「世界一わかりやすい珈琲の本」という私が作成した小冊子をプレゼントしたかったんです。
この小冊子が、どんな内容かわかるように目次と前書きの写真を載せておきますね!
ポイントは「自分のお店の宣伝は一切せず、ひたすらコーヒーにまつわる話を軽いタッチで書いてある冊子」という部分です。
そう、宣伝臭の全くしない、純粋に「タメになる」「へぇ~そうなんだぁ~」と思えるようなことを書いたものを無料で差し上げたのです。
おかげで、さすがにほぼ全ての回答者が住所も名前も記入してくださいました。
そしてその後に、回答者の方々へ毎月「文明通信」というお店のニュースレター(フリーペーパー)を封書に入れて送付することにしました。
はい、このニュースレターは今も欠かさず私が毎月発行しているニュースレターです。
そうです、つまりアンケートで私が求めていたのはお客さんの「住所&氏名」であり、「ニュースレター」を毎月送ることこそが真の狙いでした。
小さなカフェの正しい広告宣伝費の使い方
現在であればLINE登録やInstagramフォローの方が一般的なのかもしれませんが、「敢えて封書で郵送」という手法は、創業時の16年前の時点でも既に相当アナログ感があり、でもそれが逆にインパクトあったと思います。
そして、現在のようなスマホやSNS隆盛時代においてはこうしたアナログ手法はさらに効果的かもしれません。
さて、ここで述べた「小冊子無料プレゼントからの毎月ニュースレター郵送」にはもちろん全て相応のコストがかかっています。
小冊子に関しては当時で印刷代には20万円くらいかかりました(ちなみに現在は下手すりゃこの10分の1くらいのコストで製本出来る時代になっています)。
もちろんニュースレターを郵送するための切手代も毎月かかりました。
ちなみにこれらを「販売促進費、広告宣伝費」とするならば、創業以来これ以外に私が自分のお店に使った「販促費、宣伝費」は今日の今日に至るまでただの1円も使っていません。
つまり販促費宣伝費として考えていた予算は、この「小冊子製本代&ニュースレター発送代」に全集中投下したのです。
お客様との会話やつながりを生み出す冊子を配る
平常営業中ではお客様の名前を伺ったりすることも難しいものですし、その人がどこから来ているのかもわかりません。
そんな中で、取ったアンケートです。住所氏名を記入してくれたことによりお名前もわかりますし、例えば住所で知った地名が出て来ると「○○町にあるお寺の銀杏並木、メチャクチャ綺麗ですよね!」などといった会話も出来るというものです。
他にも先の無料提供した小冊子に宣伝臭はさせないが最後の著者紹介のところに「北海道(札幌、苫小牧)、兵庫(西宮)、山梨(富士吉田)、都内では阿佐ヶ谷、成増、吉祥寺、八王子に住んだことあり」などと書いておくことにより、お客さんから「え? マスター、私も西宮にいたんです!」といったレスポンスがあったりします。
それはそれはその先に成される会話の内容も濃密なものになり、同時にそのお客さんとの距離はグッと近くなるものです。
創業当初のまだそんなに多くのお客さんが来ない時期に数少ないお客さんとしっかりと向き合い、きめ細かく対応していくことは逆に言えば繁盛店になってからはなかなか難しくなっていくものです。
小さなカフェとお客様との絆は1日にしてならず
アンケートを絶対に取ってはいけない、と伝えた私が、創業時にアンケートを取った理由がこれでお分かりいただけたかと思います。
はい。生まれも育ちも関係ない横浜という地で、友人知人もおらず、なおかつサイレントプレオープンという手法で開店した珈琲文明はまさしく最初は「無」「ゼロ」です。
「無から有」にすることは本当に難しく、湿った木々をライターも燃料も使わず燃やすことがどれだけ難しいか、考えればお分かりでしょう。
だからこそ、どうにかして灯った種火は大切に維持していくことが重要です。
そこには全精力を注ぎこむくらいの熱量が必要だと私は考えに考えて、それを実行したのです。
小さなワンオペのカフェ開業は、いきなりドカンと繁盛させようとすると失敗します。
店舗運営も最初の「種火」をしっかりと起こし、大切に灯し続けることでやがては大きな燃料が勝手に注がれ、激しく発火してくれる可能性を秘めています。
皆さんがこれから開くお店も一刻も早く繁盛させようと値引きやクーポンを配ったり広告宣伝をして焦るのではなく、まずは「種火」を起こし、その種火を絶やさず大切に燃やしていってほしいと思います。
珈琲文明店主・赤澤智でした。