忙しいのにスマホを見続けてしまうのは脳のせい。脳内科医が教える、悪い執着を良い執着に変える方法。
苦しい人生の一因となる“執着”を離れ、好ましい執着を習慣づける方法について、加藤プラチナクリニックの加藤俊徳院長に教わります。
プロフィール
脳内科医加藤俊徳
脳科学の視点では、誰もが何かに“執着”しながら生きています。例えば、過去の辛い思い出を引きずるとか、忙しいのにいつもスマホを眺めているといったことも執着です。
そして執着は、人生を苦しいものとする元凶になりえます。では、執着を手放すにはどうしたらいいのでしょうか? 『悩みのループから解放される!「執着しない脳」のつくり方』(大和書房)の著者である加藤俊徳院長(加藤プラチナクリニック)が、具体的に教えてくれます。
目次
執着にも「良い」「悪い」がある
人はみな、何かに“執着”しながら生きています。
過去のイヤな記憶が忘れられないとか、スマホが手放せないといったことも執着にあたります。人の脳の仕組み上、執着があるのは当然のことで、まったくゼロにはできません。
しかし、コントロールすることは可能です。ひと口に執着といっても、「良い執着」と「悪い執着」があり、良い執着を増やすことが肝心です。
例えば、海外で働くという夢を実現するために英語の勉強に没頭するのは、良い執着です。他方、悪い執着のよくある例は、他人の基準に依存することです。「お金を持っている人はすごい」といった価値基準に影響され、それを追い求めて執着するケースは本当に多いです。
ただこの場合、他人の価値観に引きずられていると気づくことが、良い執着を選択し直す第一歩になります。また、自分で執着を選択すると、脳の自立性は高まっていきます。
そして、脳や身体に大きな負担をかける執着も、悪い執着の代表です。「睡眠を削って努力することが偉い」「ついつい夜中にカップラーメンを食べてしまう」といったものです。充分な睡眠時間を取り、体に良くないものを摂取しないという覚悟を持つことが大事です。科学的な根拠をもとに、悪い執着を持っていないか判断するようにしましょう。
他人視点で考えることで執着から離れる
著書の中で私は、良い執着を持つ方法をいくつか書いています。ここではその一部を、かいつまんで紹介しましょう。
1つめは、「他人の視点で考える」です。例えば、友人を食事に誘うとき、「〇〇さんはフレンチが好きかな? それともイタリアンだったら喜ぶかな?」などと想像します。このとき、他人の視点になっています。それによって、「自分はイタリアン一択」といった自身の執着から離れることができています。
また、普段付き合っているグループを変えてみるのも一つの方法です。私は、大学は医学部に通っていました。当然、周囲は医療を学ぶ人たちです。そこにいてばかりでは、自分の価値観が偏るような気がしたため、学外の文系の学生とも付き合うようにしました。医療系と文系とでは、やはり考え方が異なります。進路も、歌手を志す人もいれば、ジャーナリストも目指す人もいて、さまざまでした。グループによって価値観が違うと知った経験は、今でも自分の執着を客観視するに役立っています。
未来の目標を持つことで、悪い執着から離れる
「記憶を未来のために活用する」「脳に目的を与える」というのも良い執着を持つ方法です。
執着は、過去の断片的な記憶に注意を向け、繰り返しを思い出す状態とも言い換えられます。そんなときは、未来についてはほとんど考えません。過去を思い出すだけの人は、思い出せば思い出すほどネガティブになります。そして執着は強化されていきます。
一方、過去の記憶を未来のために使おうとする人はポジティブです。
「次に同じような人と仕事をするときには、こういう接し方をすればいい」
「勉強になったという意味では、あの人と出会ったことにも意味があったな」
というふうに。これが、記憶を未来のために活用することの意義です。
そして、これから起きる未来の出来事に執着することもできます。つまり、夢や目標を持つという好ましい執着です。
将来、何かを達成したいという目的があれば、日々接する無数の情報の中から、必要なものを選び出す仕組みが、脳の中で働きます。例えば休日にレストランで食事をすると決めたら、ほかの無用の予定は入れないなど、自覚せずに様々な可能性を捨てていきます。足を引っ張るような悪い執着も、自然と捨てやすくなります。
大谷翔平選手の例を挙げて、具体的に説明してみましょう。 2021年シーズンにアメリカンリーグのMVPを獲得しましたが、彼はこの成績にはもう執着していないはずです。この成績を超えるべき対象であると捉え、未来に執着していることでしょう。
一方、引退した選手は、もはや選手としての未来をつくることはできません。未来への執着心がなくなったことで、悩み苦しむこともあるでしょう。これは、定年退職した会社員についても言えることです。
過去への執着を断ち切り、未来への執着をつくるには、やりたいことを持つ必要があるわけです。
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この記事を書いた人
- 都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。