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「ダブル介護で家庭崩壊も、会社を辞められなかった」ストレス、家庭不和、子供の突然死ー介護離職までの葛藤

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ゆうとさん

厚生労働省によると介護離職をする人が毎年10万人いるといいます。とくに管理職になった人については、介護の使命感とキャリアの狭間で結論を出すのは簡単ではありません。元ホテルマンで、管理職を経験しながら介護離職をしたゆうとさんに介護離職に至るまでの葛藤について聞きました。

介護離職は他人事ではなく誰もが経験する可能性があります。とくにダブル介護をしている人にとって、負担は通常の介護の2倍です。転職を重ねながらホテルという職場に落ち着き、管理職として出世も果たしたゆうとさん。順調にホテルマンとして働いていましたが、30代で突然ダブル介護をしなければならなくなったといいます。仕事と介護の狭間で悩みながら、ゆうとさんが下した決断は勤め先を辞めることでした。ゆうとさんに介護離職に至るまでの葛藤について聞きました。

自分の親と妻の親をダブルで介護

20代は転職を重ねたゆうとさん。しかし27歳になった時点で「そんなに転職はできない」と感じていたそうです。そこで転職先のホテルで覚悟をもって仕事に集中したといいます。

「ホテルに転職し、ようやく腰を据えて正社員として安定して働けると感じました。妻と二人の子どもを抱え、仕事に邁進する日々でしたね。最初はホテルの宴会場や結婚式の主任を経験後、順調に昇進しレストランの店長になりました」

家族を養わなければいけない責任感、これ以上転職できないという覚悟。そんなゆうとさんを襲ったダブル介護の実態とは、どのようなものだったのでしょうか?

介護は自分の親の面倒をみるだけでも大変なもの。ところが、ゆうとさんは自分の父親の介護だけではなく、妻の父親の介護もしなければならない状況になったのです。元々、ゆうとさんは自分の父親と同居していました。父親も介護が必要な状態でしたが、施設行きを拒んでいたそうです。そんな中、妻に先立たれ、1人暮らしをしていた義父に異変が起こりました。

「義父は最初、老人ホームで生活していました。精神疾患が悪化するとともに介護度が上昇し、寝たきりになったため、老人ホームを追い出されそうになったんですね。そのため、妻は父親との同居を望んだのです。それを僕も受け入れ、ダブル介護の日々が始まりました」

ダブル介護をすることになったといっても、昇進したゆうとさんに2人の父親の介護をする余裕はなかったそうです。

「実質的には、介護士である妻がほとんどダブル介護をしていました。僕の父親の介護度が上がってしまったため、ダブル介護ができなくなったんですね。結局、義父は再び僕の家の近くの施設に入居することになり、僕達夫婦は父親の介護に集中しました」

家庭崩壊で介護離職をすることに

管理職として、より仕事を頑張らなければいけなくなり、ゆうとさんは朝から日付が変わるまで仕事をしていたと振り返ります。

「結局、子育ても介護も妻に100%丸投げしていたんですね。妻は愛媛から福岡へ嫁いできた人です。全く知らない土地で結婚生活を送り、福岡の風習に慣れず、父親と妻がうまくいっていなかったという問題もありました。介護と子育てすべてを負担してた妻は相当ストレスが溜まっていたと思います。毎日、妻と喧嘩が絶えなかったんですね」

そんな中、ゆうとさんを襲ったのは思いもよらない悲劇でした。

ストレスで体調を崩し、入院しても会社を辞めなかったゆうとさん。そんなゆうとさんが辞める決意をしたのは夫婦を襲った大きな悲しみの後に、介護に向き合うことになったのがきっかけでした。

「子どもが突然亡くなり、僕も妻も心に大きな傷を負いました。それでも仕事と介護に追われる日々が続くなかで、徐々に『家族のことを優先しないともう駄目だろう』と思うようになりました。仕事に対する限界を感じ、『もう辞めちゃったほうがいいな……』と、勤めていたホテルを退職したんです。自分の心身の状態がきつかったことも相まって、『仕事を投げ出した』と言われても仕方がないような状態で会社を辞めました。もう介護と仕事を両立するのが限界だったんですね」

介護離職で得たもの、失ったもの

2012年に介護離職したゆうとさんは定時で帰れる製造業に転職をし、父親の介護に集中するようになったそうです。

「介護離職をしてから、僕も介護に携わるようになりました。2019年に僕の父親が亡くなってしまったので、再び義父と同居することに決めました。義父の精神疾患が悪化したため、自宅での介護が難しくなり、義父は病院と施設を行き来する生活になったんですよ。現在は義父が入院しているため自宅で介護はしていない状態です。介護と育児を手伝えるようになったため、妻とも円満になりました」

ゆうとさんは、介護離職によってホテルでの管理職という地位を失いました。しかし、介護離職によって、ゆうとさんは職場を辞めるきっかけができたのです。

もちろん離職は仕事だけでなく収入を失うことです。しかし、会社員というポジションを失っても、仕事はなくなるわけではないのです。実際にゆうとさんも退職後に介護と両立できる職場を選び、副業でWebライターも始めています。

W介護からはじまった夫婦関係の悪化。その根底には「それでも会社を辞められない」という思い込みがあったのかもしれません。ゆうとさん自身「あの頃は『働くというのは会社に勤めるもの』と思っていました」と吐露します。

最終的に介護離職を決意、自分の尺度で働き方を捉え直したことで、人生を取り戻したゆうとさん。ネガティブな側面で語られる介護離職が人生のやり直しに繋がった稀なケースといえるでしょう。ライフステージにおいて親の介護は外せません。その時に、どう向き合きあうかを考えておく必要があるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

今崎ひとみ
今崎ひとみIT人文好きライター
うさぎと北欧を愛するライター。元Webデザイナー。インタビュー取材やコラムを執筆。強み:好奇心旺盛なところ。失敗してもへこたれないところ。弱み:事務作業が苦手。確定申告の時期はブルーに。

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