Be Career
働き方

地方公務員が副業をする最善の方法は「正式に認められる」こと。東京都の公務員がどのようにして副業を認められたか?

ログインすると、この記事をストックできます。

公務員の副業は一般企業と違ってハードルが高いと言われていますが、東京都職員が副業で役員報酬を得ることになった磯部健太さんに話を聞きました。

大企業を中心に副業が推進されている中、公務員にもその門戸が開かれつつある。新卒で民間企業に就職、営業職を経て25歳で東京都の職員となった地方公務員の磯部健太(39歳)さん。2024年春まで政策企画局 戦略広報部 報道部 課長代理として、都のすべてのプレスリリースをメディアに配信する傍ら、一般社団法人の理事として役員報酬つきの副業を始めたという。

【写真】都庁を背景にする副業公務員・磯部健太さん

自分の可能性を試してみたいという思い

地方公務員が社団法人の理事を兼務、そんなことが可能なのだろうか?

1.一般社団法人の理事に就任できたきっかけ

2.副業が認められた経緯

を中心に話を聞いた。

そもそも磯部さんは趣味でシンガソングライターの副業経験を持つ。「シンガーとして自分の作品を作って、それを広めていくにはマーケティングが必要だったんです。最初は自分の歌を届けたくてマーケティングの勉強を始めました」と磯部さん。

このマーケティングの知識が本業の戦略広報部報道課でプレスリリースを配信する業務に役立つことになる。東京都のプレスリリースは年間でざっと6〜7千件。28局から磯部さんの部署に集約される。そのプレスリリースをすべてチェックして修正するのがメインの業務となる。

何しろ1000万人を抱える東京都だけあってプレスリリースの数も半端なく多い。各局の広報担当が作成したリリースに目を通して、修正箇所を伝えて、メディアに取り上げられやすいものに整えて配信する。

忙しいながらもマーケティングの知識も活用できる仕事への手応えを感じていた。一方で「ずっとこのままこの働き方をするのかな」という気持ちが湧いてきたと言う。

一般社団法人理事への道のり

グーグル検索でみつけた社団法人にエモいメール

「僕が配属されてきた局はかなり忙しいところばかりでした。4月からの局も今までと同様に、もしかしたらもっと忙しくなります」と自信をのぞかせつつも「ずっとマーケティングの勉強をしてきた自分の可能性を試してみたい。自分にはもっとできることがあるんじゃないか」という気持ちも捨てきれない。

歌の活動やマーケティングの勉強で、職場以外の場所を持つ磯部さんは「サードプレイスという言葉に興味があったんです」という。サードプレイスとは文字通り「第三の場所」で、家でもない、学校でもない、職場でもない、居心地のいい場所を意味する。磯部さんは「サードプレイス」というキーワードでGoogle検索をしていた時に、一般社団法人公民共創サードプレイス推進機構をネットで見つける。調べてみると地方自治体と企業をマッチングさせ、地域の活性化を推進する団体だった。

そこで磯部さんは「エモいメールを送った」。長文で自分のやってきたことや思いなどを書き綴って、一度話を聞いてほしいと激アツのメールをしたのだ。

プロボノから始めたコンサルが理事就任のきっかけに

すると返事があって、会うことに。2、3回の交流を経て、磯部さんは思い切ってマーケティングの手伝いをさせてほしいと志願してみた。もちろん地方公務員だからお金をもらうわけにはいかないので、無償で。社団法人のほうも、設立して間もない頃で“渡りに船”と、意気投合。

「やっと自分のマーケティングの勉強の成果が発揮できる」と必死でプレゼンテーションの資料を作った。それが功を奏して、今後は理事として手伝ってほしいと依頼されたのだ。

これがきっかけとなって理事になるわけだが、磯部さんとしては継続する上で無償では続けられないと考えた。金額の大小にかかわらず、ちゃんと自分の仕事への対価が欲しいと思った。有償で理事になることはすんなり決まったのだが、問題は地方公務員としての立場だった。

役員報酬の副業が認められるまで

人事部に相談するも判断には「精査が必要」

まずは局の人事部門に相談したが、人事部としても困るわけである。本を執筆や講演会であれば都職員であっても、前例があるため申請が通りやすい。しかし社団法人の理事となると前例がない。

親身になって相談を聞いてくれる局の人事部門を通じて、庁内で申請に向けた手続き進めるものの、「判断には精査が必要という回答でした」。無償なら申請も通りやすいと考えたが「無償だと意味がない」と粘った。

東京都だから副業への門戸開放を訴える

そんな中、神戸の地方公務員がNPOの副理事副業という記事を見つけた。NPOの副理事であれば前例がある。「東京都でやるなら、有償じゃないと意味がない。地方公務員にとっての試金石になる」と磯部さんは突破口を見つけた。

・地方公務員の副業の道を東京都が率先して示すべき
・あえて有償を認めることで東京都の働き方の多様性を示すべき

この2点で申請を認める意義を訴えたが、それでも、申請には時間が掛かった。

報酬額を最低限に設定

国会公務員における兼業許可基準における報酬基準「社会通念上相当の認められる程度を超えない額」をいくらに設定するかで、人事部と交渉にあたった。自分自身の中での役員報酬を「最低限」と設定し、申請を書いた。員報酬としては決して大きい金額ではないが、磯部さんにとっては「本業へのモチベーションが上がりました!」と金額は気にしていない。やはりやりがいが大切なのだ。

 ちなみに国家公務員における兼業許可基準については、以下のように明記されている(2019年 3 月19日)。

○兼業時間数の基準

・週 8 時間又は 1 箇月30時間を超えない

・勤務時間が割り振られた日において 1 日 3 時間を超えない

○兼業先の基準

・国、地方公共団体、独立行政法人、国立大学法人、地方独立行政法人等は可

・ 公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人、学校法人、更生保護法人、医療法人、

特定非営利活動法人等は、活動実績の確認等が必要

・ 一般社団法人、一般財団法人、自治会・町内会、マンション管理組合、同窓会等は、

活動実績の確認等を厳格化

○報酬の基準

・社会通念上相当と認められる程度を超えない額

「地方公務員としての行動規範というのがいくつかあるのですが、職務専任義務、守秘義務、信用失墜行為の禁止などです。なので、絶対に副業のせいで本業の手を抜いていると言われないように本業を頑張りたいと思います」と表情を引き締めた。

*2024年4月からは東京都政策企画局の企画・計理に関わる総務部に異動となりました。

取材・文/長谷川恵子

この記事を書いた人

長谷川恵子
長谷川恵子編集長
猫と食べることが大好き。将来は猫カフェを作りたい(本気)。書籍編集者歴が長い。強み:思い付きで行動できる。勝手に人のプロデュースをしたり、コンサルティングをする癖がある。弱み:数字に弱い。おおざっぱなので細かい作業が苦手。

ログインすると、この記事をストックできます。

この記事をシェアする
  • LINEアイコン
  • Twitterアイコン
  • Facebookアイコン