天職を見つけたいなら「自分探し」をしてはいけない? 理念に共感できる「企業探し」のすすめ
働き方やキャリアに関する考えが柔軟になり、天職について考える人が増えています。ですが、天職はどうすれば見つかるのでしょうか? そのヒントをビジネス書評家に伺います。
プロフィール
ブックコンサルタント土井英司
会社の待遇に満足していても、「自分には今とは違う天職があるのでは?」と、ふと考えることは誰しもあるもの。でも、具体的に天職を探すとっかかりが見けられず、そのまま忙しい日々を送っていませんか。
実は、天職を見つけるには、いくつかのコツがあります。今回は、出版コンサルタントで、ビジネス書評家としても知られる土井英司さんに、そのコツを教えていただきました。
目次
天職を見つけるには、自分探しではなく良書探しを
最初に、天職を見つけたいと模索する会社員なら、ぜひ読んでほしい本について解説します。まず、創業者の本をたくさん読むことです。創業者ではありませんが経営学者の楠木建さんが書いた『「好き嫌い」と経営』(東洋経済新報社)も、気づきを得るうえでためになります。
あとは、天職に生きている人の書いた本ですね。例えば、『グッド・フライト、グッド・ナイト』(早川書房)。コンサルタントとして年収3000万円もらっていながら、若い頃の夢を捨てきれなくてパイロットになった人が著者です。その人が語る空のガイドブックです。彼は、空がこんなに素晴らしい世界だと言います。読んで本当に感動したのは、「毎日同じことをして飽きませんか」と言われて、「飽きたことは一度もない。もちろん、疲れることはあるし、高速で家から遠ざかっている最中に、これが家に向かっているならどんなにいいかと思うこともある。それでも、私にとってパイロットに勝る職業などない。地上に、空の時間と交換してもいいような時間があるとは思えない」と答えたくだりです。
自分の信念に基づいて何かをした人の本は、心をめちゃくちゃ打ちます。そして、天職に生きている人って、こんなに幸せだということがよくわかります。
もう1冊は『SHOE DOG (シュードッグ)』(東洋経済新報社)。ナイキの創業者フィル・ナイトの自伝です。その中で、「人が1日に歩く歩数は平均7500歩で、一生のうちでは2億7400万歩となり、これは世界一周の距離に相当する。シュードッグはそうした世界一周の旅に関わりたいのだろう。彼らにとっては靴と人とつながる手段であり、だからこそ彼らは人と世界の表面をつなぐ道具を作っているのだ」と書かれています。こう思っている人が靴作りに関わると、全然違う感覚で作れると思うのです。対して、単に快適な靴作りという考えだと、靴の底の下に広がる世界まで思いは至りませんよね。
今のナイキも、どうやって地面と人がつながると、より楽しくなるのかとか、そういうことを真面目に考えているのでしょう。そこから、常識外れの発想ができるのでは、と思うのです。
理念に共感できる会社で働く
次に「企業理念」というキーワードをからめて話しましょう。
会社員としては、理念に共感できる会社に就職するのが、本当は一番いいと思います。なぜかと言えば、その場で活躍できて、行く末は経営陣に入れる可能性が高いからです。本田宗一郎の右腕の藤沢武夫さんが、「誰かの夢のお手伝いをしたかった」と言いましたが、会社員として必要な感覚は、理念への共感だと思います。
私は出版プロデューサーをしていますが、モーニングスターの社長の朝倉さんと本を作ったことあります。朝倉さんは、孫正義さんが熱く語るスピーチに心打たれて、それでソフトバンクグループに入って、関連会社の社長にまでなりました。理念をお手伝いしたいって思ってついてったら、ひとかどの人物になったという実例です。これなら、無理に自分が夢を持ったり、やりたいこと見つけようとして苦しむ必要はありません。
自分の理念にそぐわないことをすると「心が死ぬ」
それに、「会社の理念を応援することが、自分の自己実現につながる」という感覚で会社に入っていたら、だいぶ上の方までいけると思います。
そうではなく、「金儲けのために働く」というスタンスでは、いつか上の方針とぶつかるでしょう。
会社は、その理念を実現するために存在しているから、そこと合わないと「何で入社しちゃったの」という話になります。社員の側も、理念と合っていないと不幸だと思います。
それに会社は、結局は資本家のもの、言い換えれば、大きなリスクを取っている人のものなのです。リスクを取っていない立場で、上のやり方気に入らないと言ったところで通用しません。
また、やっていることが評価されないような会社には入らない方がいいでしょう。
自分の理念にそぐわないことをすると、心が死ぬのです。そして、仕事のためのエネルギーがなくなるのです。それで私は、そのエネルギーがなくならないように仕事をしているわけですね。
会社に文句を言っている会社員は、自分で自分を殺しています。もし、会社がやっていることが、ちょっと間違っているのでしたら、それは戦うべきなのです。従ってしまうと、変な組織になってしまうでしょうし。
理想と合わなくなったら辞めることも視野に
先の話と重なりますが、天職が見つからない、やりたいことがないというなら、素敵だなと思う夢を持っている社長を手伝えばいいのです。それはやりがいがあるし、徹底してやると、結果的に要職につけるはずです。
人間は、夢がないと頑張れない。数字のためだけには頑張れないから、夢を語っている青臭い会社に入った方がいいと思うのですね。
仮にそこで勤めても、夢を語らない経営者が出てきたら辞めどきだと思います。そして、より良い夢のある場所に移りましょう。待遇ばかり見るのではなく、魅力的な夢を語っているところに移るのが、転職に成功する方法だと思います。
参考までに私の話をしましょう。昔Amazonに就職して、エディターとバイヤーを務めました。私は、ビジネス書という当時のマイナージャンルが好きでした。リアル書店だと、あまり相手にされないジャンルだけど、Amazonなら全部揃えているし、好きな人たちがレビューを書いていて、その人たちの意見も聞くこともできる。そうしたことは、リアル書店ではできてなかったわけです。
マイナージャンルを追求する人にとって、Amazonはすごいサービスだと思うのです。例えば、1冊10万円の科学書が欲しくても、リアル書店にはないけど、Amazonにある。中古本すら扱っている。
読者の立場に立ったときに、どっちの方が正しいのかなと考えてみましょう。なので、Amazonがやっていたことは、私にとってはすごく筋が通っていました。
でも、会社は大きくなると、変化するのが当然です。Amazonも、効率化を追求して、本に独自レビューをつけるのではなく、出版社から内容紹介文をもらって自動的に掲載するようになりました。私には、それはちょっと楽しくなかった。そして、自分の理想を追求したかったから、辞めて、自分でメールマガジン『ビジネスブックマラソン』を始めました。
あなたも、会社の方針と自分の理想がずれてしまい、それでも理想を追求したかったら辞めることをすすめます。ボーナスが間近に迫っていようが、なるべく早く辞めてしまいましょう。陰で会社に文句を言っているうちは、自分で自分を殺しています。あるいは、自分の側が正しいと確信していて、会社が間違っているのであれば、そこは戦うべきです。
こうして辞めた後は、より大きな夢とか、より魅力的な夢を語っているところに移るのが、会社員として天職を見つける近道だと思います。
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この記事を書いた人
- 都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。