50代の収入とリスキリングの効果とは? リスキリングに意味はあるのか検証

リスキリングに現在取り組んでいる方の中には、このまま続けて、はたして意味はあるのだろうか?と疑問を感じる方もいるでしょう。リスキリングを続けた先にある効果と、50代の収入について解説します。

プロフィール
長崎大学准教授、スピーチコンサルタント矢野香
リスキリングをはじめたけれど、最近モチベーションが停滞気味。
はじめた頃のやる気が戻らず、なかなか資格取得まで結びつかない。リスキリングは本当に、意味があるのだろうか――。
現在リスキリングに取り組んでいる方の中には、資格取得などの具体的な結果に結びつかず、停滞感に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
リスキリングは、2022年に発表された政府の主要政策 に含まれる「人への投資」の一環です。
政府は「人への投資」を強化するために、キャリア形成を支援する企業の助成率を引き上げ。大々的にリスキリング支援の強化を行いました。
この流れを受け、日本の各企業でもe-ラーニングなど各種オンラインツールの導入をはじめ、リスキリングの仕組みを強化。
メディアでも「リスキリング」という言葉が取り上げられるようになり、社会人としてさらなる活躍を実現するために、欠かせないものとなっています。
しかし実際は、モチベーションが続かず「本当に意味があるのか」と悩む方が多いのも現状です。
今回は「リスキリングに本当に意味があるのか?」と疑問を抱く方に向け、なぜリスキリングに意味がないと感じてしまうのか。そしてリスキリングには本当に意味があるのかについて、深掘りします。
目次
なぜリスキリングに意味がないと感じるのか

リスキリングに意味がないと感じてしまう理由は、次の3つです。
- 即効性がない
- プライベートの時間が減る
- 継続的な努力が必要
それぞれ見ていきましょう。
1.即効性がない
リスキリングに意味がないと感じる理由の1つが、即効性のなさです。
リスキリングとは、学びを通して自らの知識をアップデートし、資格やスキルを習得するもの。徐々に知識を備えていくため、結果が出るまでに時間がかかります。
すぐに結果が反映される便利なツールがあふれる現代において、即効性のなさは、リスキリングの必要性に疑問を感じやすくなる原因の1つです。
2.プライベートの時間が減る
多くの社会人が、日常の大半を仕事に費やしています。
そのため勉強時間を確保するには、休息や余暇など、プライベートの時間を割かなければなりません。

マイナビ転職の調査によると、リスキリングの経験者は全体の44.8%。
注目すべきは、リスキリングをしている時間です。
現在継続中の人も過去にしていた人のどちらも、プライベートの時間を使ってリスキリングを行っている人が多いのです。
はじめはプライベートの時間を使うのに抵抗がなくても、数日・数週間と続ける中で、プライベートな時間の少なさに不満を抱く人もいるでしょう。
ここで継続できるかどうかが、リスキリング成功の分かれ道です。しかし最後まで達成できず、資格やスキルの習得に結びつかないまま、自然消滅してしまう人も多いのが現状です。
3.継続的な努力が必要
リスキリングには、継続的な努力が不可欠です。
独学で行う人も多いリスキリングは、学習状況の管理や、集中力の維持に難しさが感じられます。
余暇の時間や通勤時間を勉強にあてる人も多いですが、知識が身につくまでには時間がかかるため、すぐにはリスキリングの効果を感じにくいです。
継続的な努力が必要でありながら、モチベーションを保つのに苦労するのも、リスキリングが続きにくい理由の1つです。
リスキリングが「必要だと思う」人は全体の8割
続いて、リスキリングがどの程度必要だと思われているのかについて見ていきましょう。
マイナビ転職の調査によると、今の自分にリスキリングが必要だと思う人は、全体の79.6%。リスキリングが必要だと思う回答は20代・30代で特に多く、40代、50代と続きます。40代・50代の回答者には、リスキリングの経験者も一定数含まれます。続けられずに離脱しても、根本的にはリスキリングが必要だと感じていると読み取れるでしょう。

リスキリングは「期待値が高い」状態からスタートする
リスキリングが意味ないといわれるのには、元々の期待値の高さも関係します。
リスキリングに期待することTOP3
- 仕事・働き方の幅を広げること/幅広く経験を増やすこと
- 学んだ知識を今の仕事・業務に役立てること
- 昇給
回答者の多くが、経験や知識を増やして仕事と働き方の幅を広げ、今の仕事や業務からさらに活躍していくことを目指しています。リスキリングは専門的な知識やスキルを得るため、将来的に専門性の高い仕事を任されやすく、昇給の可能性も高まるでしょう。

仕事の「プラス」になったリスキリング
リスキリングを達成した人が感じた仕事への変化を、インタビュー記事から紹介します。
ITコンサルタントとして働いていた吉田さん(仮名)は、フルタイム勤務の傍ら、ビジネスマネジメントを学ぶため大学院に進学。MBA相当の学びを収め、身につけたビジネスマネジメントの知識を生かして仕事に取り組んでいます。
大学院で収めたビジネスマネジメントの知識のおかけで、企業の中長期戦略も読みこなせるようになったという吉田さん。今までと比べ「希少価値が上がった」と実感しているといいます。大学院進学後は、役員クラスの人たちと直接話ができるようになり、仕事がよりスピーディに、面白く感じられるようにもなりました。
年収の高さとリスキリング実施率の関係性
年収の高さとリスキリングの実施率には、比例傾向があります。
マイナビ転職の調査によると、今の会社で賃金を上げるために勉強・リスキリングに取り組んでいる人は、全体の20.2%。
さらに副業など、今の会社以外で収入を得るための勉強・リスキリングを行っている人は、全体の13.5%です。
いずれも年収を上げるための具体的な方法として、リスキリングが選ばれているのがわかります。


さらに収入別に見ると、勉強・リスキリングの実施率は年収500万円を超える層から高くなり、2割を超える結果に。
特に年収700万円以上900万円未満の層と、年収900万円以上1,100万円未満の層で多く、年収の高さとリスキリングの実施率には比例傾向が読み取れます。
「特に何もしていない」と回答したのは、年収300万円未満の層が最も多く、全体の53.7%。この層はリスキリングの実施率も21.3%と、最も低い割合です。
一方で、割合が最も少なかったのは年収500万円~700万円未満の層、
この層はリスキリングの実施率も高いことから、年収を上げる意欲の高さに比例して、リスキリングや副業への関心も高いと考えられます。
興味深いのは、年収1,100万円以上の高収入の層であっても、今の会社以外に収入を得る方法(副業など)のために、リスキリングを行っている点です。
1つの企業からの収入に頼るのではなく、勉強やリスキリングを実践し、収入を得る場を作り出した結果が、収入の高さに結びつくともいえるでしょう。
50代が考える「今後賃金を上げるために必要なもの

「賃金が上がるために必要だと思うもの」という問いに対して、50代の回答率は以下の3つが高いです。
- 会社の業績・・・32.3%
- 自身の貢献度(成果)・・・23.0%
- スキル・・・21.7%
会社の業績は今後賃金が上がるために不可欠ですので、業績の回答率が最も高いのは納得できる結果でしょう。
続く「自身の貢献度(成果)」や「スキル」は、回答率にわずかしか差がありません。企業に貢献し成果を上げるには、自らのスキルの向上が不可欠です。
50代には、リスキリングを試みたものの途中で挫折した離脱経験者が、一定数いると考えられます。
賃金が上がるために必要なものに「スキル」の回答が多いのは、スキル習得の難しさを経験すると同時に、スキルの大切さも実感したと読み取れるでしょう。
参考:マイナビ転職「正社員の約4割が年収が「低過ぎる」。理想と現実のギャップは100万円」
「リスキリングなんて意味がない」と挫折する前に試したい2つのポイント

リスキリングに意味を感じられず挫折しそうになったら、次の2つのポイントを試してみましょう。
- 「時間の棚卸し」をする
- 勉強にサポートをつける
どちらもリスキリングのモチベーションを保つのに、効果的な方法です。2人の専門家へのインタビュー記事から、ポイントを紹介します。
「時間の棚卸し」をする
時間の確保が難しくてリスキリングに挫折しそうな人は、まず「時間の棚卸し」からはじめましょう。
リスキリングに詳しい(株)プランノーツ代表の高橋宣成(のりあき)さんは、リスキリングの成功には自分の時間の使い方を見直す「時間の棚卸し」が大切だといいます。
髙橋さんがすすめるのは、たった2ステップの簡単な方法です。
- Googleカレンダーなどの24時間枠を使い、「何に」「どれだけ」時間を使っているか細かく書き込む
- 必要がないと感じたものは、すみやかにやめる
このとき、やめる・やめないの目安になるのは「未来のお金、時間、信頼などの価値を生み出しているかどうか」です。
髙橋さんによると、現状維持のための時間も「浪費」であり、浪費にあたる時間はやめるか、人に任せるか、時間の短縮を検討するかの3つの選択が求められます。
またリスキリングにはまとまった時間が必要だと思われがちですが、高橋さんによれば、まとまった時間はそこまで必要ではありません。
時間の確保に苦労するよりも、1日5分の勉強時間を次からは10分に増やすというように、時間の棚卸しを実践しながら少しずつ使える時間を増やしていくことが、まずは大切だと説いています。
勉強にサポートをつける
リスキリングの専門家、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表・後藤宗明さんは、学ぶことが苦手な人こそ、コーチの役割を持った人の存在が重要だと説きます。
特に社会人は学びの経験から遠ざかっており、学ぶことに対する負の感情が受験時代で止まっている人も多いです。
認知度は低いものの、学びにコーチをつけるサービスも登場してきました。独学で中途半端に終わらせるよりも、自己投資してコーチをつけ、目的の達成までコーチと併走することも重要だと後藤さんはいいます。
社会人のリスキリングや学び直しと聞くと、「すき間時間の活用」や「プライベートの時間を勉強にあてる」といったイメージが強い方も多いでしょう。しかし途中で挫折せずにリスキリングを成功させるには、空いた時間をあてるのではなくリスキリングのために時間を作り出し、最後まで達成できるよう勉強のサポートをつけるのが効果的です。
リスキリングの意味は、自らの市場価値を高めること

高い目標と期待を持ってはじめたリスキリングも、勉強時間を確保する難しさや、すぐに結果の出ないもどかしさのために、「本当に意味はあるのか」と、リスキリングに消極的になる人も多いです。
ときには、リスキリングが必ずしもキャリアの展望につながらないこともあるでしょう。しかしリスキリングの過程では、何を学ぶかを考えるためにキャリアの棚卸しを行い、勉強時間を作るために時間の棚卸しも行います。
博報堂のコピーライターで、キャリアコンサルタントでもある三嶋浩子さんは、「自らのキャリアを棚卸しし、リスキリングで新しい道に進むのか、それとも今のキャリアを太らせるのかを考えるのも大切だ」と述べています。
リスキリングは、自分のこれまでのキャリアと未来の展望について考える、1つのきっかけになるものです。
さらにリスキリングを達成すれば、自らの市場価値は高まります。
「意味がないのでは」と挫折しそうになったときこそ、今一度自分のキャリアについて考え、リスキリングの必要性を問い直してみてください。
構成・文/渡邊 真理
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この記事を書いた人

- 「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。