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50代女性の「限界を感じて落ち込む」「将来が不安」を解消するレジリエンスの磨き方

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定年後どうする? 仕事続ける? 転職したいけれど今更無理かも……仕事や将来に対して不安を抱える50代女性の不安や落ち込みを回復させる感情との向き合い方について、働く人のメンタルヘルスを専門とする心理学博士、臨床心理士の関屋裕希さんに語っていただきました。

平成30年度の「国民生活に関する世論調査(内閣府発表)」によると「日常生活での悩みや不安を感じている」という人の年代別の割合は50代が69.5%と最も多く、また、令和4年の「家計の金融行動に関する世論調査(金融広報中央委員会)」によると、50代の84.4%が老後の生活に不安を感じています。

Iamの読者の中心層である50代女性からも、「更年期での外見や体力の変化も相まって、落ち込みやすくなっている」「老後のお金が心配だけど特別なスキルがないため働き続けられるか不安」という声が聞かれます。

働く人のメンタルヘルスを専門とする心理学博士、臨床心理士の関屋裕希さんに50代がしなやかに生きるための心のケアについて伺う後編は、関屋さんの著書『感情の問題地図』(技術評論社)の内容をもとに、50代女性が抱え込みがちな落ち込み、不安の解消法について教えていただきます。

「落ち込み」から抜け出す方法

落ち込みから抜け出すには「反すう思考」に気づくこと

物事が期待通りに進まなかったり、目標が達成できなかったりしたとき、自分に自信が持てなくなって落ち込んでしまうことってありますよね。そんなとき、うまくいかなかった場面を何度も思い浮かべて、「ああすればよかった」「こうすればよかった」と思い悩んでいないでしょうか。すべてのことに対して自信を失い、頑張る気力がなくなっているのだとしたら、それは、いわばエネルギー切れの状態です。

こういうときは、自分を休ませてエネルギーを充電する必要があるのですが、何も考えずに休むことができずに、延々とうまくいかなかった場面を思い出して、自分のダメな部分を責めてしまうことってありませんか。これを「反すう思考」と呼びます。一度、この状況に入り込むと「自分が反すう思考に陥っている」ということに気づくことすら難しく、抜け出すことがなかなかできなくなります。

まず、反すう思考に陥っていないかどうか気づくために次の5つのリストをチェックしてみてください。

□過去のことを繰り返し考えている
□「なぜ○○したのか、しなかったのか」という考えが浮かぶ
□考えることをやめたくてもやめられない
□自分を責めるような考えが浮かぶ
□「絶対」「いつも」「〜にちがいない」など、大げさな表現で考えている

このうち3つ以上当てはまっていたら、反すう思考に陥っている可能性があります。

4つのステップで反すう思考から抜け出す

反すう思考に陥っていることに気づいたら、以下の4つのステップを試してみてください。

1 自分が今考えていることを口に出してみる

頭の中でぐるぐる考え続けるのを一旦やめて、「自分は今○○○だと考えている」という表現に変えてみましょう。例えば、「ああしていればよかった」と何度も反すうしているのであれば、「今、自分は『ああしていればよかった』と考えている」と言ってみます。

そうすることで、ぐるぐると反すう思考に巻き込まれている自分を客観的に見ることができ、「反すう思考に陥っている自分」と「それを観察している自分」に分けて考えられるようになります。

2 自分の反すう思考を数値化してみる

次に、さらに自分を客観視するために、「この反すう思考は、台風だと今何hPa(ヘクトパスカル)くらいの影響力を持っているかな」というように、思考を数値化してみましょう。

3 思っていることを紙に書き出し「見える化」する

1や2がうまくいかない場合や、やってみてもしっくりこない場合、考え続けてしまうときは頭の中でぐるぐると回っている思考を、紙に書き出してみてください。書き出して目で見ることで客観視することが容易になります。

4 自分へのダメ出しから距離を置く

落ち込んでいる時というのは自分を全否定してしまいがちです。そんなときは、「責められているのは自分自身」ではなく「責められているのは、自分という人ではなく『行為』や『やり方』についてだ」と、切り離して考えてみましょう。

友人かが同じ状況にいたらどうアドバイスするか考えてみる

自分のことはよく見えていないけれど、人のことには的確なアドバイスができる、ということは誰にでもあります。人は自分のことが一番見えていないものですから、今の自分の悩みや課題、状況を「友人から相談されたら」と置き換えて、相手にどうアドバイスするか、考えてみてください。

「その状況でそれだけきちんと対応できていたんなら、成功って言えるんじゃない?」
「今度から、別のやり方を試せばいいんじゃない? これも一つの経験だよ」

というように、的確な声掛けができるのではないでしょうか。ここまで来ると、自分へのダメ出しもなくなり、前向きな気持ちになれているのではないでしょうか。

「不安」から抜け出す方法

不安は3つの「わからない」から生まれると知る

今もしあなたが不安な気持ちを抱えているとしたら、何か「わからない」ことがあるのではないでしょうか。特に仕事や職場で不安になるとき、その不安は3つのパターンに分かれます。

1 将来どうなるのか結果がわからない
2 目の前の課題に対する対処方法がわからない
3 自分がすることに対して相手がどう出るかわからない

まずは今自分の不安がこの3つのどれに当てはまるのかを考えてみてください。

「わからない」ことを3つにわけて書き出してみる

不安を3つのカテゴリにわけて書き出し、可視化してみましょう。文字にしてみることで客観的な視点を持つことができます。

1 明確にできること

例えば、プロジェクトのプレゼンがうまくいくか不安、というとき、明確にわかっていることといえばプレゼンの日、プレゼンする内容などではないでしょうか。今、この時点で明確にわかっていることを書き出してみてください。

2 実はわかっていること

次に実はわかっていることについて書き出します。例えば、プレゼンのために用意するものや準備に必要な時間、予測される障害やトラブルなどです。この過程で、「あ、できそう」と思えて不安が解消されることもあります。

3 本当にわからないこと

本当に予測がつかないことも書き出してみましょう。「突然方針が変わってしまう」「プレゼンの結果」などは未知数でしょう。これらの「本当にわからないこと」は、手放してしまうしかありません。「そうなってから考えよう」と思うことで手放すことが容易になります。

「不安な気持ち」を誰かに聞いてもらう

落ち込みの解消方法のところでもお伝えしましたが、人は、自分のことが一番わからないものです。特に、不安の原因が自分の性格や能力に関わっているときは、わからないことを明確にするという手法が使えないこともあります。

そういったときは、信頼できる友人や尊敬しているメンターに話して、気持ちを受け止めてもらうことも不安の解消につながります。また、前編でお伝えしたように、自分の強みを見直して、新しい活用法を試してみることで意欲を取り戻せることもあります。

不安になりやすい人はいつも自信満々でいる人のことを羨ましいと思うかもしれませんが、不安になりやすいからこそ、計画的に入念な準備をし、高いパフォーマンスを発揮することができることが研究で明らかになっています。「不安」を弱みとして捉えずに、「不安なおかげで成果を出せる」と考えてみましょう。

今回は、落ち込みと不安への対処法を駆け足でお伝えしました。私の著書『感情の問題地図』に詳しく書いていますので、もっと知りたいという方はそちらも読んでみてください。

関屋裕希『感情の問題地図』(技術評論社)

関屋裕希

東京大学大学院医学系研究科 デジタルメンタルヘルス講座 特任研究員

心理学博士 臨床心理士 公認心理師

専門は、働く人のメンタルヘルス。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻発達臨床心理学分野にて修士・博士課程を修了。2012年より現所属にて産業精神保健の研究・実践活動を始める。不調の予防だけではなく、ポジティブなメンタルヘルス状態の実現を目指し、心理学の知見をもとに、ワーク・エンゲイジメントやwell-beingを高めるアプローチを開発・研究している。東京都立大学のオープンキャンパスで「レジリエンス入門講座」を開催。著書に『感情の問題地図』などがある。

取材・文/MARU

この記事を書いた人

MARU
MARU編集・ライティング
猫を愛する物書き。独立して20年。文章で大事にしているのはリズム感。人生の選択の基準は、楽しいか、面白いかどうか。強み:ノンジャンルで媒体を問わずに書けること、編集もできること。弱み:大雑把で細かい作業が苦手。

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