新たなスキルを獲得したければ「睡眠力」を高めよ! その道のプロが教える「リスキリング」の意外な秘訣
今話題の「リスキリング」ですが、習慣化に難儀したり、集中力が続かないなど挫折ポイントはいくつもあります。その対策を(株)プランノーツ代表取締役の高橋宣成(のりあき)さんに伺います。
「新しいスキルを学び、新しい業務や職業に就くこと」を意味する「リスキリング」。DX(デジタルトランスフォーメーション)、AI(人工知能)の言葉を目にしない日はないように、このリスキリングも全世代の働く人の必須項目となってきています。ですが、実際に取り組むとなると、そこにはさまざまハードルが待ち構えています。
その1つが学習の習慣化。例えばプログラミングをゼロから学んで実務レベルまで上達させるとなると、トータルで数百時間の学習時間を要します。働く人が1日に学習にあてられる時間は限られているので、長期にわたる学習の習慣化は必須です。勉強の第一線から離れて数十年という人も読者の中には多いかもしれません。
この課題をどうやって乗り越えるべきか、リスキリングに詳しい(株)プランノーツ代表取締役の高橋宣成(のりあき)さんに伺います。
目次
周囲に「宣言」して習慣化をものにする
大人になればなるほど「習慣化が苦手」という人は多い。リスキリングをするとなった場合に、習慣化の壁にどう立ち向かうべきかが大きな課題になります。高橋さんの習慣化の壁突破術はシンプルかつ実践しやすいものです。
「何かを意図的に習慣化させることに慣れていない人は、ちょっとの習慣化も、すごく重荷に感じるはずです。なので、そこはすごく気をつけてやる必要があります。例えば、それをやる時間をスケジュールで決めてしまう、余計な誘惑が入らない環境に身を置く、またはそれこそ他の人の力を借りるとか、あの手この手を使って習慣化の初期段階を乗り越える覚悟は必要でしょう。
特にすすめたいのは、習慣化の邪魔になりそうなものを排除しておくことです。シンプルですが、ものすごく重要です。「邪魔」の最たる例がスマホですね。リスキリングの学習時間中は、留守電にして通知も切っておきましょう。
いったん習慣化できると、そこから先が本当に強くて、逆にその習慣をやめる方が気持ち悪いというくらいの感覚になるので、そこまでいけば成功です。ところで、僕の著書の中でも習慣化についていくつかアドバイスを記しましたが、その1つに「宣言する」というのがあります。
「もくもく会」という言葉をご存知でしょうか。決まった時間に集まって、それぞれ持ち寄った自分の課題に黙々と取り組むという勉強会のスタイルです。この会で集まったメンバーは、今日やることをその場で宣言します。終了時には、今日できたことを発表します。この宣言という行為が、取り組まざるを得ないという心理的状況を作り、モチベーションにもなるのです。メンバー間で仲間意識が醸成され、続ける励みになるというのもメリットですね。
もう少し簡単な手段として、ご自身のSNSで宣言するという手もあります。学習の開始時刻になったら、これからやることを投稿します。フォロワーから見られているという意識が、習慣化への動機づけになるのです」
よく眠り、集中できる環境を自ら作る
著書『デジタルリスキリング入門―時代を超えて学び続けるための戦略と実践』で、高橋さんは学習の際は「集中する」ことの重要性を説いています。しかし習慣化と同様、集中力は多くの人にとっての課題。集中力のない人のためのアドバイスを聞きました。
「意外かもしれませんが、しっかり睡眠をとることです。学生時代は、テストは一夜漬けの学習で乗り切ってきた人は少なくないと思います。それで、睡眠時間を削っての学習は、集中が続かず、本当に効率が悪いことは体感されていると思います。実際、集中力に対する睡眠不足の悪影響は学術的にも立証されています。十分な睡眠をとって、健康な状態を目指すことは集中力強化にとても大事。
もしも夜の睡眠時間を十分に取れないときは、昼寝をすすめたいです。オフィス勤務の方は、昼寝をする場所がとれないかもしれませんが、1時間の昼休みの前半30分で昼食をすませ、残りの30分はデスクで居眠りする。それだけでも午後の集中力が維持できるはずです。
また、人によって睡眠のリズムは異なっていて、例えば朝が得意な人もいれば、朝は苦手で夜型という人もいます。なのに社会のシステムは、朝苦手な人に不利にできてしまっているので、そういう人は「自分は駄目な奴だ」とみなすのではなく、自分が夜型だということを認識し、対策をとりましょう。
さらに、先ほど話した習慣化のコツと同じで、集中力を途切れさせそうなものを排除しておくことです。ちょっとの電話の中断でも、集中が途切れてしまい、再度の集中まで時間がかかってしまいますので、スマホは切っておくなど工夫してみてください。
それから、集中できる環境を自分で作るのも大事です。例えば会社に1時間早く出社して、その時間は集中する時間として活用する。日中は空いている会議室を1時間借りて、そこで集中する。そのように自分で集中できる環境を作るのは、とても効果的です。」
遠慮せずに他人の力を借りる
習慣化、集中力という課題をクリアしたところで、学習スタイルをどうするか?という点において、日本では人気の「独学」についてアドバイスをもらいました。
「リスキリング成功の重要な秘訣は、有償か無償かは別として他者の力を借りることです。経験者に聞いたほうが早いし、学習効率も上がります。もくもく会がその例ですが、リスキリングを目指す人同士で一緒になって勉強し、刺激を与え合うことが、モチベーションの維持につながったりもします。その関係性のなかで、自分が学んだことを初学者に伝えるという行為をするだけでも、自らの学習をしっかり根付かせる効果があります。
多くの日本人は、「一人で学べ」とか「他人の力を借りてはいけない」と言い聞かされて育っているので、心理的な抵抗はあるかもしれません。ですが、そこは乗り越えて積極的に人との出会いを増やし、いろいろ試し、自己投資をはかってもいいのではと思います。
会社員じゃない人のリスキリングの強み
みんなで学ぶことでモチベーション維持が可能ということですが、個人事業主や起業家などはどのようにリスキリングしていくべきか?
「今の日本は、「リスキリングは企業主導でやろう」という考えが主流ですね。会社に所属していない個人事業主はもちろん、派遣社員やパートスタッフさんなどは、企業が提供するリスキリングの恩恵は受けられません。企業の社員でも、中小企業だと会社からの支援をほとんど得られないことが多いです。そういった人たちは、企業に頼れず自助努力でリスキリングしないといけない。現状として、それにあたる人の割合の方が多いと感じます。
だから、「個人でリスキリングをやりましょう」というのが僕のスタンスです。個人事業主をはじめ独立自営の人は、企業の支援はないという不利な面はある一方で、圧倒的に有利なところもあります―それは、自分で意思決定できる時間が非常に多い点です。
どういうことかと言いますと、自分のビジネスさえきちんとしてれば、時間の使い方を朝型だったら朝にシフトできるし、夜型だった夜にシフトすることができる。
環境面でも、会社員だと、社内で1人リスキリングに励んでいたら、上司・同僚から「意識高い奴だな」という目で見られることもあるそうです。それに、せっかくスキルを習得して、社内で生かそうと思っても、周りとの調整にすごいエネルギー使ってしまいがちなのです。上司が、「ITスキルなんかくそくらえだ」とか言ってきたりして、スキルを得た自分のやる気が下がってしまうこともあるのです。
ですが、ひとりビジネスなら、それがありません。同じ気概をもつコミュニティに属して、一気に環境を改善することもやりやすいです。学んだことをすぐ自分のビジネスに活用するのサイクルも作りやすい。このように自己裁量と選択肢の多さを味方につけられるのは、かなり有利な面です。「手厚い支援のある会社員の方が有利」と腐らず、自身の優位性をどんどん生かしましょう。」
高橋宣成(たかはし・のりあき)
株式会社プランノーツ代表取締役/一般社団法人ノンプログラマー協会代表理事。東京工芸大学大学院非常勤講師。1976年5月5日こどもの日に生まれる。「日本の『働く』の価値を上げる」をテーマに、ノンプログラマー向けのデジタルリスキリング支援、越境学習によるDX人材育成、登壇、執筆、メディア運営、コミュニティ運営などの活動を行う。著書に『ExcelVBAを実務で使い倒す技術』『詳解!GoogleAppsScript完全入門』(秀和システム)、『パーフェクトExcelVBA』『Pythonプログラミング完全入門』(小社)などがある。
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この記事を書いた人
- 都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。