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みらいのとびら 好きを仕事のするための文章術文章は自由にトライ&エラーができる伝達方法。相手に伝わるように書き直すコツとは?

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文章のプロ・前田安正氏が教える、好きを仕事にするための文章術講座。最終回は「相手に伝わるように書き直すコツとは?」についてです。

音声は間違いに気がつきにくい

先日、企業研修の打ち合わせをしたときに「口頭では説明できるが、それを文章にまとめようとすると、1行も書けない部下がいる」という話を聞きました。他の研修先では「講師のなかには研修の内容はいいのだが、説明がいま一つなので研修生が飽きてしまう」ということも耳にしました。

書くことも、話すことも、そう簡単ではないのでしょうね。異業種懇談会などに顔を出すと、そこには起業家がたくさん来ています。すると、よく話すのです。黙っていることがありません。総じて声も大きく、あふれるエネルギーを抑えきれない感じなのです。

そこでは、毎回のように短い自己紹介とプレゼンが繰り返されます。そのために考えてくるのだと思うのです。

「こういうことがしたい」という思いが、力強いことばを生み出します。プレゼンの資料は少なめですが、たっぷり話します。時に笑いも交えながら、飽きさせません。それが耳に障ることもないので、プレゼンとしては成功なのだと思います。しかし、その話を文字にすると、文章としては成り立たないかもしれません。

僕自身、フリーアナウンサーの方と音声メディアで「ことば」の話を届けています。10〜15分程度の内容です。そのときにも一応、僕が話す内容については、1000字ほどの原稿を用意して、アナウンサーの方に渡しています。書かれた内容に沿って感想や意見を言ってもらい、できるだけ自然なトーク番組を心がけています。そのため、原稿にない話に脱線したり、言いよどんだり、話につまずいたりすることもあります。こうした失敗は、録音中にはまったく気づかないのです。話として自然に流れているからです。

ところが、編集作業のときに気づくのです。削除してうまくつなげられればいいのですが、思わぬ間違いに気づいて、取り直しをしたこともあります。

音声は、流れていきます。その流れが多少おかしくても、話しているときは気づかないのです。聞いている側も細かいところまで気づかず、話の流れで納得してしまうのです。

その点、お笑い芸人がワイドショーやバラエティー番組で、放送コードに掛からない範囲で笑いをとりながら、言いよどむこともなく、気の利いたコメントをするのは、かなり高度なしゃべりのテクニックだと感心するのです。素人ではできない技だと思います。音声の場合は、直感的・瞬間的な判断で、やり取りしなくてはなりません。それが苦手な人にとっては、なかなか手を出せない分野かもしれません。

何度でも書き直せる!文章のビフォーアフター例

文章は書き直しがききます。発表する前に点検して、間違いを事前に見つけることができます。伝えたい内容を吟味する時間があります。ここで、しっかり見直してよりよい文章にブラッシュアップすることが可能です。

次の文章を見てください。僕が主宰しているライティングセミナーで受講生に書いてもらった文章です。絵本作家のレオ=レオニの「フレデリック」を基に、僕が書いたエッセイを読んでもらい、感想ではなく、あくまでも「読んで思ったこと」を自由に書いてほしいという課題です。

この受講生は、もと看護師です。看護師の仕事に違和感を持って一般企業に転職し、その経験を活かし、看護師などの医療関係者の転職支援をする会社を立ち上げた起業家です。初稿はこんな具合です。

「視野を広げ、思考の深さを追求する豊かさ」を一番に感じた。フレデリックの仲間たちは、冬に備えて食べ物を集めることが当たり前だった。しかしフレデリックの表現の価値を感じたとき、仲間たちは今まで見えていなかったものが見えた。そこで、「視野の広さ、思考の深さ」が養われたのではないだろうか。

私も、新人看護師時代にこんな経験がある。当時私は誰よりも仕事ができず、自信が持てない日々だった。ある日一人の画家の患者さんと絵画の話しになった。私は幼少期に海外におり、美術の授業を多く受けていたことから、特に19世紀の印象派について楽しく語った。「こんな話しを病院でできると思わなかったよ。」と肩の力が抜けた柔らかい笑顔の患者さんを見たとき、医療技術や知識だけが看護師に求められる生産性ではないのかもしれないと思えた。

他者とのかかわりの中で相互的に視野を広げ、思考を深くすることが本当の生産性なのではないだろうか。

うまくまとまっていると思います。しかし、実際の経験談が2段落目に入っているのです。最初の段落は、フレデリックの粗筋とその感想が書かれています。いわば前置きです。そして最後のまとめ部分は、なんとか着地しようとして、筆者のことばではない気の利いた表現に納めているように感じます。

看護師の経験を持つ筆者しか知らない経験がうまく活かされていないのです。これではもったいない。伝えたい骨の部分を書き出しに持ってきたのは、いいと思います。しかし、最後の2行に同様のことが書かれています。経験談から書き出せば、文章の構成は変わります。

 看護師の経験を活かしきれていないことを指摘(写真/本人提供)
 

こうした指摘をして、再度直してもらいました。

 修正後、その場の情景が目に浮かぶ文章になった(写真/本人提供)
 

すると、エピソードが具体的になって、患者との会話が加わり、絵をプレゼントされたという新たな話や、看護師時代に悩んでいたことまでが描かれました。筆者の状況が読み手にグッと迫ってきました。

あとは最後のまとめ部分です。まだ型にはまっているので、最後までエピソードを書くようにとアドバイスをしました。つまり、看護師の仕事が単に医療技術だけではない、ということを印象派の話に織り込んで書けると印象は変わります。

型を身につければ、自由に文章を書けるようになる

文章は、いかようにも書けます。「書いて消して、また書く」。それが何度でも可能です。トライ・アンド・エラーが許されるのです。

何度でも納得のいくまで、書き直せばいいだけです。ただ多くの人は、どこをどう直せばいいのかがわかりません。そこは、自己投資をして文章を書く勉強をしないと身につきません。

文章の書き方にはパターンがあります。しかし、ほとんどの人は何となく「起承転結」に縛られて、新聞の社説の薄まったようなパターンで書いてしまいます。もちろん、それも書き方の一つとして必要です。しかし、「起承転結」がどういうものなのかを知らないことが多いのです。そして、ほとんどの人が、それ以外の型を知りません。いろいろな型を身につければ、もっと自由に楽しく文章を書くことが出来るのです。

このシリーズは今回が最終回です。次回からは「1ミリの違いを書く方法」として、ビジネスに必要な文章の書き方を、毎回ワンポイントに絞ってわかりやすくお伝えしたいと思います。

執筆/文筆家・前田安正

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

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