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売れたら売れたでバッシング。 『自営業の老後』の著者・上田惣子さんインタビュー第2話

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イラストレーターが生き残るにはどうすれば良いのか!? フリー素材が溢れる中、25年以上のキャリアを持つイラストレーター・上田惣子さんにお話を伺いました。

上田惣子

プロフィール

イラストレーター上田惣子

イラストレーター歴30年。デザイン事務所、建築事務所を経てフリーランスのイラストレーターに。20年以上順調にフリーランスを続けるも40代後半で仕事が激減。そんなとき『自営業の老後』(文響社)を出版。しかし、自分の経験が誰かの役に立つことを信条にイラストを描き続けている。著書に『マンガでわかる 介護入門』(大和書房)、『うちのネコ「やらかし図鑑」』(小学館)がある。

イラストレーターが生き残る道は、この先あるのだろうか……。

今やメディアにはフリー素材が溢れています。商用利用可能な無料素材を配布するサイトが乱立し、「イラストは無料」という考えが浸透しています。ユーザーにとっては便利でも、イラストレーターにとっては不安材料でしかないかもしれません。さらにAIの出現によって、人間ではなくAIがイラストを描く時代がすぐそこに来ているようような気もします。

そこで、25年以上のキャリアを持つイラストレーターの上田惣子さんにお話を伺いました。25歳でフリーランスになり、40代後半で仕事が激減。その後、著書『自営業の老後』で復活! フリー素材やAIの出現におののきつつも、イラストレーターとしての矜持も仕事も持ち続ける秘訣とは?

全2話、前編はこちらからどうぞ。

「A4カラー3000円」案件、さすがに断る

そんな中、やっぱりイラストの仕事も諦められなくて、「A4サイズのイラスト3000円!」っていうのを、危うく受けそうになりました。だけど安すぎる。それはさすがに無理だなって思ってやりませんでした。

長く仕事をしてきても結局これか、と落ち込んだりして……。自分にはプライドが全くないと思ってたんだけど、少しはあったんだとビックリしました。

ギリギリの状態だったのですが、夫に養ってもらうという考えはありませんでした。結婚していたのに(今もしてますが)専業主婦って考えたことないんですよね。自分で仕事をしてるんで、他人様のお金で暮らしていくっていうのが、いまいちピンと来ないんです。他人様というとなんなんですけれど、夫とはお財布も別でしたから。でも、さすがにこの時は泣きつきましたよ。「もう今までのようにお金が払えない」って。

でも、イラストレーターを続けたいっていう気持ちはありました。その頃には、同い年くらいの同業者はいなくなっちゃって。みんな食べていけなくなる前に会社に就職して。私はのんびりしてたから、周りを見たら誰もいなくなっていました。もちろん、有名な方たちは残っていますが。

最後の最後は「運」?

自分でいうのもなんですが、運は良かった(笑)。

「A4 3,000円」案件のとき、その仕事は受けなかったけれど、他の仕事を探さなきゃというギリギリの時でした。でも結局、自分ができる仕事が見つからなかった。お掃除とかも考えたんですけど、周りからは「お掃除って若い子がやる仕事だよ。なめたらダメだよ!」って言われたんです。じゃあ、もうこれはイラストでやってくしかないなと。

「A4 3,000円」案件でガックリしたおかげで、自分の道を再確認できた。「運」の良さがあると思っています。

起死回生! 自分をさらけ出した本「自営業の老後」がヒット

当時はお金を稼ぎたいとか、お金が欲しいというよりは、生活しないといけないわけです。生活のために絵を描くことになるのですが、さすがに嫌になりましたね。実は絵柄もそれまでとガラッと変えたんです。「昔の絵柄じゃもうダメだな」と思って、流行りの絵を研究して。

純粋にイラストを描きたいという気持ちとは少しずつ変わっていったことは否めませんね。流されて生きていましたよ。それでもイラストしかできることがないっていうことがわかりましたから。私、なんにもできないんですよ。だからもう、いままでの仕事続けるしかないと。 でもどん底までいったおかげで(?)、お声がけしていただいて書いた『自営業の老後』がヒットしたんです。ほんとに運がいい。

その分、いろいろ言われることもありました。実は年金を未納していて、この本をきっかけに全納したんです。最初は年金未納の話は描きたくなかったんですが、調べていくうちに、未納の人も多くて、どうしたらいいか困っている人が結構いることがわかったんです。それならば私のことを話して、今からでも納められますよってことを伝えようと思ったんです。叩かれるだろうとは覚悟していましたが、すごく叩かれて寝込んじゃいました。

バッシングされても誰かの役に立てれば

もともと自分のことは描きたくないと思っていたんですけど、その頃には「役に立てればいい」というのがあって。同じ思いをしている人が困っているなら、お役に少しでも立てるかと思って、公表することにしたんです。これまで何も役に立っているという実感がなかったんで、何かの役に立てればいいと思ったんです。自分のことはオマケみたいなもんなんですよね。

ただ、絵を描くことは私にとって “生活”そのものなんです。お金を稼ぐ手段ということでもなく、もう生活ですね。仕事をしていないと、どうしようもないワーカホリックみたいな状態。仕事をしていないと何をしていいのかわからなくなっちゃう。そういう意味の生活そのものです。もし、9月に発売する新刊がめちゃくちゃ売れて印税だけで10年くらい働かなくてもいいとしても、それでも描くことからは離れられないですね。

仕事を辞めたとしても何かを描いていると思います。クセみたいなもんですかね。ご飯食べたりと同じです。年齢的にいよいよ仕事がなくなってしまって、他のことをしていたとしても、SNSにイラストをアップしたりして、暮らしていくと思います。

どんなに好きなことでも、仕事は相手があってのもの

好きなことしか描きたくない人は仕事にしない方がいいと思います。選り好みしていたら仕事っていずれなくなります。仕事にするのであれば、いろんなものを描かないといけないので。描きたいことを描きたい人はアーティストになるか、趣味にしといた方がいいです。そこは絶対かなと思います。

そういう私も描けないときもあります。自分に向いていない絵柄というのがどうしてもあるんです。頑張って描くんですけど、出来がヒドイというか……。締切がありますから、仕上げるんですけど。手が震えてくるぐらいツラくなったら、次はお引き受けしないです。

それでも依頼してくださる方がいて成立する仕事なので、依頼してくれている人が何を求めているかっていうことには、すごく誠意を持ってやろうと思ってやっています。そして、読んでくれる人の役に立っていればいいかなと思います。

フリー素材やAIに負けない唯一の方法は「私」

一度は無くなった仕事ですが、今はまたなんとかイラストレーターとしてやっています。しかし、新たな問題が……。イラストのフリー素材がネット上にたくさん出てきて「勘弁してくれ~」って感じなのです(笑)。

多分、フリー素材だけではなく、そのうちAIが完璧なイラストを描く時代がやってくると思います。そうなったときに生身のイラストレーターが生き残る方法は、“私に依頼したい”と名指しで来てもらうことだと思います。付加価値をつけるしかないですよね。AIにもできない何か。その辺はずーっと考えています。

私にイラストを依頼してくださる方、ひとりひとりが何を描いてほしいのか、何がほしいのか考えますね。そして、そのイラストを見る方の役に立てばいいと。依頼してくださる方の役にも立ちたいという意味では、“人の役に立てるかどうか”、そこを終始考えているということですかね。

そこが強みだとは思っているんですが、それでAIに勝てますかね(笑)。

全2話、前編はこちらからどうぞ。

取材・文/I am 編集部

この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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