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実店舗より安くても初期費用 600 万円。地方でキッチンカー起業してメリット・デメリット

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東京の飲食店で 10 年以上勤めるもコロナで函館にIターンを決意。600 万円を投資しキッチンカーで焼きたてピザ屋を始めた佐々木祐介さん。スモールビジネスで飲食業をするのに人気の移動販売“キッチンカー”ですが、地方でも通用するビジネスモデルなのでしょうか?

プロフィール

インタビュアー、スタートアップ広報中村優子

(なかむら・ゆうこ)元テレビ局アナウンサー、インタビュアー、スタートアップ広報。作家・林真理子さんのYouTubeチャンネル「マリコ書房」、および著者インタビューサイト「本TUBE」を運営。インタビュー動画の企画から出演、編集まで一人でこなす。年100本以上の動画制作に関わる。2022年、スタートアップ広報の会社を設立。

実店舗開業よりは開業資金が安い移動販売

キッチンカーとでピザを焼く佐々木さん

いまや、野外イベントで食を担う役割として欠かせない移動販売「キッチンカー」。


開業する人も増え、コロナ禍の間はテイクアウトできる手軽さがもてはやされました。ゼロからの実店舗に比べると開業資金も安く抑えられ、独立を目指す人に注目の業態です。


そこで今回は、函館で焼きたてピザのキッチンカー「ぽこ あ ぽこ」を営む佐々木祐介さんに、開業からこれまでの道のりを伺いました。


佐々木さんは、函館の調理師専門学校を卒業後、5 年間地元の飲食店で勤務。その後、イタリア料理の修行を兼ね、上京してレストランで働き始めたのが、15 年ぐらい前のことです。


「イタリア料理の店には、10 年いました。やがて、日本酒にも興味をもち、日本酒と創作料理のお店で働くようになりました。

そのとき、コロナ禍が直撃しました。事態は収束せず、給料も減っていく一方で、これはまずいと思いました。


実家の事情もあり、故郷の函館に戻ってきました。


戻ってきても、仕事をするなら“食”をやりたいという思いは強くありました。ですが、地元の飲食店に勤めたところで、コロナのせいで潰れる可能性はありました。


そこで目を向けたのが、キッチンカーを 1 人で切り盛りするかたちでした。キッチンカーだったら場所も取らず、自分で好きなところに行けるので、その意味で選択肢は広いかなと思ったのです」

キッチンカーの意外な落とし穴

キッチンカー 店舗より安いとはいえ中古でも 600 万円というキッチンカー

中古キッチンカーで 600 万円:意外と高い導入費用

キッチンカーの開業で一番お金がかかるのが、キッチンカーそのものです。オーナーの考え方にもよりますが、既に所有する車を自力改造、専門業者による改造、移動販売車を新規購入の順に費用は高くなり、改造や新規購入だと数百万円かかります。


佐々木さんは、東京の会社で、中古の軽トラックを新しくキッチンカーに改造してもらう方法をとりました。


「それに 400 万円以上かかりました。くわえて、調理器具、水回り設備、冷蔵庫も合わせるとトータル 600 万円ほどしたでしょうか。キッチンカー自体は 8 年ローンで取得しましたが、実店舗を開業するよりも安いはずです」

開業まで2ヶ月:意外と時間がかかる手続き

「もちろん、キッチンカーさえあれば即開業とはいきません。北海道に引っ越してから、キッチンカーが届くまで待つ日が長く感じました。おまけに、車庫証明が無いとキッチンカーが届けられないのです。その車庫証明が、引っ越してからでない取得できないなど、すごく不便を感じました。


キッチンカーが届いても、保健所での手続きなどあり、北海道に帰ってから開業まで2カ月近くかかったと思います。


そうした準備期間を経て、2021 年 11 月に開業しました」


キッチンカーは、地域内のあちこちに移動して、そこで店を開ける柔軟性が特徴です。営業場所として、ショッピングセンターなどの敷地での「通常出店」と、スポーツイベントやフェスなどでの「イベント出店」があり、どちらも所定の出店料がかかります。


早期にいい場所と出合って、常連客を増やすのが成功のコツですが、佐々木さんが開業した頃は、まだコロナ禍の真っ最中でした。


「開業してすぐにお客さんがつくことを期待しましたが、コロナのさなかで難しかったです。ただ、飲食店と違い、他人との接触機会が最小限なので、その意味ではお客さんの心理的抵抗は少なく、来てくれる人は来てくれました。」

キッチンカーならでは「地域性」の見極め方

キッチンカーの中にはピザ窯が

SNS にも地域性がある:函館はインスタよりツイッター

自分のキッチンカーを知ってもらったきっかけは、SNS の力が大きいと思います。最初はInstagram に力を入れました。やがて函館は、Twitter を見る人が多いらしいと知り、Twitterも始めました。そのおかげで、多くの皆さんに知ってもらいました。


それ以上に影響が大きいのがイベントです。他の地域でもありますが、広場にキッチンカーや屋台を集めた食のイベントが、函館でも年に何回か開催されます。開業してからだいぶ経ちましたが、去年のゴールデンウィークにそうしたイベントがあって参加しました。それで、かなり認知されるようになりました。


それまでは、売上は結構厳しかったのですが、これで希望が見えてきました。

移動販売ならでは競合性:北海道はキッチンカー激戦区

北海道では、札幌や帯広がキッチンカーが多くて激戦区。佐々木さんの営業エリアである道南は、過当競争に巻き込まれず、そこそこ人口のある地域であったことが幸いしました。


ですが、課題はないわけではありませんでした。


「函館の人は、熱しやすく冷めやすいのでしょうか。最初のうちは盛り上がって、たくさん来るのですが、引きも早いんですよね。そこをどうやって、引き止めるかが今後の課題の 1つです。


今は、出店する場所ごとに、何人かの常連さんがついている感じですね。近所から離れたところまで、わざわざ追いかけて来るっていう人は少なく、『家の近くに来てくれたから買いにきた』みたいな感じが結構多いんですよ。」

イベントはルーティンに入れる:季節、場所を把握する

イベントについては、ゴールデンウィークから開催日が増えていき、規模も大きくなります。
例えば直近ですと、五稜郭駅の向かいに広場があって、そこでお子さん向けのイベントが開催されます。そこにキッチンカーが集まり、パフォーマンスもあったりとか、盛り上がります。その後も、夏から秋にかけて、ちょこちょこと行われます。そうした日は書き入れ時となります。冬だと、天候に左右されます。吹雪いた日は、さすがに人は来なくなります。


通常出店の場所確保については、例えばサッポロドラッグストアだと、元々そういうシステムを設けていて、やりやすいです。札幌本社で 1 か月ごとのシフトスケジュールが組んであって、自分が入りたい日を選ぶかたちですね。地域のスーパーなどは、1 か月前に自分から電話をかけてアポを取って交渉します。そういった所は割とあって、お寺でもやったりします。


また、2021 年にスタートした、はこだてマジックアワー商店街というのがあります。何台もの移動販売車が並んで人気が高まっているのですが、そこに自分も毎月参加しています。
こうした取り組みは、とてもうれしいです」

キッチンカーで差別化と強みを発揮する方法

差別化と強みを持てるか:全国でも少ない焼きたてピザ

「ぽこ あ ぽこ」の主力商品は、25 センチ径のピザ。函館は、キッチンカーの競合が少ない上に、ピザを出すところは全国的にも少ないそうです。そこが、差別要因になっていると佐々木さんは語ります。

チーズとろとろの焼きたてピザをキッチンカーで提供(写真/本人提供)

「函館は、ピザ好きな人が多いのが追い風です。定番のわかりやすさで多く売れるのは、マルゲリータですね。そして人気なのが、韓国の肉料理プルコギをモチーフにしたPURUKOGI と、照り焼きチキンを使った TERIYAKI です。本当はナポリピッツァのみを前面に出したいのですが、皆さんの声を聞くと、やや変わり種が人気です。


場所や天気がよくて、売れる日だと 100 枚焼いた事もあります。平日の通常出店は、ならすと 30 枚から 40 枚です。イベント日は、60 枚から 70 枚は普通に売れます。

ワンオペでも焼きたてピザ:ファンの心をつかむ

自分 1 人がワンオペで切り盛りしているので、この仕事は下準備が大事です。手が空いたときは、箱を作り置きしたり……ですが、ピザ自体は作り置きできません。注文されてから、生地を手で伸ばすとこから始まり、素材やトッピングを乗せて、焼きますから。


注文を受けて出来上がるまで 5 分ぐらいかかり、一度に 2 枚までしか焼けません。イベントで、お客さんがたくさん来られると、30 分以上お待たせすることは、ままあります。その場合は、番号札を持っていただき、他のところで回遊をお願いするかたちです。


ちなみに、函館のキッチンカーで多いのは、たこ焼き屋、クレープ屋、それにカレー屋ですね。知り合いで、団子屋さんをしているところがあって、これは珍しいです。ここも、注文が入ってから焼いて温かい状態で渡して、ファンの心をつかんでいます。


コロナ禍の最中に開業して大変でしたが、収益的には自分 1 人が食べていけるくらいになりました。いずれは、実店舗を持ちたいと考えているので、それに向かって少しずつでも資金を貯めていきたいですね」


参考資料:『移動販売の運営術』(平山晋著/同文館出版)

この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

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