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地方創生のビジネスアイデアの作り方地方創生の3つの壁? 当たり前すぎて見落としてしまう魅力に光を当てると、地方ならではの唯一無二のビジネスになる

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地方創生の課題は「何もない」「資源がない」「人がいない」だが、目線を変えると見えてくる魅力がある。北海道南部の都市、函館でカヌーツアー業をスタートした中田弥幸さん。地元の人にも認知されていなかった絶好のカヌー事業で起業。

プロフィール

インタビュアー、スタートアップ広報中村優子

(なかむら・ゆうこ)元テレビ局アナウンサー、インタビュアー、スタートアップ広報。作家・林真理子さんのYouTubeチャンネル「マリコ書房」、および著者インタビューサイト「本TUBE」を運営。インタビュー動画の企画から出演、編集まで一人でこなす。年100本以上の動画制作に関わる。2022年、スタートアップ広報の会社を設立。

高校時代からカヌーの魅力にハマる

地方には眠っているお宝がある。その価値を再発見したことでビジネスアイデアがうまれることも?子供のころから大好きだったカヌーで慣れ親しんだ地元の川。当時はわからなかった美しい川でのカヌーを体験してもらいたい一心で始めたツアーガイド。しかし道のりは簡単ではありませんでした。

HAKODATE ADVENTURE TOUR 代表の中田弥幸(なかたひろゆき)さんは、函館市で主にカヌーツアーを主催しています。2020 年に開業届けを出し、今年で 3 年目。地元の人の遊び場として、そして、函館の魅力を再認識してもらうきっかけになればという思いから開業しました。


中田さんのカヌーとの出会いは、高校時代にまでさかのぼります。


「高校時代に、函館から近い大沼公園で、カヌーのアルバイトを始めたのが、カヌーを知るきっかけです。同級生のお父さんが大沼に住んでいたのですが、夏休みにそこに泊まりに行って、グダグダしてたのですね。そしたら、そのお父さんが『仕事しろ』と言ってきて、紹介されたのが、現地でカヌーツアーをするところだったんですね。


それでカヌー人生が始まりました。最初は、お客さんが使う道具を用意したり、コップを洗ったりとかサポート役でした。『漕げるようにもなりたい』と思って、早朝や仕事が終わってから、漕ぐ練習をしました。高校 3 年になった頃には、アシスタントでツアーガイドもしていました。そしてそのまま就職しました。だから、就職活動はしたことなくて、ただ一生懸命やりたいことやってたら、就職に繋がったっていうだけです」

以前は価値を見出せなかった川のすごさに気づく

函館市民も知らない汐泊川の魅力にきづいた中田さん(本人提供)

中田さんの、順風満帆と思えたカヌー人生に暗雲が立ち込めたのは、22 歳のとき。交通事故に遭って重傷を負い、3 年ぐらい入退院を繰り返しました。リハビリも長く、カヌーの仕事を辞めざるをえませんでした。それから8年ぐらいは、好きなアウトドアが本格的にはできなかったそうです。その間は、リハビリを兼ねて、とび職をして収入を得ていました。今の事業につながる場所との最初の出合いは、その頃です。


「当時、今のフィールドである汐泊川(しおどまりがわ)に行ったことがあります。その頃は、特にこれといって感慨は無かったのですね。それが、いろいろ経験を積んだ大人になって再訪したとき、『すごい綺麗だな』と思って。『なんでこの川の素晴らしさを誰も発信していないんだろう』って」


子供のころは当たり前のことが、大人になって、また事故でカヌーから離れたことで少し目線が変わったのでしょうか、その価値を再発見できたのです。

再びカヌービジネスを思いつくも「開業の壁」

これを守っていくにはどうしたらいいかな。この地域を、もしかしたらここで盛り上げられるかな』と思いがあふれて、この川を舞台にカヌーの仕事をしようと決意しました。といっても、漁師さんの漁業権があったり、スタートまで結構大変だったんですよ」


紆余曲折あり、汐泊川でのカヌーガイド事業が実現化するまで3年ぐらいかかったそうです。

函館市内の市街地を離れたところを流れる汐泊川(本人提供)

開業はできても「認知度の壁」

そして、いざスタートしても、よもや函館市内にカヌーができるところがあるとは、地元の人も知らず、認知度を高めるという課題が立ちはだかります。

「地元の人だと、友達の友達という紹介の連鎖で、広がっていくパターンが多いです。リピーターも意外と多く、5、6 回参加された方もいます。


そうした口コミと、公式ホームページと SNS が広報のメインです。お客さんに『どうやってうちを発見したんですか?』と聞くと、『いやぁ、結構検索したりして探しました』と答えが返ってくることが多いです。


函館に住んでいる人でも、『函館には自然もあるのに、自然を体験できる遊びないよね』って言う人が少なくないです。ある参加者は、地元の人から『明日の休み、何やるんだ』って言われて、『カヌーやる』って言ったら、『詐欺に遭ってるぞ。そんな場所は函館にないぞ』って返答されたそうです」

魅力満載の函館ならではの「競合の壁」

しかし、それも函館カヌーの追い風になると確信したそうです。


「地元の方も知らない世界を紹介しているのですから、この事業の可能性は大きい。参加するお客さんも、テンション上がりますよね。ただ、函館には食文化や歴史など、観光の目玉がいくつもあります。その中で、どうやったら同じくらい魅力を発信できるのか。それを考えている段階ですね」


とはいえ、函館市は、1980 年代は約 34 万人いた人口が、今では約 24 万人にまで減っています。大規模小売店の廃業・撤退も相次ぐ、典型的な過疎の街なのです。そんな現実があるなか、中田さんは、どのように事業を展開していくのか? その点を伺いました。

地方都市が抱える課題解決がビジネスにつながる?

「知名度がある企業や店でも潰れているし、僕らの規模のようなちっちゃい会社も、潰れているところはいっぱいあります」と地方都市の課題を語ってくれました。


「でも、そのぶん新しい芽が入ってくるのですが、 それだと“点”の集まりばかり。点と点が繋がって線になり、面にならないと、広がりができず一向に盛り上がりません。それについては、その道のプロたちが、地元でしっかり舵を切れるようにならないと。
それ以前に、【函館の街が好き】って事が一番大切だと思います。業種が違えども、発信者側は全員共通しなければならないフレーズだと思っています。


函館には、飛行機、新幹線、フェリーがあり、アクセスがいい。食べ物が美味しいから、食べに来るためだけに訪れる人もいます。ただ、観光で人が集中するのは、函館駅周辺から函館山近辺と五稜郭界隈だけという流れをすごく変えたいです。ツアーガイドをしていて、『飽きた』ってお客さんに言われますから、そこは痛感しています。恵まれ過ぎた環境だからこそキズかない部分が大きいです。ただ、ビジネスだけで盛り上げるのか。どうやって一人一人が地域活性化に事業を繋げていけるかが大切だと思います。


こちらも工夫して、『せっかく来るんだったら 2 泊したいんだけど』という方に、オーダーメイドで 1 日かかるツアーガイドプランを提案し、そこにカヌー体験も含める。『いや~、こんなとことは知らなかった。これだったら 3 泊しても時間足りないわ』って、みんな喜んでくれるわけですよ。


僕は、“函館ルーレット”と呼んでいますが、『地域をどう回すか』かを念頭に置いて、このように工夫しています。まずは地元を知る事、そして体験、経験談をしてお客様にお話しています。横の繋がりのネットワークを生かしてその人にあったプランを提案しています。
こうした、点と点を繋ぐのは大変な作業で、理想までの道のりは長そうです。マイナス 100ぐらいからスタートだったので」


天候が悪くカヌーツアーがデキないときは、あそこに行って、あそこに行くと良いですよ~的なお話を沢山出来るようになりたいですね。全て信頼関係で繋がって行く事により自信を持って様々な施設へとご案内ができます。隅から隅まで回ってほしいですね。知らないって損していますね。

この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

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