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話し方

「上手に話さなくてもいい?」長澤まさみにアナウンス指導を行ったフリーアナウンサー・佐藤千晶に聞いた意外な話し方のコツ

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フリーアナウンサーの佐藤千晶さん。I am読者のために、話し方のコツを伝授

「好きなことを仕事にする」ときに必要になるのが、自分の思いや仕事を相手に伝えるということ。話下手な人はどうすればいいのか。ドラマのアナウンス指導や話し方教室で講師も務める、フリーアナウンサーの佐藤千晶さんに話し方のコツを伺いました。

自分の話し方の癖を知ることが大切

自己像と客観像の違いを可視化する

私が講師を務める話し方講座では、自分の癖を知ることから始めています。自分が喋っている姿を見る機会ってあまりないと思いますので、まずは、1分で自分の仕事ややっていることについて紹介する動画を撮ってみてください。自分が話している動画を見るだけでものすごくたくさんの気づきが生まれると思います。自分が思っているよりも表情が硬いとか、声が出てないなとか、覇気がないなどです。

表情筋を鍛えることも大事

ここ数年はコロナ禍の影響もあって「口の省エネ化」が進んでいるように感じます。マスクをしていると口をもごもごしてしまいますし、表情筋をあまり使わないから滑舌が悪くなっているように思います。口周りの筋トレをすると滑舌や発声はすごく変わるので、口周りの筋トレをぜひやってみてください。

上手く話す以前の「緊張」の対処法

緊張はどなたでもします。やはり、人間だって動物ですから防衛本能があって緊張して当たり前だと考えてください。「誰でも緊張するのだから」と捉えて、自分に意識を向けすぎずに、相手に対して意識を向けることです。

緊張を解く方法は「相手に意識を移す」

何か伝えたいものがあるときには、「上手に話すこと」を目的にするのではなく、「伝えたいことがきちんと伝わること」を目的にして相手に向き合うことが大切です。緊張してしまうときこそ、軸足を自分ではなく伝える相手にすることを意識してみてください。「おはようございます!」の挨拶ひとつとっても、相手に対して気持ちよく挨拶をしようと思うと自然と笑顔で優しく、軽やかになります。

「大好きなあの人」を思い浮かべる

「どうしても緊張してしまう」「うまくやらなくてはと焦ってしまう」という人は、自分が安心して話せる家族やパートナーなどをイメージしてみてください。そして、相手が目の前にいる想定で話してみましょう。

私も新人の頃は、カメラの向こうに自分の祖母が座っていると言う気持ちでやっていました。何より、目の前に座っているのが祖母だと思うと安心しますし、上手に話そうとするよりも、「祖母に伝わるようにゆっくり話そう」とか「今のでちゃんと伝わってるかな」と考えながら話すことができました。

言葉は相手が受け取りやすいように投げる

常に伝える対象、相手のことを考えていると、話すだけでなく、聞くということも上手にできるようになります。言葉のキャッチボールと言われるように、やりとりが大事。ただ言葉のボールを相手に投げるだけでなく、相手が投げた球を取りやすいように懐に投げたり、相手からの球をきちんと正面でキャッチしたりすることが大事。「上手に話そう」と努力するよりも、「伝わるように思いやる」。そうすることで、自然と聞き上手になれますし、自然と話し上手にもなれると思います。

話すのが苦手な人におすすめの「準備」

一番効果的な準備は「音読」

事前の準備は自信と安心材料になります。できるだけ実際の話す場をリアルに想像して本番に挑むことは大切ですね。準備の中でも一番大切なのは、実は「音読」です。多くの人は話すための資料作りに邁進しがち。そして、できあがった原稿を黙読する人が多いのですが、話すために準備しているので、ここは実際に原稿を読んでみてください。黙読して頭の中で再生している速度と実際に口に出して喋る速度は全く違います。頭で考えた1分、文章で読んだ1分って、話してみると意外に短かったりするんです。

また、実際に声に出して読んでみると、読んでいて突っかかるところがあったりしますし、伝わりにくいかも、と気づくこともあります。ぜひ、準備した原稿を事前に音読するようにしてください。

オンラインではアイスブレイクの準備を

オンラインでもやっぱり双方向のコミュニケーションが大切です。どうしても受動的になりやすいので、積極的に参加してもらう努力は必要だと思います。ZOOMであればスタンプマークを使ってもらう。「今日朝ごはん食べましたか?」などの簡単な質問でいいので、いくつかのアイスブレイクを用意しておくといいですね。また、自分から声をかけていくのも良いと思います。「田中さんどうですか?」みたいな感じで。そうすると、双方向の言葉のキャッチボールになってきます。それから、基本的にポジティブにめげずに「相手が聞いている」と思ってやることも大切です。

伝わるコツは意外とシンプル「伝えたいことから短く伝える」

1つの文章がコンパクトにまとまるように話すことが大切です。目安としては1つの文章が60文字を超えないこと。それ以上になると、相手が認知しにくくなると言われています。
例えば、私が自己紹介をするとして、

「私の出身はリアス式海岸で有名な東北では有数の漁港のカツオとかサンマとかで有名な宮城県気仙沼市です」

と言うと記憶に残らないんです。
私が一番伝えたかったのは「宮城県気仙沼市出身」と言うこと。だからこれを、

「私の出身は宮城県気仙沼市です。カツオやサンマで有名です」

と言うとどうでしょうか。気仙沼市が印象に残りませんか?

想いが強い時ほど、短く・優先順位を大切に

多くの場合、伝えたい思いが強すぎて、どうしても1文が長くなってしまうんです。「でも、あれもこれも伝えたい!」と思って全部詰め込んでしまうと逆に人の印象に残らなくなると言うことも忘れないようにしましょう。伝えたいことに優先順位をつけて、短い文章で伝えられるように事前に、「思いを整頓」しておきましょう。

繰り返しになりますが、喋りのときは、文章を書くよりも1つの文を短くして、最初に伝えたいことをわかりやすく伝えるようにしてください。そうすることで、一番伝えたかったことがしっかり伝わるようになります。

大勢の前で話すときはキーパーソンを見つける

他力本願の法則「ノリのいい人を味方につける」

壇上など大人数の前で話すときは必ず、見ている人の中でノリのいい方、反応の言い方を探します。聞き上手な方は必ずいますから、そういう人を見つけたら、その人をたまに見ながら話すと、「あ、聞いてくれている」と感じて安心できます。私も色々な地域で講演をしてきましたが、ノリの良さって地域性もすごくあります。ある地域ではものすごく皆さんノリノリで聞いてくれているけれど、ある地域は全く顔に出ずに反応も薄いと言うこともあります。

ノリが悪ければ「相手も恥ずかしいと解釈する」

会場のノリが悪いときは「大丈夫かな」と思いながらもめげずにやります(笑)。ただ、伝わる努力はします。以前、反応が薄いなと思うことがあって、質疑応答でも手が上がらなかったことがあります。最後に「質問がある方はぜひ来てくださいね」と伝えたら、終わった後で30人くらい質問の列ができて……。「ああ、ちゃんと聞いてくれていたんだな」って思いました。周りを気にして前のめりにノリノリで聞くことに気後れしている人が多いこともあります。「話す内容が面白くないのかな」と落ち込みすぎず、前向きに捉えたいですね。

自分のアイデンティティと強みを見つければ夢は叶う

「好きなことを仕事にしたい」という思いがあれば頑張れる

新人の頃の反省のひとつとして、方言が自分に馴染みすぎていて、気がつかず、アナウンサーとして伝える時にも出てしまっていたのことがあります。そもそも、訛っていることに気づいていなかったので「え?そんなに訛ってる?」って驚きました。

言葉だけでなくメイクや歩き方など、アドバイスをいただけばいただくほど話すのが怖くて、「テレビに出ている自分を見たくない」と思うこともあったんです。それでもやめずに続けてこれたのは、やっぱり「好きこそ物の上手なれ」だったと思います。好きだったからとにかく練習をしましたし、努力は自分と向き合うことそのものでした。

地方出身も方言も大切なアイデンティティ

ただ、ずっと方言に対するネガティブな思いは一切なくて。私にとっては大切なもので、大事なアイデンティティ。故郷の言葉も想いを伝える大切なものだと思っていたので、最初から「私は、気仙沼弁と共通語のバイリンガルになりたい」と周囲に話していました。

今は、気仙沼弁と共通語のバイリンガルになれたな、と思っています(笑)。

実際仕事でも役に立ったことがたくさんあります。地元の方のインタビューでは、共通語で話すより、地元の言葉で話した方が、色々お話してくれたりしました。

あとは気仙沼が舞台になったNHKの朝ドラ「おかえりモネ」で宮城ことば指導をお手伝いさせてもらいました。気仙沼の言葉と音のニュアンスと共通語との違いがわかることで、教える時に少しお役に立てたかなと思っています。

全ての苦手を克服しようとしなくていい

「好きなことを仕事にしたい」と思うとき、努力は要所要所で必要だと思いますが、話し方については、自分のクセや弱点がわかって落ち込んでも、全てを直そうと思わなくてもいいと思うんです。人間ですから、全てを排除しようとしなくてもいい。

いずれは、そのクセも弱点も、強みになって帰ってきます。

ただ、「自分の話し方だと伝わりにくいかな」と、気づいたら変わっていきますし、それが相手を思いやって話すことにつながります。

まずは気づきを大切にしてみてください。

「クセも弱点もいずれ自分の強みになるから」

Profile

佐藤千晶(さとう・ちあき)宮城県気仙沼市出身。2008年に東日本放送(KHB)に入社。2010年にドキュメンタリー『遠洋にマグロを追って』のナレーションで「第9回ANNアナウンサー賞」の「原稿のあるもの部門」で優秀賞を獲得。2011年に名古屋テレビ放送に移籍し、2014年にフリーアナウンサーに。近年はドラマのアナウンス指導を務めるなど、アナウンス指導や話し方教室の講師としても活動をしている。

この記事を書いた人

MARU
MARU編集・ライティング
猫を愛する物書き。独立して20年。文章で大事にしているのはリズム感。人生の選択の基準は、楽しいか、面白いかどうか。強み:ノンジャンルで媒体を問わずに書けること、編集もできること。弱み:大雑把で細かい作業が苦手。

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